清水宏太氏(通称:清水れみお)は、2025年4月に初の著書『コーディング不要で毎日の仕事が5倍速くなる!Difyで作る生成AIアプリ完全入門』(日経BP)を出版しました。AIとはまったく別の業界から未経験で転身を図った清水氏。本記事では、未経験の状態から、どうやってAIを仕事にして、AIの専門書を書くまでに至ったかについて語ってもらいました。ここ数年のAIの進化を振り返りながら、同氏は「今、AIをやらなきゃ損」と力説します。

インフラ系の施工会社からキャリアをスタート

 私はもともとAIやデータサイエンスに関わっていたわけではなくて、以前は通信インフラの工事の仕事に携わっていました。

 子どものころは勉強が嫌いで、それで楽そうだという勝手な先入観で高専に進学したのですが、入ってみたらものすごく勉強しなければいけなくて。当時は「こんなはずじゃなかった」と思いました。そこで電気・電子系を学んで、卒業後は「安定した職につきたいな」とぼんやり思っていたんです。

 卒業後の進路としては、まずは電力会社が人気でした。でも、それは優秀な人から埋まっていきます。その次がNTTやKDDIなどの通信会社。当時はちょうどiPhone 4や4Sが出たころで、スマホが爆発的に普及して「これからはネットワークとスマホだ」ということで、LTEや5Gのアンテナを建てる通信建設系の会社に就職しました。

 アンテナ工事の施主側として、仕様決定から発注、工程・品質管理などを担当していました。現場は、ビルの屋上でアンテナを設置するような仕事です。現場は勢いがあって、怒号が飛び交うような活気がありました。そんな中で自分の色を出そうと奮闘しましたが、7年ほどたったころに調子を崩してしまって。一度休職したことを機に、転職を考え始めました。

未経験から転職を決意した、AIとの出会い

 NTTドコモが研究開発などを発表する「DOCOMO Open House」というイベントがあって、勉強のためによく参加していました。2018年の終わりごろだったか、そこで初めてAIに出会ったんです。イベントでは、AIが店内の人の動きを観察して購入意思の有無を判断するようなプロジェクトや、文章の要約ができるプロジェクトが展示されていました。もちろん、文章の要約などは今とは比べものにならない精度だったのですが、当時はかなり衝撃的でした。

 なかでも決め手になったのが、落合陽一さんの講演でした。確か、5GとIoT、AIを絡めた講演で、それぞれ「5Gは神経、IoTは手、そしてAIが脳」と人体に例えて技術が連携する未来を語られており「これは絶対に面白い」と直感しました。そこで「転職するならAIを仕事にしたい」と気持ちが固まりました。

 でも、転職活動は難航しました。当時は「AI = データサイエンティスト」という感じで、募集自体も少なくて。未経験でIT系でもなかった私にはどうにもなりませんでした。それで結局、通信系のインフラシェアリングを扱う会社に転職して、数年を過ごしました。

 そんな中、2022年11月にOpenAIがChatGPTのサービスを開始します。当時は社内でも自分くらいしか触っていませんでしたが、どんどん大きなニュースになっていって。ここでAIへの気持ちが再燃して「今しかない」と、勢いに任せて退職しました。

コミュニティにどっぷり漬かった1年間

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 それでも、まだAI系の会社は多くありませんでしたし、私が未経験である状況も変わりません。それで、退職後にAI系の勉強会などのコミュニティに飛び込んで、1年間どっぷりと愚直に勉強しました。

 IT系って、エンジニアの方が頻繁に勉強会やイベントを開いているじゃないですか。利益のためではなく「勉強したい」という思いから、自分たちのお金や時間を使って、機会を提供する。利他的というか、これまでいた業界では考えられないことです。

 バックグラウンドがなくても「勉強したい」という強い思いさえあれば、歓迎してもらえます。それで「生成AI」とか「LLM」と名の付くイベントにはできる範囲で全部参加して、一からのつもりで猛勉強しました。だんだんと顔見知りや仲間も増えて、オフラインの熱量を肌で感じたことも、モチベーションの維持に影響したと思います。

コミュニティでの活動が転身の突破口に

 並行してエージェントなどに登録して転職活動も続けていましたが、相変わらず難航しました。書類はエージェント経由のものを含めると500社くらいに送ったんじゃないでしょうか。それでも面接まで行ったのは、10社とかそのくらいで。やっぱりデータサイエンスや自然言語処理のバックグラウンドがないと厳しい状況でした。

 AI系のイベントで活動する傍ら、高専人会という高専出身者の会があって、生成AIの部活を立ち上げたりもしていました。そこで「社内向けの生成AI導入・浸透と、高専の生徒向けに生成AIの授業をやってみないか」と話をいただいて、業務委託として請け負うことになりました。

 これをきっかけに何社かで仕事をさせていただくようになり、あれだけ苦戦していた「AIを仕事にする」ことの突破口になりました。その仕事は今でも続けていて、今は3社で生成AIとエージェントを扱う業務をしています。

「今」AIをやらないともったいない!

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 AIの進化や幅の広がりは今後も想像がつかなくて、本当に楽しみだと思います。でも、その楽しさは、自分でやってみないとわかりません。

 今回書籍を出した「Dify」は、難しいコードをいっさい書かずに、誰でもAIアプリを作れます。正直「自分が勉強で苦しんでいたころに、Difyがあれば……」という悔しい気持ちもありますが、その経験があるからこそ、執筆の原動力にもなりました。

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 最先端のAIのトレンドをエンジニアでなくても体験できるのは、すごいことだと思います。「AIでこういうことがやりたい」というアイデアさえあれば、熱量が高いままイメージどおりのものが作れます。

 今は、人類の歴史の中でも大きな進化のまっただなかにあると思っています。それをお金も時間もかけずに体験できるのですから「AIをやらないのは損」だと思います。

 あらゆる業界でAIの導入が急速に進む中、自身でもAIに触れることはもはや必須だと思います。仕事に活用してもいいですし、プライベートで楽しんでも構いません。

 もし興味が湧けば、コミュニティに参加するのもおすすめします。知識がなくても臆することはありません。横柄な態度を取らずに「勉強したい」という気持ちで参加すれば、抵抗なく受け入れてもらえるでしょう。

 執筆した書籍『コーディング不要で毎日の仕事が5倍速くなる!Difyで作る生成AIアプリ完全入門』では「エンジニアではない普通の人」に向けた解説にこだわりました。すでにいろいろなツールを触っている人にとっては、少し簡単に感じるかもしれません。でも、生成AIの面白さを必ず感じていただけるはずです。

 本書やDifyが、生成AIの世界に踏み出すきっかけとなれば幸いです。今、最先端のテクノロジーに触れるチャンスは決して特別なものではありません。「500社に落ちた私」でもできたのですから、きっと誰にでも可能性はあると信じています。

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取材、構成、写真:西 倫英=日経BOOKSユニット第2編集部

DifyはノーコードでAIアプリを作れるサービス。本書では、OpenAIのChatGPTを活用した仕事に使えるアプリを作りながら、Difyの使い方を学びます。営業メールや電話のトークスクリプトを作るシンプルなアプリから、領収書の写真をアップするだけで必要項目を抜き出してくれたり、複雑な分岐をして稟議(りんぎ)が通るよう相談に乗ってくれるアプリなど、実務で使えるアプリを多数紹介します。

吉田真吾、清水宏太(著)、日経BP、2970円(税込み)