菓子や乳製品などで知られる大手食品メーカー、江崎グリコ(以下、グリコ)。同社の執行役員で第一セールス部長を務める渡邊武さんは、課題図書を設定して部下に薦めています。単にそれらの本を読むだけではなく、みんなで感想を共有する仕組みをつくって仕事に生かしているのが特徴です。これまで課題図書とした24冊の中から、特に反響が大きかった本を渡邊さんに紹介してもらいました。

入社当時の気持ちを思い出させる本

 前回は課題図書を設けた狙いや効果について説明しましたが、今回は課題図書24冊の中から、特に反響が大きかった本を選んで取り上げます。まず、部下に最も影響を与えた1冊から紹介します。

 それは『 やり抜く力 GRIT(グリット) 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける 』(アンジェラ・ダックワース著/神崎朗子訳/ダイヤモンド社)です。この本は、人生のあらゆる分野での成功に必要な最重要ファクターについて書かれていますが、一番のポイントは「成功に必要なのは才能よりも努力を続けられること」です。当たり前で、言い古された感のある説かもしれませんが、それがデータや実例から詳しく説明されています。

『やり抜く力 GRIT(グリット)』(アンジェラ・ダックワース著)。画像クリックでAmazonページへ
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 この本を読んだ部下からは、「入社時の気持ちを思い出した」「成し遂げたい仕事を再確認した」「人生観が変わった」という感想が多く寄せられました。やはり日々の努力を続けるためには、自分が何者かを知り、何を大事にしているのかを明確にすることが重要です。そのためにもこの本は役立つ1冊です。「内発的動機を味方につけ、絶対に諦めない」と多くの方が宣言をしてくれました。

キーエンスにならいロールプレイング導入

 前回、課題図書の1冊目として紹介した『 数値化の鬼 「仕事ができる人」に共通する、たった1つの思考法 』(安藤広大著/ダイヤモンド社)で数字の重要性が分かった。『やり抜く力 GRIT(グリット)』で気持ちを新たにした。そして、この2つと同じぐらい大事になるのが「その仕事は誰のために?」ということです。我々の仕事はBtoBがメインですが、その先にいるグリコの商品を食べていただくお客様=顧客の顧客を忘れてはいけません。

 そこで部下に薦めたのが『 付加価値のつくりかた 』(田尻望著/かんき出版)です。著者の田尻さんはキーエンス出身ですが、キーエンスでは顧客起点を大事にしており、すでにある製品だけでなく、顧客の潜在的なニーズに応えた製品を開発して大きな利益を上げています。そのために現場でのヒアリングを欠かしません。高付加価値をつくり出しているキーエンスでも、最初の1歩はやはり現場からの声なのだと再認識させられます。

『付加価値のつくりかた』(田尻望著)。画像クリックでAmazonページへ
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 この本の中で「キーエンスほどの会社でも営業のロールプレイングをして徹底的な壁打ちをしているのだから」と、当社でも同様の取り組みを始めました。ベテランの営業部員は「今さらロールプレイングなんて恥ずかしい」と当初は言っていましたが、ベテランにはベテランのたくみな話術があり、若手には若手のフレッシュな視点でのユニークさがあります。それをお互いに知ることで、共有財産にできました。

グリコで第一セールス部長を務める渡邊武さん
グリコで第一セールス部長を務める渡邊武さん
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渡邊武(わたなべ・たけし)
江崎グリコ 執行役員 セールス本部 第一セールス部長
1994年、江崎グリコ入社。全国各地で営業に従事したのち、2016年にロジスティクス部へ異動。2022年11月より営業に復帰し現在に至る。多様なネットワークと持ち前の行動力と好奇心を生かし、新たなグリーン物流の構築や購買者視点での取引先との協働取り組みを推進中。

売り場を変えるのは営業部員にしかできない

 グリコの商品に付加価値をつけてお客様に届けるには、営業部員にもマーケティングが必要です。そのときに役立つのが『 売上の地図 3万人を指導したマーケティングの人気講師が教える「売上」を左右する20のヒント 』(池田紀行著/日経BP)です。この本では「売上と売り場」「売上と想起」といった売上に影響を与える20の説明変数について詳しく説明されているため、営業部員が「自分はこの部分ができていなかった」と気づけます。

『売上の地図』(池田紀行著)。画像クリックでAmazonページへ
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 また、本書では事例としてグリコも取り上げられているので、自分事化しやすいのも読みやすいポイントです。現場で商談し、売り場を変えるのは営業部員にしかできません。メンバーにとっては改めてモチベーションとスキルを高める1冊となりました。

マネジメント層の必読の書

 では、営業部員が生き生きと働けるためには、どうすればいいのか。それにはアウトプット・生産性を最大化できるマネジメントが重要です。『 HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント 』(アンドリュー・S・グローブ著/小林薫訳/日経BP)は人を育て、アウトプットを最大化するマネジメントの極意が書かれています。課題図書として紹介するときに「マネジメント層の必読の書」とタグをつけたのですが、マネージャーだけでなく、若手も予習として自主的に読んでくれました。

『HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント)』(アンドリュー・S・グローブ著)。画像クリックでAmazonページへ
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 この本には、つまるところマネージャーの仕事とは「部下から最高の業績を引き出す」ことで、マネージャーにしかできない「テコ作用の高い活動」を行うべきだと書かれています。そのためにはチームメンバーが縦横無尽に活躍できるよう、自分の影響力が及ぶ組織のタテ・ヨコに働きかける必要があります。私も部署全体の最適解を考えるうえで役立ちましたし、未来を予測するスタッガーチャートの作成、朝礼の復活、出社時すべてのフロアと通路を歩き回るなど本書から多くの学びを得て実践しています。

読み継がれる「若手必読の書」

 一方、『 入社1年目の教科書 』(岩瀬大輔著/ダイヤモンド社)はぜひ若手に読んでもらいたい1冊です。課題図書で良い本を薦めようとすると、ついついレベルアップして難しい本になりがちです。そうすると、若手が、みんなが感想を書き込んでいる社内掲示板に投稿しにくい場合があるので、こちらの本がきっかけになればと思いました。

『入社1年目の教科書』(岩瀬大輔著)。画像クリックでAmazonページへ
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 この本には仕事に必要な50のルールが紹介されていますが、10年選手であっても「恥ずかしながら、できていませんでした」という感想も。それを上司が細かい部分まで注意すると嫌がられますが、本に書いてあれば素直に聞けると思います。年代を問わず、ビジネスパーソンの基本として読んでおきたいですね。

 この本を読んだメンバーの中には、50のルールのうち今の自分ができていないことをリストアップし、それらをなくす努力を具体的に記してくれる方もいます。「打率ではなく打席数」「50点でいいから早く出せ」は社内の共通言語・メソッドになりつつあります。

今どきの若手を育てる難しさの正体とは

 もう1冊、若手に関する本として薦めたのが『 なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか “ゆるい職場”時代の人材育成の科学 』(古屋星斗著/日本経済新聞出版)です。この本の内容はまさにタイトル通り。若手はキツい職場でもゆるい職場でも、叱られても褒められても、辞めるときは辞める。では、現場のマネージャーはどうすればいいのか──という対策について詳しく説明されています。

『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(古屋星斗著)。画像クリックでAmazonページへ
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 今の若手はやはり「自分の仕事で価値を実現したい」と考える人が増えています。私もこの本を読んで、グリコに入社した新入社員が、1年目、2年目、3年目と社会人偏差値を上げていけるように支えなくてはと改めて思いました。もし将来的に社外に流出したとしても、「もっといい仕事に就けたのはグリコのおかげだ」と思ってもらいたいですね。それには私1人の力だけではなく、部署全体で力を合わせ、本当の意味でよい職場にしていく努力が必要です。

 私は現在、年間100日間ぐらいは出張をしていますが、出張時には2冊本を持っていきます。1冊は疲れていても読める軽めの内容で、もう1冊は気分が乗ってきたときに読む難易度の高いものです。また、長期休暇には「10冊読む」といった目標を立て、リビングのテーブルに本を積み上げておきます。

 また、各出張先の主要な場所に行きつけとも言える書店を4つ持っています。そして週1回はいずれかのお店に立ち寄り、どのような新刊が刊行されているか、話題のテーマは何か、お店の担当者のお薦めは何か、POP(店頭販促物)はどのようなものが出ているか、その違いを見ています。このようにして本を選び、年間40~50冊は読んでいます。

 当社では、課題図書を通じて、知識を進化させ、それらを現場で実行する文化が少しずつではありますが定着してきており、今後も本の推薦を継続していきたいと思います。

取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美

売れない理由が見つかる!売れる「流れ」が分かる!

売上に影響を与える20個の説明変数を構造化し「売上の地図」として提示。全体を俯瞰(ふかん)して見ることで、自社商品・サービスの売上がどのようにつくられ、課題はどこにあるか、何を強化したらよいかが浮き彫りに。再現性高くヒットを生み出すことが可能になる1冊。

池田紀行著/日経BP/2200円(税込み)