「答えを出す」という意味では、人間はAIに勝つことができなくなっています。でもAIは、質問に答えることはできても、その質問を根本から疑うような力はありません。意味のある問いを考え、新しい社会や価値観をつくっていくためには、常識を批判的に捉えることができる、人間独自の視点が必要です。『16歳からのリーダーシップ』(一條和生・細田高広著)から抜粋・再構成してお届けします。
答えよりも問いをつくろう
皆さんは生成AIに触れたことがありますか? ChatGPTなどの会話型人工知能は、高校や大学で習うようなことはもちろん、いや、それよりも高度に学術的な内容でさえ、一瞬にして答えを示してくれます。学校では、テストやリポートの作成での使用は禁じられているところが多いようですが、無理もありませんね。まだまだ不正確な面もありますが、そう遠くない将来に精度は限りなく100%に近づくでしょう。
人間は一生勉強してもペーパーテストではAIに勝てなくなります。世界中のテキスト情報を検索し、分析し、組み合わせて答えを出しているわけですから。そうなると、もはや勉強に意味はないように思えてきませんか? 勉強するよりもAIを使いこなした方が手っ取り早いのではないか、と。ところが、すべての答えが出せる今こそ、勉強の必要性が増しているのです。
すべてに答えを出せるAIにできないことがあります。それは「疑問」を持つことです。生成AIは問いに答えるために世界中の情報を集めて分析し、何が常識的な結論か? を導き出すように設計されています。それを根本から疑う力は、持ち得ていないのです。一方、人類の進化は「疑う」ことで達成されてきました。常識を疑うことがなければ、いまだに太陽が地球の周りを回っていると信じていたはずですし、人間は最初から人間として地球に登場したと考えていたはずです。
学術的な内容だけではありません。昭和や平成の時代の映像を見て「なんだか古いな」と思うことがあるでしょう。例えば、食卓ではいつも女性がエプロンをつけて料理をしていたり、職場には男性しかいなかったり。ヘアスタイルやファッションも、違う時代のものはすぐに分かります。なぜそれを古く感じるかといえば、私たちが常に目の前にあるものを疑いながら、少しずつ、何を新しいと思うか、何を良いと思うかという価値観を更新しているからです。
AIにはこの発想がありません。だから「すべて」をAI任せにすると、時代を前に進めることができなくなるのです。常識を疑い、問いかけ、新しい可能性を模索する。それが人間にしかできないことをAIは教えてくれたのです。問いさえ立てられれば、答えはAIが一緒に考えてくれる。けれど、意味のある問いをつくるためには、知識を身につけつつ、目の前の常識を批判的に捉える訓練を積まなくてはなりません。答えだけ出す昔ながらの受験勉強的トレーニングだけでは太刀打ちできないでしょう。暗記したり、解法のパターンを身につけたりする以上に、本質的な勉強が必要になるのです。
ロケットもネットフリックスも問いから生まれた
これからのリーダーは、必ずしも答えを持っている必要はありません。その代わりに、大きい問いを持っていなくては務まりません。フェイスブック(現在のメタ)など有名企業に初期から出資して会社を育てたことで知られる投資家のピーター・ティールは、起業家にふさわしいかどうかをひとつの質問で見抜こうとしていました。それは「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?(注)」というものです。それはつまり、あなただけが本気で向き合っている問いはあるか? をたずねているのです。
アメリカの起業家イーロン・マスクは、「いつか地球が環境破壊によって住めなくなったらどうするべきか?」という問いを真剣に考えていました。そしてそこから「なぜ、人類は複数の惑星で暮らせないのか?」という問いを考えるようになります。地球だけでなく火星などで暮らす未来を想像し実現しようとすると、ロケットの製造コストが高すぎることが問題だと分かってきました。
そして今度は「なぜロケットは高いのか?」という問いに向き合い、そこから飛行機のように何度も使ってコストを下げる「再利用可能ロケット」を開発するというアイデアにたどり着くのです。それは、打ち上げたロケットを使い捨てにするのではなく、打ち上げた地点に着陸させるという設計でした。これによって、最終的には米航空宇宙局(NASA)が開発するロケットの100分の1の価格を目指しています。すでに3分の1以下にまで価格を圧縮することに成功し、2021年の9月には民間人4人だけによる宇宙旅行を成功させました。宇宙旅行は一般的になるかもしれません。問いが次から次へと新しい問いを連れてくる。そのダイナミズムを感じられる実話です。
動画配信サイトとして人気のネットフリックス。その創業のきっかけとなったとされる逸話も、問いにまつわるものでした。創業者のリード・ヘイスティングスが部屋の掃除をしていると、返却を忘れていたDVDが見つかったのだそうです(「アポロ13」という映画でした)。随分と時間がたっていたので、かなりの延滞料金の支払いが予想されました。その時に「なぜレンタルビデオは、スポーツジムのように定額制じゃないんだ?」という嘆きにも似た疑問が浮かび上がり、それが定額制のレンタルビデオサービスに結びついたというのです。
後に本人は、このエピソードは創業のきっかけを伝える物語としては、かなり単純化したものだとは認めているものの、この時の感情は真実だと答えています。
あなたの問いを、社会に意味ある問いに
先ほど、人生と仕事の共通目標を考えることを話しました。その目標は、人生の時間を使って答えるに値する「大きな問い」につながっているでしょうか? キャッシュレスの時代、AIの時代、人口減少の時代、というメディアが語る題材に対して、あなたらしい問いを立てられるでしょうか?
人口が減り、ひとり暮らしが増えていく。孤独な時代になるかもしれない。その時、AIは人の孤独を慰められるでしょうか? そう考えると人の仕事を奪う、奪わない、とは違う議論が見えてきそうです。キャッシュレスは便利です。けれど触れられるお金がなくなる時代に、お金の大切さをどうやって子どもたちに教えればいいのでしょう。そう問いかけると新しい教育のかたちが見えてきます。
大人たちの中にはSDGsのバッジをつけて満足している偉い人がいます。SDGsには17個のゴールがあります。17の枠の中で答えを出すことも大切です。けれど同時に18番目、19番目の問いを提示する人がいてほしい。それこそがリーダーの姿でしょう。なんでも答えられることはすばらしい。けれど常識や前提を疑い、面白い問いを投げかけられる人はこれからもっと貴重です。是非、答えを見つけたくてたまらない社会の問いを考えてみてください。
一條和生・細田高広著/日本経済新聞出版/1760円(税込)

