日経クロステック先端技術編集長の高野敦です。まとまった時間が取れる(?)年末年始は本を読む絶好のチャンスということで、今回は日経BOOKプラスの「手前みそ」シリーズに加えていただき、日経クロステックの先端技術分野の本を2冊紹介いたします。
2冊はいずれも日経クロステック所属の記者が執筆したものです。1冊は伏木幹太郎記者による『 エンジンの逆襲 中国EV突き放す日本の最強技術 』。もう1冊は内田泰編集委員による『 宇宙ビジネス革命 270兆円へ、膨張始まる 』です。
エンジンは50年後も残る、100年後は…
『エンジンの逆襲』はその名の通り、自動車のエンジンに焦点を合わせて日本メーカーの勝ち筋を示した本です。世界的に電気自動車(EV)、その中でも電池のみを動力源とするBEVがもてはやされてきたのに、なぜ今さらエンジンなのか。それはEVシフトがEV推進派の思い通りに進まず、「EVもエンジンも」という現実路線に転換しているからだと伏木記者は書きます。「時代遅れの技術」として片隅に追いやられていたエンジンが再び息を吹き返しているので、「エンジンの逆襲」というわけです。
「EVの停滞は一時的。エンジンの逆襲といっても、EVが普及するまでのつなぎでは」と思う方もいるかもしれません。しかし、本書の第1章では「50年後もエンジンがなくならない3つの理由」として、自動車メーカー各社のエンジン回帰が短期的なトレンドではないことを説明しています。この3つの理由については本書をお読みいただくとして、ここでは「エンジンとEVは実は対立関係にあるのではなく、それぞれの強みを生かしながら共存していく未来が見えてきた」という伏木記者の見立てを紹介しておきます。
本書の中盤では、日本メーカー各社の技術と戦略、そして日本を追い上げる中国メーカー各社の技術と戦略に紙幅を割いています。本書の価値が詰まっている部分であり、国内外を飛び回って取材した伏木記者にしか書けない内容といえます。特筆すべきは、「エンジンの日本とEVの中国」という単純な構図ではなく、中国もエンジンに注力していることです。今はエンジン技術で日本に一日の長があるとしても、油断は禁物であることを本書で実感しました。
本書のクライマックスは、エンジン研究の大家である早稲田大学名誉教授の大聖泰弘氏のインタビューです。このインタビューで伏木記者は大聖氏に「100年後もエンジンは残りますか」と質問しました。その答えはやはり本書をお読みいただければと思います。激動の自動車業界を冷静に分析するための必携書として、自信を持って推薦いたします。
技術は強い、ビジネスは…
もう1冊の紹介です。『宇宙ビジネス革命』は、宇宙通信/月面開発/観測衛星/測位衛星/スペースデブリ(宇宙ごみ)除去/宇宙太陽光発電といった宇宙ビジネスの代表的な分野について分析した本です。筆者の内田編集委員はAI(人工知能)やロボット、スポーツテックなど幅広い分野を手掛けていますが、近年注力している分野の1つが宇宙です。
本書の副題にある270兆円は、2035年の宇宙ビジネス市場規模の予測値です(世界経済フォーラム、2024年4月発表)。本書によれば、2023~2035年の宇宙ビジネス市場の年間成長率は9%で、これは半導体市場の8%をしのぐ水準です。
しかも、日本には拡大する宇宙ビジネス市場を狙えるだけの技術力もあります。例えば、宇宙ビジネスの新たな舞台として関心が高まっている地球低軌道(LEO:Low Earth Orbit)。現在、LEOへ1トン以上の打ち上げ能力を保有している国は世界で7カ国しかなく、日本もその1つです。
これだけの好条件がそろっているにもかかわらず、本書に楽観ムードは感じられません。本書を通底しているのは「日本は特定の分野で世界先端の技術を有する一方で、ビジネス化については欧米に後れを取っている。世界で勝てる技術をいかにビジネスにつなげているか――」という内田編集委員の強い問題意識です。技術で勝って、ビジネスで負けるというのは日本の電機産業で何度も繰り返されてきたパターンです。長らく日経エレクトロニクス誌を担当していた内田編集委員はその歴史を間近で見てきただけに、そうした思いが強いのかもしれません。
本書では、日本の有望な宇宙技術・ビジネスがたくさん登場します。内田編集委員の問題意識もあってか、それら技術・ビジネスの市場性については特に記述が多いと感じました。宇宙ビジネスの全体的な動向のみならず、重要なプレーヤーや技術を把握したいという方にお薦めの1冊といえます。
日経クロステックでは、今回紹介した2冊と一緒に読んでいただくと理解がより深まる記事をたくさん公開しています。ぜひ併せてご覧ください。みなさま良い年をお迎えください。
[日経クロステック 2025年12月25日付の記事を転載・一部改訂改題]


