ビジネスの現場でリーダーが直面する状況は多様で、様々なリーダーのスタイルを学ぶことは有意義です。『 30の名著とたどる リーダー論の3000年史 』(日経ビジネス人文庫)の著者で、ビジネス戦略コンサルタントの鈴木博毅さんが、本書にも登場するリーダーシップの名著を12冊紹介。仕事への姿勢を整えるために役立つ古典を、マネジメント層向けか若手向けか、かつ読みやすいか難解かで整理します。

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■マネジメント層向けの名著

貞観政要(じょうかんせいよう) 』(呉兢[ごきょう]著/守屋洋訳/ちくま学芸文庫)

 本書は、長い間、良い政治と治世を生んだ唐の皇帝太宗の逸話を紹介した一冊です。太宗の偉大さは「創業と守成」という2つのまったく違う状況を理解して、自らのリーダーシップを切り替えたことです。彼は混乱した前帝国である隋を打倒して、唐を建国した創業者でありながらも、平和な時代の名君は、乱世のリーダーとは違うことを理解し、時代の転換点で自らのリーダーシップを変化させたことで、後の世に語り継がれるような平和な時代を創り上げたのです。本書には現代のベテランリーダーにも役立つ英知が込められています。

第二次世界大戦 』(ウィンストン・S・チャーチル著/佐藤亮一訳/河出文庫)

『第二次世界大戦』は全4巻。画像は第1巻
『第二次世界大戦』は全4巻。画像は第1巻

 世界中が悲惨な戦争に巻き込まれた第2次世界大戦。当時、何人ものリーダーが登場しましたが、大きな足跡を残したイギリスの首相ウィンストン・チャーチルの決断は特に光ります。組織の命運を握るリーダーは、優れた大局観を持っていなければなりません。目の前の短期的な現象だけでなく、長期的に(あるいは)広く全体として見た場合、結局はどうなるのかを知ることは、決断の成否を大きく左右するからです。

自助論 』(サミュエル・スマイルズ著/竹内均訳/三笠書房知的生きかた文庫)

 苦労や困難を経験したとき、苦難から逃げ出すことばかり考えれば進歩はなく、敢然と立ち向かえば新たな飛躍が訪れる。この真理を、著名人の人生をもとに多角的に教えてくれるのが、「天は自ら助くる者を助く」という言葉で有名な『自助論』です。ニュートンから思想家ヴォルテール、名将ウェリントンなど、様々な名を成した人たちがいかに努力と勤勉を続け、成功を生み出したのかを語っています。本書の特徴は、才能ではなく、努力と忍耐、時間管理などの自己規律こそが、偉大な成果を生み出すと主張している点です。

『藁(わら)のハンドル』(ヘンリー・フォード著/竹村健一訳/中公文庫)

『藁(わら)のハンドル』

 ヘンリー・フォードによる隠れた名著。希代の企業家が「リーダーが理解すべき、本当の合理性」について語ります。企業経営で、経営者が合理性を追求すべきなのは当然ですが、合理性には視野の広さ、狭さの違いがあります。トヨタが学んだ、フォード社の効率を追求する経営方式とその着眼点、視野の広い合理性の大切さを教えてくれる一冊です。

『アンデスの奇蹟』(ナンド・パラード、ヴィンス・ラウス著/海津正彦訳/山と溪谷社)

『反マキアヴェッリ論』本書は品切れ・重版未定です。古書店、インターネット書店などで入手することができます
本書は品切れ・重版未定です。古書店、インターネット書店などで入手することができます

 飛行機事故の遭難から、高山の上でサバイバルを余儀なくされた若者の一団の物語。高山特有の、人間が生きることが難しい寒さと飢え。激烈な危機を彼らがどう受け止めたか、そして、次第にリーダーとしての才覚を発揮していく人間が出現する過程が詳しく語られています。多くの若者が命を落としたこの悲惨な事故の中で、本当の危機、極限の環境にいきなり放り込まれたときのリーダーシップの姿もまた浮かび上がります。

 遭難者たちを、最後の瞬間に救うことになったのは、遭難以前の学生生活では一度もリーダーシップを発揮したことがなかった、ナンド・パラードという若者でした。彼は仲間が命を落としていく環境の中で、どんなことに気づいて仲間を救ったのでしょうか。

反マキアヴェッリ論 』(フリードリヒ二世著/大津真作監訳/京都大学学術出版会)

 マキャベリは巧みな弁舌で、悪徳は君主を助けてくれると主張しました。では、君主(あるいはリーダー)は悪徳を用いることが正しいのでしょうか。世界中の人間が抱くこの疑問に答えた書があります。フリードリヒ2世が書いた本書です。君主に悪徳を勧めるマキャベリは、ある重要なことを忘れているとフリードリヒ2世は指摘します。マキャベリの『 君主論 新版 』(池田廉訳/中公文庫)の次に読む本としてお薦めの1冊です。

人生の短さについて 』(セネカ著/浦谷計子訳/PHP研究所)

『人生の短さについて』2023年11月現在、電子書籍版のみ販売しています
2023年11月現在、電子書籍版のみ販売しています

 「本当に大切なことに集中しよう! 人生は限りあるものなのだから」。このようなメッセージは現代にもあふれています。しかし、本書の著者は紀元前1世紀ごろに生まれた哲学者。彼が指摘する人生の有限性は、2000年後の私たちにもずばり当てはまります。セネカは「人生は十分に長く、何事かを成す時間はたっぷりある。ただし浪費をしなければ」と指摘します。本書は少ない分量ですが、ベテランの心に火をつける洞察の鋭さを持っています。

■若手向けの名著

孫子[現代語訳] 』(杉之尾宜生編著/日経ビジネス人文庫)

 戦争の基本的な心構えから好機の見つけ方、第一線のリーダーである将軍の行動原理、地形・情勢に応じた戦い方などが描かれています。「孫子の兵法」の特徴の一つは「勝つ側は、勝つべくして勝利している」という哲学です。偶然や幸運による勝利ではなく、勝者側は条件をすべて整えてから勝負を始めるというのです。現在のビジネスの世界でも広く読み継がれる「世界最古の戦略書」を読んでみてはいかがでしょうか。

自省録 』(マルクス・アウレーリウス著/神谷美恵子訳/岩波文庫)

 第16代ローマ皇帝のアウレリウスは、本書の中で善き人生を送るために「今日が生涯最後の一日であったら」という問いかけを何度かしています。それは恐らくアウレリウス本人にとっても、何が重要であるかを気づかせてくれる指針だったと思われます。『自省録』は、1800年の時を超えて、日々の生活で近視眼的になりがちな私たち現代人にも、人生で本当に重要なものを振り返る機会を与えてくれます。

習慣の力〔新版〕 』(チャールズ・デュヒッグ著/渡会圭子訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 著者はニューヨーク・タイムズの記者。人間の日常行動の4割は習慣でできており、その習慣に小さな違い(良い変化)をもたらすことで、個人の人生にも巨大組織にも大きな変化を生み出すことができると指摘します。アメリカの老舗精錬企業アルコアが、極度の業績不振から「たった1つの習慣」を導入したことで、素晴らしい業績にまで急回復した事例など、習慣を見直すことのパワーを教えてくれます。できることから始める、しかしその成果は巨大なものにつながる「組織の習慣」。それを見直す大切さを教えてくれる一冊です。

六韜(りくとう) 』(林富士馬訳/中公文庫)

 たった一人では、大きな事業は成就できません。では、人に支えられる、周囲に持ち上げられる人になる方法はあるのでしょうか。本書からは、「天下を独り占めせず、共有しようとする者が天下を得る」という教訓が学べます。「人に支えられる、信任されるリーダーになる方法」のヒントを追体験できる一冊です。

リーダーを目指す人の心得 』(文庫版/コリン・パウエル、トニー・コルツ著/井口耕二訳/飛鳥新社)

 パウエルは、リーダーという存在を「問題を解決する人」と明確に定義しています。彼は「常に問題を探して歩け」とまで書いています。パウエル自身も、組織内をぶらぶらと歩き回ることを習慣にしており、公式なルートで情報が上がる前に、各部署の担当者と率直に話し合う機会を常に設けるように意図し、自分のところに来た問題は、必ず解決したと語っています。この一貫した姿勢は、パウエルが史上最年少で米軍のトップである統合参謀本部議長となった理由の一つなのでしょう。

(後編「 実務に使えて成果を高める『リーダーシップ』の名著11冊 」に続く)

日経ビジネス人文庫
30の名著とたどる リーダー論の3000年史
世界史を動かした古典を読破!

孫子、プラトンからマキャベリ、ドラッカーまで、名著と共にリーダーシップ論の変遷をたどる。古今東西の偉人の著作を歴史順に読み解きながら、どのように発展してきたのか探る「知的冒険の書」。

鈴木博毅著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)