スイスのトップビジネススクールIMD教授の一條和生さんと、TBWA HAKUHODOの細田高広さんがタッグを組んで執筆した『16歳からのリーダーシップ』。AIのさらなる普及は、リーダーの存在意義や私たちの生き方をどう変えていくのでしょうか。著者らは、そんな時代だからこそ、人間にしか持てない「問う力」と「直感力」が重要になると主張します。対談の第3回目は、そんなAI時代のリーダーシップのあり方について紹介します。

AI時代は全員がリーダー

細田高広氏(以下、細田氏) すべての問いに対して瞬時に答えを導き出す生成AIは、言うならば超優秀なエージェント、アシスタントやインターンが何百、何千といるようなものです。そのAIを使いこなす人間は、大勢を率いるリーダーと言えますよね。つまり、AI時代は全員がリーダーで、実はもう、私たちはその状態にいるわけです。

一條和生氏(以下、一條氏) AIは、現代人にとって必要不可欠な“人材”だと言えますよね。企画書の作成にも資料作りにも、文章校正にも使えます。僕も英文の原稿を書いたときは、AIに必ず校正してもらって、その結果をもとに表現を推敲(すいこう)するのが習慣になっています。

細田氏 博報堂でも、AIの新しい活用が広がっています。24年にローンチした「STRATEGY BLOOM CONCEPT」通称「細田AI」は、私の著作やこれまでの発言、企画書などを学んだコピーのようなもので、利用者と会話しながら一歩ずつ話を進めていく、対話型のAIツールです。

 実は、「細田AI」を一番使っているのは、私と同じようなクリエイティブ職ではなくて、営業チームの方たちだと聞いています。自身の専門とは異なるテーマについて考えるとき、不安を解消するために使ったりする。作業の短縮になるだけでなく、「細田AI」をきっかけに、企画を書いたり、コンセプトを作ったり、今までしなかった作業をするようになっているのだと。

一條氏 とても興味深い取り組みですね。そうやって多様な使われ方をされることで、今後ますます、AIの精度は上がっていくでしょうね。

「AIが進化するほど、人間の問う力がますます重要になる」と細田高広さん
「AIが進化するほど、人間の問う力がますます重要になる」と細田高広さん
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細田氏 こうしたAI時代に、決定的に大事になるのが人間の「問う力」です。AIには意志がありませんから、自問することはできず、人間が問わない限り、答えを出すことは絶対ないからです。つまり、人間が問う精度が高まらないと、AIの答えの精度も上がらないということ。知りたいことを聞くだけではなく、出てきた答えに対して、なぜそうなのか? と疑問に思ったり、ほかに選択肢はないのか、と新しい可能性を模索したり。そんなふうに問う力を持っていないと、AIという最強のアンサーマシンを使いこなすことはできません。

「もしもプロ野球チームの監督が魔法を使うことができたら」

すぐに答えが出る便利さに満足している場合ではなく、深掘りして問いを重ねられるか否かが、AIの使い手としての差になるんですね。

細田氏 ある小説家の方と話をしたとき、今後、小説の書き方は変わって、どれだけ面白い問いをAIに投げかけられるかがカギになるだろう、とおっしゃっていました。AIを使えば誰でも面白い作品を書けるようになるわけではなく、問い次第だ、と。

 例えば、その作家さんは、「もしもプロ野球チームの監督が魔法を使うことができたら」という設定で、いろんな問いを重ねたことがあるそうです。監督の魔法で、対戦チームの選手のコンディションを数値で把握できるから、勝率は常に5割を上回るようになる。けれども、何年やってもシーズンの最後には必ず同じ2チームが勝ち残る。なぜかというと、相手チームの監督も同じ魔法の使い手だったから。そのことが判明するシーンとして、ある年の試合の前日に、出先で監督同士が鉢合わせになり、そのすれ違いざまに、一方の監督が「使ってますか?」と聞くと、もう一方が「あなたも使ってますね」と。

一條氏 面白い話ですね! 問いが面白いからこそ導き出された答えだというのがよく分かりますね。ありきたりで誰もが考えそうな問いだったら、そんな面白いストーリー展開にはならないでしょう。AI時代においては、こうしたユニークでオリジナリティーあふれる問いをすることが、人間に課せられた役割なのかもしれませんね。

「AIがいくら優秀でも、変化をつくるのは人間にしかできないこと」と一條和生さん
「AIがいくら優秀でも、変化をつくるのは人間にしかできないこと」と一條和生さん
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 あともう一つ、直感力を磨いておく必要もあると思います。なぜなら、AIは過去のデータから答えを出すだけだから、今の時代の価値観や感覚にフィットするのかどうか、というジャッジは人間の直感に頼るしかないからです。どんなにAIが発展したとしても、AIは価値観も感覚も自動更新できません。それをできるのは我々人間のみ。日々いろんな経験をして直感力も磨いていかないと、二流のAIの使い方しかできませんね。

間違うことを恐れないで

細田氏 その通りだと思います。現段階のAIにはAIバイアスという、データやアルゴリズムの偏りによって不公平な結果を出すことがあります。それを人間が補正していかないといけません。例えば、あるAIに「サッカーの日本代表は、ワールドカップで優勝していますか」と聞くと、「していません」という答えが返ってきます。でも、本当は優勝しているんです、女子が2011年に。そんな当たり前の事実でさえ、見落とすんです。「日本代表=男子」というバイアスがかかっているせいです。さすがに学習が進んできて、こうした回答も少なくはなってきていますが。

 また、ある男性が花占いについていろいろと聞いたら、AIが勝手に質問者は女性だという前提で答えていたということもありました。AIは統計学的な分析で進めるので、花占いをする人は女性だろう、とひもづけて答えてしまうんです。これは、多くの人間がそうした価値観を持っていたことの表れでもありますが、「それってもう古くない?」と指摘することは人間にしかできません。

「これからは直感力が大事」という思いには二人とも納得
「これからは直感力が大事」という思いには二人とも納得
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人間が補正していく必要があるというのは、AI相手にリーダーシップの発揮のしどころ、と言えますね。

細田氏 AIを使えば使うほど、補正する力もつくと思います。基本的に、AIはどんな問いに対しても、「とてもいい質問ですね」とか「とてもいい着眼点ですね」と必ず褒めてくれますね。人と話すときと違って、相手に負担をかける心配もありませんから、間違うことを恐れず、どんどん問いましょう。

一條氏 「失敗は発明の母」とも「失敗は成功のもと」とも言われる通りで、人は間違うことで、誰も思いつかなかったことや人との違いに気づくことができます。逆に、間違えないようにしている限り、既存のパターンを繰り返すしかありません。人間はさまざまなバイアスから必ずしも自由ではないですが、そのために自分が見落としていることを見つけるのにも、AIは有益ですね。

 日本企業は「間違えてはいけない」という強迫観念にとらわれすぎている傾向があります。「間違えるな」とくぎを刺しながら、競争に勝つために「違いをつくれ」と号令をかける。この2つを両立することは不可能に近いです。違いは、間違いながら見つけていくもの。だから、間違うことを恐れないでください。

取材・文/茅島奈緒深 取材・構成/石純馨(日経BOOKSユニット) 写真/小野さやか

16歳からのリーダーシップ

社会を見渡して変えたいと思うことはありますか? 現代のリーダーは、上に立つより前に立つ人。それぞれが、自分のやりたい目標をみつけ、みんなに広げ、実現に向けて行動し、かなえていく。誰もが持てるそんなリーダーシップにこそ、世界を変える力があります。

一條和生・細田高広著/日本経済新聞出版/1760円(税込)