人気企業の秘密から業界の最新動向まで、日経BPは多くのビジネス書を刊行している。企業・業界分析、投資、就活の定番書である『日経業界地図』で大枠をつかんだあと、次にどの本を読めばいいのか。「企業研究編」「業界研究編」に分けて、日経BPの書籍部門で部長を務める赤木裕介が紹介する。
【企業研究編】
ハード×コンテンツ一体で新たな成長へ
マイナビと日本経済新聞社による2026年卒の大学生就職企業人気ランキング、理系総合の1位が「ソニーグループ」だ。『 ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」 』(日経ビジネス人文庫)は、経営を立て直した元社長、平井一夫氏が自らその体験を語った1冊である。
「ウォークマン」や「トリニトロン」で世界に冠たる電機メーカーとなったソニー。しかし、2012年3月期に5000億円を超える大赤字を計上し、存亡の危機にあった。
平井氏はCBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)からそのキャリアをスタートさせており、電機中心だったソニー経営陣においては異端だった。そんな平井氏だからこそ、ハード中心からエンタメ・コンテンツと一体化した企業への転換を推進し、見事再生を果たしたといえるだろう。
プレイステーション誕生秘話などのエピソードも充実した、胸が熱くなる逆転物語だ。
破天荒すぎる社長の、緻密な小売戦略
マイナビと日本経済新聞社による2026年卒の大学生就職企業人気ランキング、文系総合の1位が「ニトリホールディングス」。その創業者・似鳥昭雄氏の破天荒すぎる一代記が『 運は創るもの 私の履歴書 』だ。
いわゆる落ちこぼれだった似鳥氏は、社会人になっても契約が取れず、「営業マン失格」の烙印(らくいん)を押されて半年で解雇されてしまう。一念発起して立ち上げた家具店の道のりも平坦ではなく、営業部長による商品横流しに苦しめられたり、中途採用の社員たちに会社を乗っとられそうになったりする。
そんな苦難を乗り越えながら、28期連続増収増益(刊行当時。その後36期まで記録は伸びた)を達成する優良企業へと成長できた秘密を明かすのが本書である。小売業を志望する方であれば必読といえるだろう。
「商売で本当に大切なこと」がここにある
就活生に人気の商社。その中でも、近年猛烈な勢いで存在感を増しているのが伊藤忠商事だ。『 ひとりの商人 岡藤正広 私の履歴書 』は、伊藤忠の中興の祖である岡藤正広氏の半生記である。
入社当初、生意気な若手だった著者は、「岡藤は使えない」との辛辣な評価を受けてしまう。そんなどん底で出会った営業の師の背中から学んだのは、顧客に合わせて柔軟に姿を変える「商人は水であれ」、そして「商人は諦めない」という教えだった。
さらに、ただの御用聞きではなく、いかに付加価値の高い商売をするかということを考え抜き、ブランドビジネスにたどりつく。イヴ・サンローランやジョルジオ・アルマーニほかとの手に汗握る交渉は、本書の読みどころのひとつだ。こうした岡藤氏の考え方や姿勢は、商売人、そして営業担当者にとって、令和の今でも十分に通用する貴重な心得といえるだろう。
JTCは死なず。超巨大企業の鮮やかな復活劇
「鉄は国家なり」という言葉もあるとおり、重厚長大で伝統的な大企業イメージが強い鉄鋼メーカー。「JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)」と揶揄(やゆ)され、時代遅れなイメージすら漂う。
『 日本製鉄の転生 巨艦はいかに甦ったか 』は社員11万人を抱え、70年余りの歴史を持つ超巨大企業が、4300億円を超える巨額の赤字から最高益へとV字回復を果たした現場に追った、迫真のノンフィクションだ。
動きの重い企業風土を変え、まさしく「転生」と呼ぶにふさわしい変革を果たした裏側には何があったのか。その葛藤、苦しみ、熱い闘いを余すところなく描き出す。先ごろニュースで大きく取り上げられたUSスチールの2兆円買収への軌跡も見えてくる。
「日本企業にこれほどの変貌が可能とは」という驚きとともに、閉塞感漂う多くのビジネスパーソンを勇気づけてくれる1冊だ。
謎に包まれた「超優良企業」の全貌
京セラ、ニデック、ロームなど、関西の電子部品メーカーは世界シェアで上位を占める高収益企業が多い。その中でもひときわ異彩を放つキーエンスの秘密に迫るのが『 キーエンス解剖 最強企業のメカニズム 』だ。
本書刊行当時(2022年)で営業利益率55%という驚きの数字を誇り、社員の平均年収が2000万円を超えることでも注目の企業だ。しかし、その経営手法は長い間ベールに包まれ、表立って紹介されることはほとんどなかった。
本書は「日経ビジネス」の記者がその企業実態に迫り、初めて明らかにしたとして大きな話題を呼んだ。常に顧客から求められ、高収益を維持するビジネスモデルをどのように構築するのか。成功手法をどうやって組織に埋め込んでいくのか。多くの関係者への取材をもとに解き明かしていく。
さらに理解を深めたい方には、経営学者の延岡健太郎氏による『 キーエンス 高付加価値経営の論理 顧客利益最大化のイノベーション 』がおすすめだ。技術経営研究における第一人者である延岡氏が、キーエンスの協力を得て詳細な分析を行ったのが本書だ。
同社の強さの秘密は、顧客が欲しいものをそのまま提供するのではなく、顧客が気づいていないニーズを発掘し、利益拡大に貢献できる商品を提供する「顧客利益最大化のイノベーション」にあると主張する。同社のビジネスモデルを知りたい方には、うってつけといえるだろう。
柳井正とその同志たちによる、悪戦苦闘の物語
地方のさびれた商店街にある紳士服店。そこでさえない日常を過ごし、先の見えない中でもがいていた青年時代の柳井正氏。ようやくつかんだ「ユニクロ」という金脈。だが、それも苦難と失敗の日々の始まりだった。
今や世界的なアパレル企業としてトップを走るユニクロ。そのものズバリ、『 ユニクロ 』という書名の本書は、「失われた30年」の中でも拡大を止めなかった急成長企業の舞台裏をリアルに描くノンフィクションだ。
柳井氏のビジョンに引き寄せられた多くの「同志たち」が、数多くの失敗と挫折を経ながらも決して諦めずに挑戦し続ける姿は、多くのビジネスパーソンの共感を呼ぶ。胸躍るサクセスストーリーであると同時に、新規事業開発において大切なことを教えてくれる1冊でもある。
【業界研究編】
トップコンサルタントは、こう見ている
さて、業界研究編の最初にご紹介するのは、グローバルでもトップクラスの戦略コンサルティング会社であるA.T. カーニーが、主な業界の最先端動向を解説する『 A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2025 』だ。『日経業界地図』で大枠をつかんだあと本書を読むと、より理解が深まるだろう。
2025年版で取り上げているのは「自動車」「エネルギー」「防衛」「船舶」「通信」「生成AI」「量子コンピュータ」「ヘルスケア」「銀行」「不動産」「観光」「メディア・コンテンツ」「アパレル/ラグジュアリー」「小売」「消費財」の15の産業。さまざまな業界が関わっている様子を立体的に描いており、関心のあるジャンルだけを見ても、通して読んでもよい構成となっている。
そのほか、「企業価値向上」「M&A」「サプライチェーン」「サステナビリティ」という業界横断の4テーマについても取り上げており、こちらも押さえておきたい。
なお、本書は毎年秋に最新版が刊行される。
ネット黎明期の光と影を描いた傑作ノンフィクション
日経電子版で記事が公開されると、必ずTwitter(現X)のトレンドに入ったという人気連載に大幅加筆し、書籍化したのが『 ネット興亡記 ①開拓者たち 』『 ネット興亡記 ②敗れざる者たち 』(いずれも日経ビジネス人文庫)だ。1990年代から2000年代にかけてのインターネット黎明(れいめい)期、その可能性に魅せられた若者たちの起業ストーリーと人間ドラマを圧倒的な筆力で描く。
孫正義氏の極秘指令と若き「ヤフー」の伝説。異端児・堀江貴文氏が世間を驚かせたライブドア事件の真相。窮地の藤田晋氏を救った意外な人物。語られざる三木谷浩史氏と楽天の誕生秘話。メルカリ創業者・山田進太郎氏の凡人哲学。敗者たちがつないだLINEの物語。
日本のインターネット界隈のレジェンドたちの姿を、膨大な取材をもとに描き出した傑作ノンフィクションだ。2冊合わせて1000ページに迫る大著だが、全部で12の独立したストーリーから成っており、長さは感じさせない。ネット/ウェブ業界の方はもちろん、起業を志す学生や新規事業の立ち上げに関わるビジネスパーソンにもお読みいただきたい。
まさにイノベーションの宝庫、挑戦者たちの50年の物語
国内店舗数が5万店を超え、売上総額11兆円超、年間160億人が利用するコンビニ。ただの小売りの一業態を超え、日本人のライフスタイルを変え、生活のインフラとも言える存在となった。
こうしたコンビニの進化は、まさにイノベーションの歴史と言っても過言ではない。今では当たり前となった24時間365日営業。それを支える物流システムの構築。POSによるリアルタイムの単品管理。公共料金収納の取り扱いやATMの設置。トイレの開放。イートインやカフェの導入。PB(プライベートブランド)やプレミアム商品などの開発…。こうした数々の改革の現場を描いたのが『 コンビニ全史 日本のライフスタイルを変えた50年の物語 』だ。
小売業関係者はもちろん、イノベーション、商品開発などに関心のある方にお読みいただきたい。
さて、ここで問題。日本のコンビニ第1号はセブン-イレブンではありません。どこでしょう?(答えはこの記事の最後に)
商社を知るならこの1冊。大手5社の現在地を知る
2020年、「投資の神様」と称されるウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社、米バークシャー・ハザウェイが日本の大手商社5社の株式を大量取得した、というニュースが話題となった。世界の注目を集め、日本の就職人気企業ランキングでも常に上位に位置する。そんな日本の総合商社5社の最先端の取り組みを詳しく解説したのが『 商社進化論 』だ。
これまで日本の産業界を黒子として支えてきた総合商社は、最近では新産業創出の先導役へと進化を遂げている。モビリティやフィンテック、再生可能エネルギーなどの新たな成長領域を次々と開拓し、多くの日本企業をリードする存在となっている。
本書では、日経記者が取材をベースにバランス良く解説。各経営トップへのインタビューや各社の歴史にも簡単に触れている。商社について知るなら、まさにうってつけの1冊と言えるだろう。
日本の自動車産業は生き残れるか
トランプ関税が猛威を振るい、世界の自動車産業に多大なるインパクトを与えている。そんな中でも中国の自動車産業は発展を続け、2025年はついにEV(電気自動車)だけではなくガソリン車の輸出台数でも日本を抜いて世界トップに躍り出る見込みだ。
そんな中国の最先端動向を分析し、世界の自動車業界の地殻変動を描くのが『 2040 中国自動車が世界を席巻する日 』だ。みずほ銀行の産業エコノミストが、豊富なデータに基づいて解説する。
中国政府が主導する「新エネルギー車(NEV)革命」によって中国企業は躍進を実現した。この電動化シフトは何を目指し、世界にどんなインパクトを与えるのか。BYD、CATL、理想汽車、吉利汽車、ファーウェイ、テンセント、バイドゥといった完成車、部品、電池ほか関連企業への現場ルポに基づき、説得力のある論を展開。日本企業がとるべき戦略についても大胆に語る。
自動車産業は完成車メーカーだけではなく、その裾野が非常に広い。多くの関係者に読んでいただきたい1冊である。
物流を制するものがビジネスを制する
トラックドライバーの残業規制による物流業界の「2024年問題」が話題になったのは記憶に新しいところだ。しかし、トラックは物流全体で見ると、重要な機能の一つにすぎない。
宅配から海運、空運まで、そして倉庫業務から梱包、配送まで、物流業界はあまりに幅広いため、その全貌を理解している人は業界の中でも多いとは言えない。『 ビジュアル ロジスティクスがわかる 』(日経文庫)は物流業界に詳しいコンサルタントが、その基本から最先端までをやさしく解説したものだ。
全90の項目を、見開き2ページ完結で説明しており、とっつきやすく、関心のあるところから読める構成になっている。
多くのビジネスにおいて、物流は重要な機能を果たしている。物流の進化とともに、どういう物流戦略をとるかがビジネスの成否を握るようになりつつある。物流/小売業界の方はもちろん、製造業ほか多くの業界に参考になる1冊だ。
関西の取材記者による、ディープな情報満載
大阪・関西万博で活気づく関西経済。その担い手たちを紹介したのが『 まるわかり関西ビジネス 注目企業の未来像×業界地図 』だ。大阪を中心に関西6府県に駐在する経済記者が、他の地域ではあまり報じられないディープな情報をお届けする。
積水ハウス、クボタ、日本ハム、江崎グリコ、西松屋チェーンなど全国区の有力企業18社がどのような戦略をとっているのか、各社トップのインタビューを掲載。さらに製造業を中心に生きのいい中堅企業28社のビジネスを紹介する。
「関西版業界地図」では、電機、電子部品・半導体、小売・外食、スポーツ用品・アパレル・繊維など18業界における企業勢力図と将来展望を解説する。関西在住の方はもちろん、初めて関西に赴任したビジネスパーソンや新入社員、就活に取り組む学生など、関西に興味を持つ方すべての「お役立ち本」だ。
『運は創るもの 私の履歴書』文庫版の出版予定に変更があり、該当部分を削除しました。本文は修正済みです。 [2025/08/4 18:40]













