パナソニック コネクトグループは、最新テクノロジーを駆使してBtoBソリューションを提供するパナソニックグループの中核企業群の1つです。同社の榊原彰CTO(最高技術責任者)は、企業文化や組織を変革するために、半年に一度、課題図書を設定した「オフサイトミーティング」を行ったといいます。榊原さんに、その経緯や目的を聞きました。

研究開発組織の大きな課題

 私はこれまで日本アイ・ビー・エムで技術職として多様な職種を経験し、日本マイクロソフトでは執行役員CTO(最高技術責任者)を務めました。2021年にパナソニックに入社し、23年からパナソニック コネクトの執行役員シニア・ヴァイス・プレジデント(CTO)、26年4月からはパナソニック ホールディングスの執行役員グループCAIO(最高AI責任者)も兼務しています。

 CTOとしては、研究開発チームを率いて、今までパナソニックグループが手掛けてこなかったソフトウエアビジネスの開拓、ソフトウエアを使いこなすためのカルチャーを醸成しています。全社員を巻き込んだハッカソン(事業アイデアを競う技術交流会)や事業部を超えた技術者コミュニティーも立ち上げました。

榊原 彰
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榊原 彰(さかきばら・あきら)
パナソニック コネクトグループ シニア・ヴァイス・プレジデント CTO
パナソニック ホールディングス 執行役員グループCAIO

1986年、日本アイ・ビー・エムに入社、以降2015年末に同社を退職するまでに技術職が体験可能な大多数の職種を経験、グローバル技術職のトップであるIBMディスティングイッシュトエンジニアに認定され、IBMグローバルサービス事業CTO、スマーターシティ事業CTOを歴任。16年より、日本マイクロソフトに入社、執行役員CTO。18年からはマイクロソフト ディベロップメントの代表取締役社長も兼務。21年10月末に両社を退職。21年11月、パナソニックに入社し、同社社内カンパニーであるパナソニック コネクティッドソリューションズ社にて執行役員常務CTO。22年4月より、同社のホールディングス制移行に伴い、パナソニック コネクトにて執行役員ヴァイス・プレジデントCTO、23年4月より執行役員シニア・ヴァイス・プレジデントCTOとして同社の研究開発組織をリード。26年4月、パナソニック ホールディングスの執行役員グループCAIOに就任し、パナソニック コネクトグループCTOと兼務。

 実は私がCTOに就任した当時、研究開発組織は閉鎖的な雰囲気でした。研究内容や開発したプロダクトを他者と共有せず、コミュニケーションを取るのは同じ研究プロジェクトのメンバーという具合で、イノベーションが生まれにくい状況でした。さらに問題だったのは、当社の事業ポートフォリオと親和性が少ないプロジェクトがかなり見受けられたことです。

 そんなわけで、野放図に立ち上がっていた300以上の研究プロジェクトを100ぐらいまで絞り込み、パナソニック コネクトの事業に貢献する回路形成やインフラシステムなどの研究を重視するべく、ポートフォリオを変えていきました。ただ、研究者にとっては、イシュー(課題)が分かっている研究だけではつまらない。よく分からないけれど、将来役に立つかもしれない研究をしてもいい。そこで、80%は「イシュードリブン」、20%は「ブルースカイ」といって20年後、30年後に向けた研究をしています。

 なぜ、せっかくの研究が事業ポートフォリオとかけ離れる事態になっていたかというと、人事制度が硬直的だったことがあります。かつては「上司の言うことだけ聞きます」といったタテ割りの組織でした。何か新しいことをやろうとしても、すぐに人事異動ができない。期限付きのプロジェクトに人を集め、終わったら解散、ということができない組織でした。

課題図書と2日間の合宿で組織変革

 この組織をモダンに変える必要があると考え、プロジェクトごとに「プロジェクトマネージャー」を任命しました。以前からマネージャーがいるにはいたのですが、うまく機能していなかったので、新たにプロジェクトマネージャーを立てたのです。しかし、マネジメント手法を大きく変えたことで、従来のピープルマネージャー(いわゆる組織長としてチームを率いるマネージャー)からは、「自分はいったい何をすればいいのか」といった疑問や戸惑いが生じるようになりました。

 そこで、みんなでこの課題を考えようと設定したのが「オフサイトミーティング」です。半年に一度、シニアマネージャー(部長職)以上がイシューの確認や今後チャレンジすべきこと、そのためにはどういった制度が必要かを徹底的にディスカッションする2日間の合宿です。

 2022年5月からスタートし、2025年11月までに8回行いました。東京、大阪など全国から社員が出席し、経営企画やマーケティングなど研究開発以外の部署も参加した回もあったので、参加者は多いときで最大50人ほどになりました。各回のテーマに合わせて課題図書を設定し、『 コーポレート・エクスプローラー 新規事業の探索と組織変革をリードし、「両利きの経営」を実現する4つの原則 』(アンドリュー・J・M・ビンズ、チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著/加藤今日子訳/英治出版)など8冊を取り上げました(各回の課題図書は以下を参照)。

オフサイトミーティングで取り上げた課題図書
実施年月 課題図書 著者 出版社
2022年5月 ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント リチャード・シェリダン 翔泳社
2022年11月 失敗の科学 マシュー・サイド ディスカヴァー・トゥエンティワン
2023年5月 9プリンシプルズ 加速する未来で勝ち残るために 伊藤穰一、ジェフ・ハウ 早川書房
2023年11月 世界最高のリーダーシップ 「個の力」を最大化し、組織を成功に向かわせる技術 フランシス・フライ、アン・モリス PHP研究所
2024年5月 EMPOWERED 普通のチームが並外れた製品を生み出すプロダクトリーダーシップ マーティ・ケーガン、クリス・ジョーンズ 日本能率協会マネジメントセンター
2024年11月 コーポレート・エクスプローラー 新規事業の探索と組織変革をリードし、「両利きの経営」を実現する4つの原則 アンドリュー・J・M・ビンズ、チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン 英治出版
2025年5月 リアライン ディスラプションを超える戦略と組織の再構築 ジョナサン・トレバー 東洋経済新報社
2025年11月 ワイドレンズ イノベーションを成功に導くエコシステム戦略 ロン・アドナー 東洋経済新報社

 課題図書はこれまで私が読んだ本から選び、オフサイトミーティングの1カ月前には提示して、当日までに読んでもらうようにしています。2022年5月以降にシニアマネージャーになった人には今までの課題図書を全部読んでもらうので、大変だったかもしれません。

「本の力は偉大」

 なぜ課題図書を用意したかというと、やはり本の力は偉大だからです。おそらく、本に書いてあることと同じことを私が言っても、みなの心には響かないでしょう。本を読むと、読んだ内容を咀嚼(そしゃく)し、みんなで話し合って認識の共有ができます。だからこそ、いい施策を考え、納得して動けるようになる。もし、事前の課題図書がなかったら、議論も深まらないし、私の言葉も素通りしてしまったのではないかと思います。

「課題図書を用意したのは、本の力が偉大だから」
「課題図書を用意したのは、本の力が偉大だから」
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 課題図書は私が毎回選んでおり、1冊に絞るのは大変なのですが、まずテーマを設定すれば、それに合う本は必ず見つかります。私は紙の本や電子書籍で常時2~3冊、月に10冊ほどは本を読むので、頭の中にストックが数千冊はあるでしょうか。過去の記憶を呼び起こすこともあれば、課題に合わせて本を読み始めることもあります。世の中には数多くの本がありますが、情報を正しくふるいにかけ、「自分が得たい答えは何か」を明確にすると、確実に本からヒントを得られると思います。

 参加者には課題図書を読んできてもらいますが、オフサイトミーティングでは本の感想をシェアするのが目的ではありません。あくまで本はヒントで、「課題をどう解決していくか」がメインです。そのために、少人数のグループに分かれてディスカッションを行います。

 次回はこれまでに取り上げた本について説明します。

取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美