総合商社は経営環境の変化に合わせ、業態やビジネスモデルを進化させて高成長を遂げてきた。変化対応力の背景には事業の多様性、時代の潮流の本質をつかむ情報収集力、そして新たなビジネスをつくる構想力がある。商社の強さの秘訣を探った『商社進化論』(日経産業新聞編/日本経済新聞出版)から、三菱商事の中西勝也社長のインタビューを抜粋・再構成してお届けする。

命懸けで地域に根付く

EX(エネルギートランスフォーメーション)を掲げて日本の産業基盤を一新していく方針です。そのカギとなる地域創生の重要性を唱えています。

 2022年5月に3カ年の経営計画として「中期経営戦略2024」を出し、3つの成長戦略を掲げた。EX、デジタルトランスフォーメーション(DX)、そして未来創造だ。この3つ目の未来創造が、社内外で意味を問われるケースが多かった。

 新産業を創出し「新産業×地域創生」で日本の未来をつくっていきたいと最近では説明している。TSMC(台湾積体電路製造)やラピダスが工場を建て、いろいろな事業がようやく日本に来始めている。日本をもう一度産業立国として立て直すチャンスだ。少子高齢化の中で雇用を生んで、新しい産業を創出する。これをDXで省力化、効率化していくことで、その地域も盛り立てられる。

 住む人が不便ではいけないので、チャーミングな魅力ある都市にも変えていく必要がある。実現には10年以上かかるかもしれないが「新産業×地域創生」の根幹となるのは競争力のあるエネルギーだ。三菱商事はグローバルな会社だが、本社は日本にある。だからこそ新産業の創出と地域創生、未来創造を1つのパッケージとして展開することで、日本を再び産業立国にしていくべきではないかと考えている。

中西勝也(なかにし・かつや)
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中西勝也(なかにし・かつや) 三菱商事 代表取締役社長
1985年(昭和60年)東京大学教養学部卒、三菱商事入社。2016年執行役員、22年から現職。電力部門の出身で、電カインフラの輸出や再生可能エネルギーの開発事業に長年携わってきた。大阪府出身。

三菱商事が地域の強化を掲げることには意外性があります。

 ようやく日本も洋上風力で規模感がある案件が出てきた。実は三菱商事が海外で展開していたIPP(独立系発電事業)を日本に持ち込むのは初めてだ。洋上風力に関しては、三菱商事は海外でオランダのエネコと10年以上取り組んできた実績があった。一方、現地パートナーは日本の場合、我々自身となる。長期にわたる事業をするには、地元の人の賛同がなければ絶対にできない。

 30年にも及ぶ事業になると、命懸けで地域に根付き、期待に応えないといけない。洋上風力を起点に新しい産業が生まれ、町を豊かにしなければならない。洋上風力事業に周辺事業をどう組み合わせて地域創生をして、未来をつくっていくかがテーマとなる。そこは真剣に考えている。洋上風力の案件を落札したが「値段だけ安い」といわれると、さみしい思いがある。ここまで考えて取り組んでいるからだ。

多様性を持ち課題解決

三菱商事もこれまでの歴史のなかで「不要論」や「冬の時代」といわれる危機に直面してきました。業容やビジネスモデルを変えて、時代の変化を先取りあるいは追随できたのはなぜでしょう。

 それは多様性があったからだ。多様性を持って、時代のニーズに合わせて社会課題に対応してきた。三菱商事はどこかがへこんでも、どこかで支えられる。でも全部が強くならないといけない。1人が強くて他が弱かったら、強いところが折れたらポキッとなってしまう。多様性を持ち、ちゃんと根を張って強い事業にしていく。これがあると横の事業との「掛け算」をしたときに、もっと強く、より盤石にできる。

 ただ、いずれ寿命が終わる事業が出てくる。テクノロジーの進化で変化のスピードが速まる。経営としてはスピード、変化についていかなければならない。変化をいとわないカルチャーにしたい。固執しない。こだわるところはこだわるが、変わらないといけないところは変えていく。

「三菱商事らしさ」については、どのように考えていますか。

 社長になって思っているのは、社会のために何ができるかという点だ。三菱の「三綱領」のなかで言う「所期奉公」だ。日本がどうあるべきか、そういうことも考えている。社員の意識調査、風土調査を定点観測しているが「公」に対するエンゲージメントが高い。やはり「社会のために」とみんな思っている。

商社の今後の進化のあり方については?

 商社の進化はトレーディングに始まって事業投資を展開し、いまは事業経営に発展した。私は「バージョン4」を実現したい。新しい進化形をやりたい。私が言っているところの「共創価値の創出」だ。事業経営の次のバージョンといえる。これができる会社は、そんなにない。多様性を豊富に持っているのは強みだ。1+1を3にも5にもする。グループの壁を乗り越えて、共創価値を生み出す。

 私は商社という言い方は、あまり好きではない。三菱商事は代々、卸売業にカテゴリー分けされてきた。しかしいまや事業の軸足はトレーディングにはほとんどない。「商社」とひとかたまりにされても、各社でやっていることが違う。5大商社といわれるが、各社の経営方針は異なる。

 おおくくりで商社といわれると、進化しようにも網をかけてしまうことになる。商社は英語でもいえない。トレーディングハウスといわれるが、そうでもない。これからは商社という言葉はやめよう。もはや商社ではない。

聞き手:星正道(日本経済新聞社)

なぜ、バフェット氏は総合商社に投資したのか?

大物投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイが株式を大量取得したことをきっかけに、総合商社は脚光を浴びる一方、情報がつかみにくい一面も。大きな変貌を遂げる商社ビジネスの最前線に迫る。5大商社トップへの独自インタビューも収録。

日経産業新聞編/日本経済新聞出版/1980円(税込み)