会議、プレゼン、日常会話……。あなたの話はなぜ伝わらないのか。「過去の話をもとに伝えたいことがあるなら、まずは失敗談から」と話すのは、テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作さん。あなたの経験談は単なる苦労話や自慢話になっていませんか? 「相手が本当に聞きたい失敗談」の伝え方とは? 新刊『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(日経BP)から抜粋・再構成してお届けします。連載第5回。

どうすれば効果的に、相手に伝わるのか

 もし、過去の話をもとに、どうしても相手に伝えたいことがあるなら、まずは自分の失敗談から語り始めることです。

 多くの場合、「過去の成功」ではなく、「過去の失敗」を話すほうが伝わります。失敗談は成功談よりも多くの教訓を含むからです。

 聞き手の「そうはなりたくない」という切実な願望も引き付けます。失敗を率直に語る人のほうが、成功を声高に語る人より共感や信頼感を得られるため、尊敬されやすいでしょう。

 そこで相手が聞きたいのは、同じ失敗をしないための情報です。つまり「再現を防ぐ」ための方法です。

 例えば、ある上司が、期限までに営業用の資料を準備できなかった部下を注意するとします。そのとき、単に「きちんと時間通りに出しなさい。自分が若い頃でも、締め切りだけは絶対に守っていたもんだ」と説教するのは、あまり効果的ではありません。

「失敗談」の生かし方を語る豊島晋作氏(写真:竹井俊晴)
「失敗談」の生かし方を語る豊島晋作氏(写真:竹井俊晴)
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 それよりも、次のように自身の失敗談から話すほうが、部下にとっても納得しやすいはずです。

自分の失敗談から話す…例えば?

 「自分も新入社員の頃、会議の資料が間に合わず上司にこっぴどく叱られたことがある。『完璧を目指さなくていい。まずは70点の資料でもいいから約束の時間を守れ』と言われた。だから、それを意識して頑張ったよ。ところが、その後に異動した部署では『70点の資料なんか顧客に出すな。会社の評価が下がるだろう!』と言われて面食らったのを覚えている。

 結局、仕事のゴールや基準は上司によって変わることが分かった。今思えば、どちらの教えも間違いではない。新人のうちは、まずは70点でもいいので時間を守ることを優先しなさい。経験を積んだら100点のものを時間内に仕上げるプロになりなさい。こういうことなんだろうな。だから、君もまずは時間を守ることを徹底してくれ。そして、いつかは100点を取れるようになってくれればいい」

単なる思い出話を伝えるのでは、なぜダメ?

 単なる叱責ではなく、こうした自分の失敗体験と教訓を交えて伝えれば、部下も前向きに受け止めやすくなります。

 かつて、政治記者だった私は後輩の記者たちに、「昔は何日も何日も政治家や首相秘書官の夜回り・朝回りを繰り返していたもんだ」と、まるで武勇伝のように話していました。しかし、これは実際には全く意味のない苦労話でした。

 確かに、当時の私は、夜中や早朝に何百回も政治家や官僚の自宅の前で待ち続けて取材をしていました。ところが、相手のことをよく調べもせず、まともに会話もできないまま、ただ待ち続けるだけの時間を過ごしていたことが多くありました。ろくに話を聞けず、無視されることも何度もありました。それでも、私は「こういう無駄な経験があったから今がある。だから無駄な経験も時には必要だ」と、ノスタルジーの混じった、単なる思い出話を後輩にしていたのです。

 今振り返ると、この私の「伝え方」は、いろんな意味で間違っていました。

 まず、こうした過去の働き方は、現在の仕事の進め方にそぐわないものです。さらに、そもそも、「自分の努力が結果につながらなかった」という純粋な失敗談でしかなく、「再発を防ぐ」ための学びもありません。純粋に失敗の日々だったことを認めるのには時間がかかりましたが、今では後輩などから聞かれたときは、次のように伝えるようにしています。

 「自分は二流どころか三流の記者だった。何日も何日も夜回り・朝回りで無駄な時間を過ごした。でも、それは取材先のことをろくに調べず、準備不足のまま突撃していたから。結果、ほとんどネタはつかめなかった。

 だから、同じような無駄な時間を過ごしてほしくない。取材をするなら、事前に取材相手の趣味、出身地、学校、好きなもの、悩み、読んでいる本まで徹底的に調べる。読めるものはすべて読み、相手の思考を理解した上で取材したほうがいい。そのほうがよほど効率的だし、時間が無駄にならない。もっとも、それでもうまくいかないことは多い。取材先との相性もある。そんなときでもくじけないメンタルのほうが大事だろう」

 部下や後輩に何かを伝える際、ただ厳しく指摘するのではなく、自分自身の失敗談を交えながら伝えることで、相手にとって納得しやすいものになります。単なる苦労話や武勇伝ではなく、そこから得た学びをセットで伝えることが重要です。

 つまり、過去の失敗を正直に認め、その上で「どうすればもっと良い結果が出せるのか?」という聞き手にとっての「再現可能性」の視点を持つことが、より良い「伝え方」になるのです。

成功体験を話すことは、話し手の評価下げる場合も

 多くの場合、「後輩に自分の経験を伝えるべき」という気持ちの奥には「昔の自分の努力や成功を知ってもらいたい」という承認欲求が潜んでいます。特に、自分に何か大きな成功体験があると、「そのときの知識や教訓を誰かに伝えることで、自分の過去の栄光をアピールできる」という願望が強くなるからです。

 ただ、多くの人にとって、他人の成功体験は、そんなに聞きたい話ではありません。むしろ「自慢話」「過去の武勇伝」として話し手の評価を下げる場合もあります。基本的に自分の成功体験は、よっぽど求められているとき、よっぽど大きな教訓があるときなどに限定して伝えるべきだと思います。

 一方で、「自分の過去を肯定したい」という思いから、過去の話をする人もいます。過去に後ろめたいことや苦い記憶があった場合、「そんな過去の自分を肯定してほしい」「承認してほしい」と多くの人は無意識のうちに願っているからです。

 「あのとき部下を苦しめてしまった。だが、仕方なかったんだ!」という類いの話はよくあります。こうした思いを吐露して、他人がうなずいたり理解を示してくれたりすると、「自分は許された」と感じることができるからです。もちろん、実際に許されているかどうかは全く別の問題です。許されていない場合も多いでしょう。

どうしても成功談を語りたいなら…説得力持たせる方法

 いずれにせよ、多くの「過去の話」は「自己満足のための話」であることが多いのです。成功談の場合、話し手は「役に立つはず」と思っていても、聞き手は「また思い出話か」「また武勇伝か」と思っているかもしれません。

 どうしても成功談を語りたい場合は、その前にまずは失敗談を語り、「その失敗から学んで成功できた」「少なくとも次は失敗しなかった」という流れになれば、再現可能性の視点がある話になり、あなたの成功談はより説得力を持つと思います。

 そして、過去について話すときは具体的で役立つ情報をはっきりと提示すべきです。

 例えば「あなたがやろうとしていることは、過去に自分たちも経験している。そのときは失敗して大変な目に遭ったので、こうした部分に注意してほしい」といった具合です。こうすれば、相手は共感を持ってしっかりと聞いてくれるはず。

 結局のところ、聞き手が本当に知りたいのは、「今」に役立つ情報や教訓なのです。

(写真:maroke/stock.adobe.com)
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日経クロスウーマン 2025年6月5日付の記事を転載、一部改訂]

テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作氏が、過去の失敗や苦い思いを通してたどり着いた「自分の考えや情報を分かりやすく人に伝える方法」、「より正確に、より多くの情報を人から聞き出す方法」について、基本的な部分から応用的な要素までを徹底解説。

豊島晋作(著)、日経BP、1980円(税込み)