天才たちはどんな本を読んでいるのか? テスラのイーロン・マスク、アマゾンのジェフ・ベゾス、マイクロソフトのビル・ゲイツ。世界一の富豪になったイノベーターたちは、実は猛烈な読書家です。書籍『 天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊 』の一部を抜粋し、加筆・再編集してお届けする連載の第4回では、1年間に50冊以上の本を読み、推薦書が次々にヒットする“読書の巨人”であるビル・ゲイツの読書術を紹介します。

 “読書の鬼”として有名なマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ。1年間に50冊以上の本を読んでいるだけではなく、多数の書評も書いており、推薦する書籍が軒並みヒットすることでも知られています。マイクロソフトの最高経営責任者(CEO)だった時代から、1年に2回「読書週間(Think Week)」という山荘などにこもって集中的に本を読む機会を設けて、読書を経営や人生に活かしてきました。

 ゲイツは小学生の頃から小説、SF、百科事典などの読書に熱中しており、「食事の時にまで本を読むな」と両親に叱られるほどでした。そんな猛烈な読書習慣は年齢を重ねてからも衰えることを知らず、大量の本を読み続けています。『天才読書』でも紹介したように、歴史、経済、科学、自己啓発、小説などの幅広い分野にゲイツは関心を持っています。

 そんなゲイツの読書術には、どのような特徴があるのでしょうか。ゲイツが自身のブログやSNSにつづった言葉、インタビューや海外メディアの記事などから読み解きます。

 1番目のルールは「電子書籍ではなく、紙の本を読む」ことを基本にしていることです。「ゲイツはデジタル革命の旗手だったのに、紙の本ばかり読んでいるのはおかしい」と感じる読者の方もいらっしゃるかもしれませんが、これには理由があります。

電子書籍ではなく、紙の本を読むのがビル・ゲイツの読書スタイルの基本 (写真:ロイター/アフロ)  
電子書籍ではなく、紙の本を読むのがビル・ゲイツの読書スタイルの基本 (写真:ロイター/アフロ)  

 ゲイツは紙の書籍の「余白」にメモを取る習慣があるからです。一般論として、本を読んでいる際に面白いアイデアを思いついても、後になると忘れているケースは少なくありません。しかしゲイツは、本を読んでひらめいたり、気づいたりしたことを即座に本の余白に書き留めることを習慣にしています。

 メモを取ることは、ゲイツが読書から得たさまざまな情報を統合する手法の1つといえるでしょう。メモを取りながら読むと通常の読書と比べて2倍以上の時間がかかるそうですが、それこそが「(読書を通じた)私の学習法のカギだ」とゲイツは述べています。

いったん読み始めた本は最後まで読み切る

 ゲイツは、本を読んで得た新しい知識を、すでに知っている知識と組み合わせることで、仕事や人生に役立てています。「目の前の言葉と自分の経験をどう結びつけるか」という観点から読書をしているそうです。

 もちろん単純に本を読んで楽しむだけなら、メモを書き込む必要はありません。しかし何かを書き留めると、頭の中でアイデアが強化され、記憶にも刻まれやすくなります。

 紙の本を読むのは、電子書籍と比べて目が疲れにくいということもあるでしょう。ただし、メモを書き込めないといった課題がクリアされたら、電子書籍に切り替える可能性もありそうです。

 ゲイツが読書をする際の2番目のルールは「いったん読み始めた本は最後まで読み切る」ことです。1年間に50冊以上の本を読むゲイツですが、選んだ本は最後まで読破するというポリシーを持っています。

 「たとえ、その本が好きでなくても、途中で読むことをやめたりしない」。こうゲイツは述べています。そこで重要になるのは、あらかじめ丁寧にリサーチし、最後まで読む価値があると思える本を選ぶことです。私は乱読家なので、ゲイツがここまで真剣に本を選んでいると知って驚きました。

 3番目のルールが「読書をする際は、まとまった時間を取って集中する」ことです。読書のために「少なくとも 1 時間は中断のない時間を確保すべきだ」とゲイツは述べています。

 本を読む際には、気を散らしたり、スマホやテレビを見るなど他のことを同時にしたりすべきではなく、読書に集中し、必要ならメモを取り、読んだ内容についてじっくり考えることが大事だとゲイツは考えています。

 もちろんこれは書籍に限った話で、インターネットニュースや雑誌の記事を読む場合は5分や10分といった隙間時間で楽しむことができます。それでも本を読むときは特別で、1時間以上の時間をかけて専念するのがゲイツ流です。就寝前など、確実に時間を確保できるタイミングで毎日続けると読書は習慣化されます。

関心が強いテーマは複数の本を読む

 4番目が「関心が強いテーマは複数の本を読む」ことです。ゲイツはあるテーマに強い関心を持った場合は、関連するさまざまな書籍を読もうとする傾向があります。

 例えば、ゲイツは貧富の格差に強い関心を示しています。『天才読書』で詳しく紹介していますが、フランスの経済学者で経済的不平等の専門家であるトマ・ピケティの『21世紀の資本』に加えて、ノーベル賞経済学者で貧困問題に詳しいアビジット・バナジーや、格差と健康を結びつけた研究で知られる経済学者のアンガス・ディートンの書籍も読んでいます。

 さまざまな専門家の書籍を読むことで、それぞれの意見の違いを知り、可能な限り深く理解する。全体像をなるべく把握したうえで、自分の考えや意見をはっきりさせるような姿勢を持っています。これは研究論文を書く際のアプローチにも似ています。さまざまな論文や書籍を読み込み、関連する情報をリサーチしたうえで、自分の意見をまとめていくようなものです。

 5番目が「本を読んで考えたことをアウトプットする」ことです。ゲイツは自身のブログで、自分が読んだ数多くの本に関する書評を執筆しています。良い書評を書くためには、読み手が本の内容を深く理解していることがもちろん不可欠です。

 ゲイツの書評が優れているのは、本の魅力を伝えるだけでなく、自身の幅広い知識を活かして、課題点も指摘するケースが目立つことです。ここは同意できるが、その部分は間違っているといったふうに、自分の意見を明確に述べています。読書によって得た情報を鵜呑みにせず、批判的な思考を常に持っているところがゲイツらしいといえます。

 本を漫然と読んでいると、面白いと感じる部分があっても、読み終わると「結局、何が良かったんだっけ」と頭に残っていないことが少なからずあります。それを避けるために、私は読書の際に面白かった部分には必ず付箋を付けることにしています。付箋が多く付いた本は感動や気づきが多い良書なので、特に印象に残った言葉を抜き出して「Word」などの文書作成ソフトウエアで入力して保存しています。そのうえで時間があるときになるべく書評のような形で文章にしてアウトプットしています。

ゲイツが若者たちに伝えたいこと

 このため、ゲイツが本の余白にメモを取り、良書に出会ったらレビューを書こうとする姿勢には、心から共感します。インプットされた情報が頭の中で整理され、さらにアウトプットするための構成と文章を考える際に理解がより深まるので、新たに得た知識が“血肉”になっていくのでしょう。

 2022年6月、ゲイツはネクタイ姿で黒いローブを羽織った高校時代の自分の写真と一緒にSNSにこんな投稿をしました。「『世界にポジティブな影響を与えたいと思っている若者にどのようなアドバイスをしますか』という質問を受けて、若い頃の自分に会えたら何を伝えたいかを一生懸命考えてみました。私のアドバイスはシンプルです。『たくさんの本を読んで、あなたが楽しめるスキルを見つけてください』」。

 「たくさんの本を読もう」というのは、いかにも読書家のゲイツらしいアドバイスです。ただその後にある「あなたが楽しめるスキルを発見しよう」という言葉も重要です。ゲイツは、プログラミングという大好きな趣味を見つけて才能を開花させました。世界的な名門のハーバード大学を中退してもいいと思えるほど、熱中でき、楽しめることを発見し、そこに力を注いだことがゲイツを成功に導きました。

 『天才読書』で取り上げたイーロン・マスク、ジェフ・ベゾスも読書の鬼で、少年時代に多数のSFを読んで宇宙に心を奪われて、宇宙開発に身を投じようと決意しています。「たくさん読書をして、自分が熱中できるものを見つけよう」というゲイツのメッセージは、若者だけではなく、大人の心にも響く金言といえるでしょう。

=文中敬称略

日経ビジネス電子版 2023年1月4日付の記事を転載]

世界一の富豪になった天才イノベーター3人が読んだ100冊を一挙紹介! イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツはどんな本を読んでいるのか? 歴史、SF、科学、経済……古典から最先端まで、100冊のエッセンスを詳細に解説! 教養のアップデートに役立つ「最高のブックガイド」。

山崎良兵(著)、日経BP、2640円(税込み)
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