私たちを感激させ、奮起させ、社会を巻き込む「本物のリーダー」には共通点がある。「本物のリーダー」は、まず「WHY」を語るのだ。アップル、サウスウエスト航空、キング牧師、ライト兄弟などの事例から、みんなが従いたくなるリーダーの共通点をWHAT、HOW、WHYから解き明かした『WHYから始めよ![改訂版] インスパイア型リーダーはここが違う』(サイモン・シネック著/栗木さつき訳/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。
人の心を動かすリーダーの<ゴールデン・サークル>
人を操作するのではなく、人の心を動かしてやる気を起こさせる、つまりインスパイアできるリーダーは少ない。それが個人であれ組織であれ、こうしたインスパイア型のリーダーはまったく同じ方法で行動し、コミュニケーションをとっている。その方法は、私たちがとっている方法とはまったくの逆といえる。かれらは、私が<ゴールデン・サークル>と命名した自然に起こるパターンに従っている。
- なぜアップルはあれほど多岐にわたる分野で革新を起こすことができたのか?
- なぜハーレーダビッドソンのロゴをタトゥーにして自分の肌に刻み込む人がいるのか?
- なぜサウスウエスト航空はこれほど長年、黒字経営を続けることができたのか?
- なぜマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが一国を変えるほどのムーブメントを起こし、人々が彼のあとについていったのか?
- なぜジョン・F・ケネディの挑戦に賛同し、彼の死後に人類を月に送ったのか?
<ゴールデン・サークル>を理解すれば、こうしたリーダーたちが人々の行動を操作したのではなく、行動を起こすよう人々をインスパイアしたことがはっきりとわかるのだ。
このまったく新たな観点は、世界を変える力のあるビジョンとして役立つだけではない。実生活で応用することができる。さらには、あらゆるレベルのリーダーシップ、あらゆる規模の企業文化、雇用慣行、製品開発、営業、マーケティングの質を改善し、人々を導くうえでも活用できる。また従業員には会社への愛着を、顧客にはロイヤルティを持ってもらうことの重要性を説明する際にも役に立つ。ひいては、ひとつのアイデアを世の中に広め、そこから社会運動へと発展させる推進力の起こし方も教えられるようになるだろう。
そのすべては<ゴールデン・サークル>の円の中心から始まる。すべてがWHY(なぜ)から始まるのだ。
WHAT、HOW、WHYの違い
その活用法へと話を進めていく前に、まず、この円のなかに記されている単語の意味を説明しよう。円の外側から中心へと、順に説明していく。
HOW:自分がしていることのHOW(手法)を知っている人や企業も、なかにはある。「他社と違う価値提案」「独自の工程」「ユニークな販売計画」さらには「強み」など、呼び方はそれぞれだが、HOWはたいていよそとは違う方法、よりよい方法を指している。よそとの差別化をはかり、人にやる気を起こさせるのはHOWのはずだと考える人は多いだろう。だが、HOWさえわかっていれば、他者をインスパイアできると考えるのは間違っている。ひとつ、見逃している点があるのだ。
WHY:自分がいましていることを、しているWHY(理由)。これを明言できる人や企業は少ない。ここで留意してほしいのは、このWHYには「お金を稼ぐため」という理由は含まれない。それは結果にすぎない。私がWHYと問うとき、それは、あなたのパーパスはなんですか、大義や理念はなんですかと尋ねているのだ。なぜ、あなたの会社は存在しているのか? なぜあなたは毎朝、ベッドからはいだし、出勤しているのか? なぜ、誰もがWHYを気にかけねばならないのか?
大半の組織や人間が、円の外側から中心に向かう順番で、つまりWHATからWHYの順番で考え、行動し、コミュニケーションをはかっている。もっともな話だ。いちばん明確なものから始め、いちばん不明瞭なものに向かっているのだから。私たちは、自分のWHAT(していること)は説明できる。ときにHOW(手法)も説明できる。ところが、そうしているWHY(理由)を、説明することはめったにない。
ところが、インスパイア型の企業は違う。インスパイア型のリーダーも違う。どんな規模の企業であれ、どんな業界であれ、かれらは必ずWHYからWHATへと中心から外側へ向かって考え、行動し、コミュニケーションをはかっているのだ。
熱狂的な顧客を生むアップルのメッセージ
そこで、まずはアップルのシンプルきわまるマーケティングの例から説明していこう。アップルがほかの企業のように<ゴールデン・サークル>の外側、つまりWHATからマーケティングのメッセージを送っていたら、どうなっていただろう? WHAT、つまり企業がなにをし、なにをつくっているかという説明から始め、HOW、つまりライバル社とは異なる手法、より優れた手法を採用していることを述べ、それから行動を起こしてくれと呼びかけるのだ。
こうしたメッセージを流せば、消費者から見返りが得られるだろうと企業は期待する。すなわち、商品の購入だ。他社と同じやり方をとっていれば、アップルのマーケティングメッセージはこんな感じになるかもしれない。
美しいデザイン、シンプルな操作法、取り扱いも簡単。
1台、いかがです?
人を動かさずにはおかない宣伝文句とはいえないが、大半の企業はこんなふうにしてセールスに励んでいる。これが標準なのだ。
最初に、自社がしていることを説明する――「まったく新しい車の登場です」。
次に、どんな手法をとったかを説明する――「豪華革製シート、驚異の低燃費、低金利」。
そして、さあ購入しましょうと呼びかけ、見返りを期待する。
このパターンは、企業から消費者に向けた市場のみならず、企業間の取引においてもよく見られる。
「当法律事務所では、名門大学で学んだ弁護士が貴社のお役に立ちます。クライアントには大手一流企業が名を連ねています。どうぞ、弊社にご依頼を」
このパターンは政治の世界でもよく用いられる。
「立候補した○○です。税金と移民問題に関する見解はかくかくしかじかです。ほかの候補者とはこんな点が違います。どうか、清き1票を」
どちらの場合も、ほかとは差異があること、自分のほうがずっと優れていることを伝えようと、メッセージを送っている。
だが、インスパイア型のリーダーや組織は、そんなまねはしない。かれらはみな、どんな規模の企業であれ、どんな産業であれ、円の中心から外側への順で考え、行動し、コミュニケーションをとっている。
ふたたび、アップルを例にとってみよう。そしてさきほどの文章を、アップルが実際にコミュニケーションをとっている順番に書きかえよう。今回の文章は、WHYから始まっている。
製品を美しくデザインし、操作法をシンプルにし、取り扱いを簡単にすることで、私たちは現状に挑戦しています。
その結果、すばらしいコンピュータが誕生しました。
1台、いかがです?
ふたつのメッセージは、まったく異なる。最初のものと、2番目のものは、まったく違うメッセージのように感じられる。2番目のメッセージを読んだあとのほうがコンピュータを買いたくなる。だが、私はただ情報を伝える順番をひっくり返しただけだ。メッセージにごまかしやペテンはない。操作もない。無料のおまけもない。上昇志向をくすぐるわけではないし、有名人も登場しない。
アップルはメッセージをWHYから始めた。信条、パーパス、大義、理念であり、WHAT(していること)とはなんの関係もない。かれらのしていること――コンピュータから小型エレクトロニクス機器の製造まで――は、もはや購入理由としては機能していない。製品は、かれらの信条や大義を具現化したものにすぎない。アップル製品のデザインやUI(ユーザーインターフェイス)は重要なポイントではあるが、熱狂的な顧客を生みだすほどの理由にはならない。かれらの信念が合理的なかたちで目に見えるものになっただけなのだ。
人々は企業がそれをしているWHYを買う
他社だってトップデザイナーや有能なエンジニアを雇い、使い勝手のいい美しい製品をつくることはできる。アップルの手法をまねすることもできるし、ことによっては、アップルの社員をヘッドハンティングで引き抜くことだってできる。ところが、同じ結果を出すことはできない。
アップルのしていることや、アップルの手法を単純にまねても、それだけではうまくいかない。アップルを市場で傑出した存在にしているのは、説明しにくいもの、まねるのが無理なものなのだ。さきほどのふたつのメッセージを読んでわかったように、人々はあなたのWHAT(していること)を買うのではない。あなたがそれをしているWHY(理由)を買うのだから。
もう一度、繰り返す。
あれほど革新的な製品を絶えずデザインできる能力、そして製品への高いロイヤルティを持つファンを獲得できる能力は、アップルのWHATだけから生じたわけではない。
組織はよく、他社の製品やアイデアより自社の製品やアイデアのほうが優れている理由を合理的に論じることで、製品に具体的な特色を持たせ、利益を上げようとする。あからさまに他社の製品と比べることもあれば、類似点を探したり、遠まわしに比較したりすることもある。
だが、そんなことをしても結果は変わらない。企業は自分たちのWHATを買わせようとするが、私たちは企業がそれをしているWHYを買う。それなのに、企業は「外側から中心へ」の順番でコミュニケーションをとっている。つまり、WHATから始めて、その次にHOWを伝えているのだ。
だが「中心から外側へ」の順でコミュニケーションをはかれば、消費者が買い物をする理由がWHYとなり、会社の信条を具体的に立証したものがWHATとなる。そうなったとき初めて、ある製品、ある会社、あるアイデアに惹かれる理由を、消費者は合理的に理解し、きちんと説明できるようになるのだ。
アップルを際立たせているのは、アップルのWHATではない。それをしているWHYだ。アップルの製品は、かれらの信念に命を吹き込んだものなのだ。
サイモン・シネック著/栗木さつき訳/日本経済新聞出版/2200円(税込み)
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