春夏秋冬、季節ごとにお届けしております「手前みそ」企画。2024年夏も、ぜひお読みいただきたい「日経の本」を全力でご紹介してまいります。推し担当は、「日経の本」の作り手が30人以上も所属する日経BOOKSユニット第1編集部を率いる赤木裕介部長。聞き手は日経BOOKプラスの常陸佐矢佳編集長が務めます。
常陸佐矢佳(以下、常陸):クールな印象とは裏腹に、書籍に関しては誰よりも情熱的と評判の赤木部長に、夏の読書にピッタリの「日経の本」をお薦めいただきます。トップバッターはどんな本でしょうか。
赤木裕介(以下、赤木):はい、暑さに負けず熱くご紹介していきます!
まず、ヒット街道ばく進中の『 「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策 』です。中公新書の『言語の本質』がベストセラーになった今井むつみさんの書き下ろし最新作です。
後輩や部下、上司に何回話しても理解してもらえない、子供が言うことを聞かない、なんていうお悩み、みなさんお持ちのことでしょう。普通だと「言い方を工夫しましょう」ということになると思うのですが、この本はひと味違います。
「人は、そもそも聞き逃し、都合よく解釈し、誤解し、忘れる」存在なんだから、そのことを前提にコミュニケーションをとりましょう、ということを教えてくれます。そう考えると、そもそも伝わらないのは当たり前なんだから、カリカリせずにやっていこう、とちょっと心が軽くなってきますよ。
常陸:認知科学の第一人者、今井むつみさんによるこの本、タイトルが絶妙ですよね。みんな思い当たる節があるから、つい手に取ってしまうのではないでしょうか。日経BOOKプラスでも冒頭の「はじめに」を紹介した記事がとてもよく読まれました。それにしても、発売2カ月で8万部を突破とはすごいですね。勢いは衰えず、まさに"熱い”一冊ですね。
リーダーを目指す人のための本
赤木:続いて、リーダーを目指すみなさんに役立つ本をご紹介していきましょう。
ベストセラー『他者と働く』の著者、宇田川元一さんの最新作が『 企業変革のジレンマ 「構造的無能化」はなぜ起きるのか 』です。
変革というと劇的な会社再生ドラマを思い浮かべますが、多くの企業はそんな劇薬を必要としません。優秀な人たちが集まっているはずなのに、過去の体験や成功にとらわれて、思い切った決断ができない。このままではいずれじり貧になると思っていても、自部門の目先の業績に追われているうちに、なし崩しに時だけ過ぎてしまう…。そして、気付くと手遅れ、なぜか集団で「無能化」してしまう仕組みを、本書では鮮やかに解明してくれます。
環境の変化に乗り遅れ、足元が徐々に崩れていってしまうような状態をどのように乗り越えるのか。すべての組織が抱える課題に切り込んだ意欲作です。「うちの会社はなぜダメなのか」が少しだけ分かるようになる本です。
常陸:気鋭の経営学者・宇田川さんの新刊ですね。この本が多くのビジネスパーソンに刺さっている理由もまた、企業が抱える「ジレンマ」にやはり共感できる節があるからでしょうね。私も読んでいて「まさに!」と膝を打ち続けました。
ところで今夏注目のイベントといえば、パリ五輪。いよいよ開幕目前ですね。観戦がより楽しくなるお薦めの本はありますか?
赤木:オリンピック・パラリンピック(以下五輪)では、48年ぶりに自力での出場を決めた男子バスケットボールが熱いですよね! 現在は男子日本代表のヘッドコーチで、東京五輪では女子日本代表ヘッドコーチとして銀メダルに導いたトム・ホーバスさんの著書が『 スーパーチームをつくる! 最短・最速で目標を達成する組織マネジメント 』です。
男子/女子日本代表が挑んだ厳しい戦いの裏で何があったのか、スポーツファンなら見逃せない内容が描かれています。さらに「チームビルディング」「チームマネジメント」の手法をホーバスさんが自ら明かし、ビジネスパーソンにも役立つヒントが満載です。「第ゼロ感」をBGMにパリ五輪を熱く応援しながら、そのリーダーシップの本質に触れてみてはいかがでしょうか。
常陸:熱い指導で知られるホーバスさんの本は、五輪観戦のお供によさそうですね。日経BOOKプラスでも本の一部が読める「スーパーチームをつくる!~最短・最速で目標を達成する組織マネジメント~」が大好評でした。
常陸:リーダーといえば、名著『町工場の娘』著者でダイヤ精機社長の諏訪貴子さんも独自のリーダー論が人気の経営者ですが、新しく『町工場の星』を出されたんですよね。
赤木:そうなんです。『町工場の娘』は、NHKで連続テレビドラマとなった話題作ですので、覚えていらっしゃる方も多いことでしょう(ドラマタイトルは「マチ工場のオンナ」)。この本を文庫化するとともに、新刊の『町工場の星』も刊行しました。
日経ビジネス人文庫『 町工場の娘 主婦から社長になった2代目の10年戦争 』は、創業社長である父親が急逝したために、主婦から2代目社長に突然就任することになった諏訪さんの奮戦記であり、経営者としての成長物語として、多くのみなさんに支持されました。
新作『 町工場の星 「人が辞めない最高の職人集団」全員参加経営の秘密 』では、人手不足の時代にあって、みんなが辞めずに生き生きと働いてくれる組織づくりのノウハウを教えてくれます。人材の採用から育成、コミュニケーションのあり方まで、多くの企業にとって参考になる一冊です。
常陸:2013年に日経WOMANのウーマン・オブ・ザ・イヤー大賞を受賞された際、授賞式に参加された社員の方の誇らしげな笑顔が印象的でした。『町工場の星』、組織づくりに迷う人には手に取ってほしい本ですね。諏訪さんにお薦め本を聞いた連載「諏訪貴子 町工場経営をする私の本の使い方」も読んでほしいです。
夏休みに読みたい「本格派」
常陸:さて、まとめて時間が取れる夏休みに、長編、大作に思い切って挑戦するならどんな本がお薦めですか?
赤木:まずは世界的ベストセラー『マネー・ボール』の著者、マイケル・ルイスさんの最新作である『 1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊 』は外せないですね!
史上最大級の金融詐欺事件ともいわれる暗号資産取引所FTXの破綻については、報道でご存じの方も多いかと思います。そのFTXの共同創業者で、かつては「暗号資産の王」としてもてはやされた天才・サム・バンクマン・フリードは、いかにして成功への道を駆け上がり、転落したのか。その真相に迫る傑作ノンフィクションです。
理想を夢見る天才なのか、ペテン師なのか。複雑な暗号資産の仕組みを自在に駆使しながらも、驚くほどずさんな組織運営。いったい、この「時代の寵児(ちょうじ)」は何者だったのか、その正体にあのマイケル・ルイスが迫るのですから、面白くないはずがありません。「金融には興味ないな」と食わず嫌いせず、ぜひ手に取ってみてください。
続いてご紹介するのが『 20世紀経済史 ユートピアへの緩慢な歩み 』です。上下2巻の骨太なタイトルです。
アメリカの人気ブロガーで経済学者のブラッドフォード・デロングさんが、経済成長、ファシズムとナチズム、2度の世界大戦などが起こった1870年から2010年までを「長い20世紀」と定義し、「ユートピアへの2度の接近と挫折」として人類史に位置づけたビッグヒストリーが本書『20世紀経済史』です。
豊かさとは何か。「経済」が急速に発展し、人類がその理想にたどりつくかと夢想した20世紀を、ハイエク、マルクス、ケインズらの経済思想にも焦点を当てながら読み解きます。『サピエンス全史』『銃・病原菌・鉄』などの壮大な歴史ものが好きな読者なら、見逃せないタイトルです。
我々の生活でも身近な金利ですが、かつてはキリスト教で利息が禁じられるなど、「嫌われる存在」でした。そんな利息はどうやって経済における重要な存在となり、適正な金利を見極めるためにどんな試行錯誤が続けられてきたのか。古代バビロニアの時代から現代のマイナス金利まで、5000年におよぶ変化の歴史を豊富なエピソードを満載して描きます。日本のバブルや超低金利政策の問題も大きく取り上げ、現代の金融政策にも警鐘を鳴らす、読み応えのある力作です。
常陸:どの本もテーマの背景にある歴史を丁寧に描き出していて、時間をかける価値のある本ばかりですね。『金利』はなんと624ページ! 暑い夏、厚い一冊にぜひ挑戦していただきたいです。
「忙しくてそこまでは読書の時間が取れない」というビジネスパーソンにはどんな本がお薦めですか。
時事データをサクッと押さえる
赤木:『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が話題になっていますが、忙しいとなかなか活字が縁遠くなってしまいますよね。そんな方にこそお薦め、今を読み解く3冊をご紹介しましょう。
まず、日経プレミアシリーズ『 弱い円の正体 仮面の黒字国・日本 』です。長引く円安の正体は日本経済の構造変化にあり、そう簡単にこの状況は変わらない、と本書は教えてくれます。統計上の数字からは見えてこない外貨の流出。その原因を「デジタル赤字」「コンサル赤字」「研究開発赤字」の3つの赤字から読み解きます。
アマゾンのクラウドサービスを使うとか、話題のChatGPTを活用する、といったビジネススタイルが、デジタル赤字の要因の1つになっているわけですが、もはやそうしたサービス抜きではビジネスは成り立ちません。まずは、こうした真実を見つめることから始めよう、と本書では教えてくれます。
一方、日経平均株価はついにバブルを超え、4万円の大台に乗せました。バブル崩壊後の就職氷河期から働き始めた私の世代だと、歴史の節目に立ち会ったような感慨があるのではないでしょうか。『 日本株 黄金の時代が始まる 』では、38年にわたってマーケットを取材してきた日本経済新聞の編集委員が、これからの株式市場を読み解きます。
実は海外からは意外と評価の悪くない日本企業。そのポテンシャルから考えれば、日経平均はまだまだ上昇してもおかしくない、と語ります。NISA・iDeCoの盛り上がりでマネー本コーナーも活況を呈していますが、長期的な見方を養うためにも、本書を参考にしてはいかがでしょうか。
本書のきっかけになったのは、「生涯子供なし、日本突出 50歳の女性の27%」という記事で、公開されるやいなやSNSで大反響を呼びました。少子化の議論は、ともすれば子供がいる人・いない人の対立構造をつくりかねませんし、どちらの立場から見ても「モヤっとする」ものになりがちです。本書は、それぞれの事情を丁寧に取材しながら、日本社会が構造的に抱える問題に光を当てています。
常陸:時事テーマの背景にしっかり迫り、考察を深めるきっかけになるセレクトですね。3冊ともコンパクトにまとまっているので、「夏バテ気味」という人も手に取りやすそうです。
赤木:そうですね。私もパリ五輪を見て、尿酸値に注意しながらビールを飲んで、好きな本を読むぜいたくな夏を過ごしたいと思います。











