マーサーは1945年に設立され、世界130カ国で組織改革や人事制度構築、資産運用などに関するコンサルティングを行っている大手コンサルティングファームです。同社でコンサルティングを担当している諸橋峰雄さん、河本裕也さんと、マーケティングを担当しているヘレラ純代さんにお薦めの本を聞きました。後編では、河本さん、ヘレラさんが推薦する本を紹介します。
仕事で大事なのはコツ
日経BOOKプラス編集部(以下、──) 今回は河本さん、ヘレラさんのお薦めの本を教えてください。
マーサー ジャパン プリンシパル 河本裕也さん(以下、河本) 1冊目に紹介したいのは、『 コンサル0年目の教科書 誰も教えてくれない最速で一流になる方法 』(古谷昇著/PHP研究所)です。この本は『もっと早く、もっと楽しく、仕事の成果をあげる法 知恵がどんどん湧く「戦略的思考力」を身につけよ』(PHP研究所)という本の改訂版で、品切れになったときはネットで高値で取り引きされていたほど人気でした。
著者の古谷さんは、BCG(ボストン コンサルティング グループ)でシニア・ヴァイス・プレジデントを務め、その後ドリームインキュベータを設立したコンサルティング業界ではレジェンドのような方。この本で書かれていることはシンプルで、「仕事はコツでやれ」ということです。
分かりやすかったのは、子どもに跳び箱を教える例です。跳び箱を飛ぶには、「走って」「踏み切って」「飛んで」「またいで」「着地する」といった一連の動作が必要です。一つひとつの動作に着目すると「助走のスピードが足りない」「踏み切る位置が悪い」などと注意したくなるのですが、「コツ」という観点から捉えると、一番大事なのは「両腕で体重を支えること」。このコツを教えると、運動が苦手な子どもであっても跳び箱を飛べるようになるそうです。
私もこの本を読んで以来、「この仕事のコツは何か」を常に考えるようになりました。コンサルティングファームでは、「メンバーとして成果物を作る」「マネジャーとしてプロジェクトを回す」「ディレクターとしてプロジェクトを売る」「組織をマネジメントする」という4つの仕事の段階がありますが、そのときどきでコツを考えながら仕事をしてきました。
コンサルタントの方が書いた本はたくさんありますが、この本が特に優れている点はありますか。
河本 他のいわゆるコンサル本は、「バリューを出せないコンサルタントは生き残れない!」といった精神論や、ロジカルシンキング、データ分析、ドキュメンテーション、プレゼンテーション、プロジェクトマネジメントといったスキルを説いている本が多いですよね。一方、「重要なのはコツだ」と説いているのは私の知る限りこの本だけで、とても異質です。そして、古谷さんにとってのコツは「知恵を出せるかどうかの一点」とも書かれていました。
スキルだけを極めても、いいコンサルタントにはなれない。コンサルタントにとってスキルは必要条件、その人ならではのコツが十分条件という考え方を、私はとても大事にしています。
マーサー ジャパン プリンシパル、役員報酬・コーポレートガバナンスプラクティスリーダー
経営者には「投資家の視点」が必要
なるほど。では、次のお薦めの本を教えてください。
河本 次にお薦めしたい本は、『 三位一体の経営 』(中神康議著/ダイヤモンド社) と『 戦略としての企業価値 』(佐藤克宏著/ダイヤモンド社)です。
どちらも事業家と投資家の視点を併せ持って経営を捉えよという内容で、役員報酬、役員指名、コーポレートガバナンスに関わる私にとって、この2冊が「仕事のコツ」になります。例えば、『三位一体の経営』の第7章では「集団意思決定」について書かれていますが、ここに書いてあることを本当に全部実行できれば、その会社のコーポレートガバナンスはうまくいくはずということです。
具体的にはどういったことが説明されていますか。
河本 「取締役会で扱うべき、企業価値を大きく左右する重要議案」を例に取ると、それは経営計画、M&A、事業ポートフォリオ、投資、資本政策、意思決定プロセス・ガバナンスの6つ。しかし、実際の取締役会では、単純な決裁案件が山ほどあって時間を取られてしまう。そのギャップを解消するために、コンサルティングが必要になります。
『戦略としての企業価値』はどういった内容ですか。
河本 著者の佐藤克宏さんは日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)に入行して、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、早稲田大学のビジネススクールで教えている方です。「経営」という営みをこれだけ全体感を持って書いた本はおそらくないと思います。例えば、「ミッション・ビジョン・バリュー」「経営・事業戦略」「機能戦略」といったビジネス上の必須科目は、それぞれ単体で学ぶことが多いですよね。でも、この本で紹介されているフレームワークでは、お金の流れによって経営を理解する「投資家」の思考と、事業によって企業価値を創造していく「事業家」の思考が見事につながっていて、「木を見て森を見ず」に陥ることなく経営を考えるヒントになります。
メンバーの意識を変えた『エッセンシャル思考』
次に、ヘレラさんのお薦めの本を教えてください。
マーシュ(旧マーシュ・マクレナン)ジャパン、マーケティング&コミュニケーションズリーダー ヘレラ純代さん(以下、ヘレラ) 私が1冊目に紹介したいのは『 エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする 』(グレッグ・マキューン著/高橋璃子訳/かんき出版)です。
私は現在、日本におけるマーサーとマーシュを合わせたグループ全体のマーケティング・広報を担当しています。マーケティングの仕事はボーッとしていると、日々さまざまな依頼がグローバルやアジアチームからあったりして、何を優先すべきなのか分からなくなることがあります。そのため、チームメンバーにも「優先順位は?」「この目的は?」と確認しながら日々仕事をしています。
『エッセンシャル思考』を読んで、「最小限の時間で最大限の成果を出す」というところに深く納得しました。同じ著者が『 エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する 』(高橋璃子訳/かんき出版)という本も書いていますが、こちらは「どうやって楽に成果を出すのか」が書かれているので、併せて読むといいと思います。
私がこの2冊を読んだのは、在宅勤務が続いてチームメンバーになかなか会えない新型コロナウイルス禍の時期でした。ふと思いついて、「この人には『エッセンシャル思考』」「この人には『エフォートレス思考』」とフィットしそうなほうをプレゼントして読んでもらったのですが、今ではチームメンバーが普通に「このイベントの目的は何ですか」「どれだけの成果が上がるんですか」と言っているのを聞いて、本が役立ったのだと実感しました。
マーシュ ジャパン マーケティング&コミュニケーションズリーダー
次のお薦めの本は何でしょうか。
ヘレラ 『 多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 』(マシュー・サイド著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。この本は会社の先輩から薦められました。
本の冒頭で、人材が偏っていたことが、CIA(米中央情報局)が9.11米同時多発テロを事前に防げなかった大きな要因の一つであるというストーリーが書かれていて、引き込まれました。他にも一流の登山家がエベレストで遭難するなど、多様性がなかったことで起きた悲劇的な事例がさまざまに紹介されています。リーダーにすごく強い思想の人がいると、みんながだんだんそれを正しいと思い込み、一定の考え方しかできない組織になってしまうんですね。
逆に言うと、多様性のプラスの面がよく分かります。日本で多様性というと「女性の管理職を増やして」といった話になりがちですが、民族、年齢、仕事の経験といった多様性も組織にとってプラスとなり、イノベーティブなアイデアが生まれます。特にリーダー層や経営層に薦めたい一冊です。
また、多様性を理解するための本として、『 異文化理解力 相手と自分の真意がわかるビジネスパーソン必須の教養 』(エリン・メイヤー著/田岡恵監訳/樋口武志訳/英治出版)も参考になります。この本は米国や中国、フランスなど国ごとの文化の違いが、それぞれの国の言語の特徴などから解説されています。異文化を理解するためのツールとして「カルチャーマップ」を紹介しており、多国籍のチームをまとめるときに役立つ内容ですね。
文/三浦香代子






