「リーダーシップがある」とは、どういう意味でしょうか? 偉いとか、権力があるというだけの意味ではありません。「こうだったらいいな」という望みや、「これでいいのだろうか」という問題意識を行動に移す勇気があれば、誰にでもリーダーシップを発揮する機会はあるのです。そんなリーダーシップの本質を、『16歳からのリーダーシップ』(一條和生・細田高広著)から抜粋・再構成してお届けします。

3人の会話にリーダーシップを見る

 皆さんの周りにリーダーシップがある人はいますか? 部活を仕切るキャプテンや、委員会活動を率いる委員長の顔がすぐに思い浮かぶでしょう。けれど、それだけではありません。リーダーシップは日常的に、ささやかなかたちであっても確かに発揮されているものです。例えば、教室で繰り広げられる、以下のようなやりとりを考えてみましょう。

Aさん:「中間テストの勉強、全然、捗らないんだけど」
Bさん:「ご褒美がないと頑張れないよね」
Cさん:「じゃあさ、中間テストの後に楽しい予定を入れようよ。ふたりのやりたいこと、なんかあるかな?」
Aさん:「いいね! ちょうど好きな俳優さんが出る映画が始まるんだ」
Bさん:「私もそれ見たいと思ってた」
Cさん:「じゃあ決まりだね。3人で久々に映画に行こう。私が予約しておくよ。
せっかくなら、お昼ぐらいに集まってランチ食べてからにしない?」
Aさん:「大賛成」
Bさん:「そういえば映画館のそばにパンケーキ屋さんがオープンしてた」
Cさん:「いいね。じゃあパンケーキ屋さんの予約は、お願いするね。あとは、しっかり勉強するだけ。今日は映画館じゃなくて図書館行こっか」

中間テストの後の予定を話し合う友人たちの間に、上下関係はありません(写真:paylessimages/stock.adobe.com)
中間テストの後の予定を話し合う友人たちの間に、上下関係はありません(写真:paylessimages/stock.adobe.com)
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リーダーシップに欠かせない3つの要素

 この3人は同級生の友人です。当然ながら上下関係はありません。けれどここでCさんが果たしている役割には、小さなリーダーシップの芽生えが観察できます。もしもCさんが会話に参加していなかったらどうなっていたかを、想像してみましょう。Aさんが「勉強が捗らない」と不満を言い、Bさんは「ご褒美がないと頑張れない」と同調します。そこで会話は終わっていた可能性が高いのではないでしょうか。

 Cさんがいることで、事態は動き出します。2人の声に耳を傾け真意を理解したCさんは、まず「楽しい予定を入れる」という目標を提案します。続けてアイデアを募ると、Aさんの「映画に行く」というアイデアをBさんの賛同を得た上で決定し、さらに「楽しい予定」を充実させるべくランチに行くという提案をしました。次にBさんがパンケーキというアイデアを示すと、それに賛同した上でBさんに予約するという仕事を任せるのです。

 このようにして「他愛もない愚痴」で終わるはずの会話から、「テスト勉強を頑張るための予定をつくる」という新しい行動が生まれたのです。これはCさんの影響力がなければなし得ないことでした。

 リーダーシップに欠かせない要素は、(1)目標、(2)仲間・チーム、(3)影響力の3点だと言われています。つまり、リーダーシップがあるとは「目標を掲げてチームを導く影響力」があることだと言えるでしょう。

 こう考えてみると、何かしらのリーダーポジションにあること、つまり、いわゆる長という名前がついた役割を果たすことと、リーダーシップを発揮することとは、必ずしも同じではないということも改めて理解できるはずです。確かに部長や委員長には「長」と名乗るだけで強い影響力が与えられることは確かでしょう。けれど、適切な目標をつくることができず、また、共感や信頼を得ることができなければ、その影響力は弱まってしまいます。つまり長であっても、他者がついてこないのならば、リーダーシップは発揮していない。つまり、実質的にはリーダーではないのです。

すべてはリーダーシップでできている

 この社会では多くの人が、「こうだったらいいのにな」という望みや「これでいいのだろうか」という問題意識を持っています。しかしながら、ほとんどの人が行動に移そうとはしません。せいぜい仲間内の会話のネタにするだけです。しかし、誰かがそこから新しい目標を立てて、みんなに共感してもらい、実現に向けて影響力を発揮するという行動をとらなければ、世界は少しも変わりません。

おいしいパフェ屋さんがあるのは、誰かのリーダーシップのおかげ(写真:裕人 石原/stock.adobe.com)
おいしいパフェ屋さんがあるのは、誰かのリーダーシップのおかげ(写真:裕人 石原/stock.adobe.com)
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 裏を返せば、人類がロケットに乗って宇宙に行けるのも、ピラミッドができたのも、テーマパークがあるのも、映画がつくられるのも、皆さんが学校という場所で学ぶことができるのも、近所においしいパフェ屋さんがあるのも、すべては誰かのリーダーシップのおかげなのです。リーダーシップが発揮されなければ、「いつか空を飛べたらいいな」と穴倉で暮らし、「もっとおいしいものを食べたいな」と草をかんでいたことでしょう。

リーダーシップの始まりは「前に立つ勇気」

 どうも私たちは、リーダーシップとは上に立つ人が発揮すべきものと考えてしまう傾向があります。うまくいかないのはすべて上に立つ人のせいである、と。もちろん偉い人には偉い人なりの責任がありますから、何かが失敗した時には、彼・彼女らが非難されるべきこともあるでしょう。ただ一方で、上にいない自分たちは何も責任のない安全地帯におり、リーダーシップを発揮する必要なんてないんだ、と考えているとしたら問題です。

 上に立つ人が素晴らしいことを行うのをただ待つ社会では、新しいものはなかなか生まれてきません。どんなに有能なリーダーでも、ひとりでできる仕事には限界がありますから。

 新しいものが次々と生まれてくる社会には、「宇宙に行く」とか「地元の名物になるおいしいラーメン屋さんをつくる」といった目標を立てて、周囲を突き動かそうとする人がたくさん出現します。決して、誰かの上に立つ偉い人たちではありません。

 自分が成し遂げたいことのために前に踏み出し、仲間を導く人たちです。上に立つより前に立つ。ここにリーダーシップの本質があります。

 日常に不満がある時、あなたは誰か偉い人が世界を変えてくれるのを待ち、偉いくせに何もしないと文句だけ言って過ごしますか? せっかくなら自分で変化をつくる、という選択肢も考えてみませんか?

社会を見渡して変えたいと思うことはありますか? 現代のリーダーは、上に立つより前に立つ人。それぞれが、自分のやりたい目標を見つけ、仲間を巻き込み、実現に向けて行動し、かなえていく。誰もが持てるそんなリーダーシップにこそ、世界を変える力があります。

一條和生・細田高広著/日本経済新聞出版/1760円(税込)