少子化が急速に進んでいます。人口減少を埋める方策として移民が考えられ、2023年4月に国立社会保障・人口問題研究所が発表した将来推計人口でも、今後毎年16万人程度の外国人の流入超過を見込んでいます。日本において、移民は少子化対策となり得るのでしょうか。少子化や人口減少の問題に詳しい日本総合研究所の藤波匠さんが、架空の対談形式で解説します。書籍『 なぜ少子化は止められないのか 』(日経プレミアシリーズ)から抜粋、再構成。
先進国間での労働力獲得合戦
藤波 「豊かさ」を気持ちの問題だけにせず、ある程度の経済的裏づけのもと、「人口が減っても豊かに暮らす」ことができる社会を構築するためには、確固たるアダプテーション戦略が必要だと思います。アダプテーションとは、適応や順応、影響緩和という意味で、ここではある程度の人口減少でも豊かに暮らすための戦略という意味合いで使っています。今後、出生数が多少回復したとしても、大きな流れとして人口減少は避けられないため、少子化対策の成否にかかわらずアダプテーション戦略は不可欠となります。
アダプテーション戦略としては、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進や、街をコンパクトにして効率的なまちづくりを目指すコンパクトシティなどが考えられますが、移民はどうでしょうか。移民によって労働力不足などを回避していくという方法です。
斎藤 移民かあ、これは政治マターだなあ。現実問題としては、すでに日本には多くの外国人労働者がいて、経済を支えてくれているけれど、正面から移民解禁とはいわないものね。最近でこそ、与党関係者でも移民について議論しようという機運が高まってきていると感じることもあるけれど、ちょっとまだ時間がかかりそうじゃない。
藤波 移民は、人口減少のアダプテーションとしてだれもが考えるアイデアですよね。実際、外国人労働者の数はこの10年で2.7倍に増え、170万人になっている。でも、移民によって人口減少の影響を緩和しようというアイデアにはいくつか問題があります。特に日本の場合には。
まず、移民を今後も継続的に受け入れていくためには、日本が経済成長をしていくことが不可欠であるということです。正確には、移民送り出し国と受け入れ国である日本との間に、明確な経済格差があることが条件になります。
斎藤 これは感じますね。外国人技能実習生の送り出し国の変遷をみても、中国が多かった時代が終わり、今はベトナムの人が増えている。今後は、ベトナムの所得水準の上昇にともなって、送り出し国は、別のより低所得の国に移っていくんでしょうね。これについては、まだまだ世界には所得水準が低い国があるから、しばらくは大丈夫かな。
藤波 そうですね。加えて、今は世界中で労働力の獲得合戦になっているので、先進国間での優位性も重要なポイントですよ。例えば、オーストラリアは、1990年代後半から外国人の獲得に力を入れているんだけれど、今後、日本はこうした先進諸国と競争していかなければならない。
オーストラリアは、労働力が不足した分野で熟練労働者など高い技能を持つ外国人を、定住を基本として積極的に受け入れています。それが安定的な経済成長をもたらしている一因なんだけれど、とにかく賃金が高い。オーストラリアは、最低賃金が日本の2倍以上ですから。
途上国との所得格差だけではなく、先進国の中で所得水準が見劣りし始めた日本は、門戸を開放すれば、いつでも移民が殺到するなんて思わないほうがいい。移民を受け入れる上でも、経済成長が必要ということだし、この案件では「円」が強いというのもメリットとなる。
斎藤 2022年に円安がぐっと進んだとき、技能実習生が入ってこなくなるのではないかとネット上で話題になりました。日本の経済力が低下していけば、いつかは技能実習という制度自体が成り立たなくなるのではないでしょうか。
外国人の出生率は実は高くない
藤波 もう1点重要なポイントは、外国人の出生率は高いという思い込みです。斎藤さんもそう思っていませんか。
斎藤 そう思っていますよ。違うんですか。欧州なんかでは、外国籍の人から生まれる子どもが多いと聞いているし、日本の学校でも近年、外国に起源を持つ親の子が増えていますから。
藤波 確かにドイツなどをみると、外国籍の親のほうが出生率が高い傾向にあります。しかし日本では、外国籍女性の出生率は、日本人よりも低い傾向にあるんですよ。外国籍の人は年齢構成が若いので、彼らの子どもの数は多く感じられるかもしれませんが、合計特殊出生率をみると、日本人よりも低いことが知られています(*1)。
定かなことは分かりませんが、外国人の一部は賃金が低く、不安定な雇用環境で働いていることから、彼らにとって日本という国は子育てがしづらい国ということなのかもしれません(*2)。
また、ドイツの2010年代の状況をみると、ドイツ人の出生率の変動と連動して、外国籍の親の出生率も変化しています。ドイツ国内の経済状況や子ども政策の動きに合わせてドイツ人の出生動向に変化が生じるのと同様、国内の外国人もそれらの影響を受けている可能性が高く、おそらくこれは日本でも同じような傾向になると考えられます。
斎藤 日本人の出生率が下がれば、外国人でも下がるということですね。そんな気はしますね。結論としては、低成長の国は、移民を誘引する力も弱くなっていくという当たり前のことが、日本にも当てはまるということですね。移民に対する議論を避けてきた日本という国が衰退し、日本人が海外に移民として出ていく時代がもう目の前まで来ているような気がしますよ。
*2 京都大学の柴田悠(はるか)准教授は著書『 子育て支援が日本を救う 政策効果の統計分析 』(勁草書房/2016年6月刊)で、OECD全体では移民が出生率押し上げに有効であるものの、日本ダミーを加えたモデルによれば、日本では移民の受け入れが出生率を有意に押し下げることを示している。
『 なぜ少子化は止められないのか 』
藤波匠著/日本経済新聞出版/990円(税込み)

