個人や法人に向けて本の要約サービス「flier」を提供するフライヤーは、リーダー研修で5冊の課題図書を設定しています。何の本を選び、どのような学びがあったのでしょうか。研修を実施した同社執行役員CCOの久保彩さんと、研修を受講したカスタマーエンゲージメントDiv CS Opsリーダーの市原由佳さんに聞きました。後編では5冊の課題図書のうち2~5冊目について紹介します。
1996年初版の会計のロングセラー
日経BOOKプラス編集部(以下、──) 前回は課題図書を使った対話型のリーダー研修の内容について聞きました。その研修で使用する課題図書は全部で5冊だそうですが、1冊目の『 マネジャーの全仕事 いつの時代も変わらない「人の上に立つ人」の常識 』(ローレン・B・ベルカー、ジム・マコーミック、ゲイリー・S・トプチック著/佐々木寛子訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン)については前回聞きましたので、今回は2~5冊目について教えてください。
フライヤー 執行役員CCO 久保彩さん(以下、久保) はい。2冊目は『 改訂4版 グロービスMBA アカウンティング 』(グロービス経営大学院編/ダイヤモンド社)です。研修の中では、1冊全ての内容ではなく、財務諸表の関係性や損益分岐点/限界利益などの基本について学びます。リーダー層になるとチームで決めたKPI(重要業績評価指標)を達成するため、自分の業務を俯瞰(ふかん)する必要があります。その際に会社の財務会計を理解すると役立つのではないかと思い、2冊目に選びました。この本はグロービス経営大学院が編者で、ビジネススクールで基礎科目として教えている内容から会計を網羅的に学べるのが特徴です。
とはいえ、興味が持ちにくい分野かもしれないので、2冊目だけは受講者がディスカッションするのではなく、当社のCFO(最高財務責任者)がテキストを作り、講義形式で行いました。本の知識を活用しながら、私たちの業界や企業分析の観点、経営が見るべき数字などを、事前の受講者からの質問ベースで講義しました。
1996年が初版ですが、第4版ということで内容もアップデートされていますね。
フライヤー カスタマーエンゲージメントDiv CS Opsリーダー 市原由佳さん(以下、市原) 正直、この本は難しかったです。マーカーをいっぱい引いたのですが、まだ理解が追いついていません。CFOにも「難しいです」と伝えたのですが(笑)。でも、受講者の共通認識として数字をどのように見るのか、リーダーになる上でどのように数字にコミットしていくのかを学べたかなと。この先、役職が変われば、読む箇所や気づきが違ってくると思います。
何度も繰り返し読む本となりそうですね。
フライヤー カスタマーエンゲージメントDiv CS Opsリーダー
仕事をする上で勇気づけられた本
久保 3冊目は『 最高の結果を出す KPIマネジメント 』(中尾隆一郎著/フォレスト出版)です。当社は業績評価にOKR(目標と成果指標)を使っているので、そちらの関連本にしようかと思ったのですが、まずはKPIについて学ぶのが先だと思い、こちらの本を選びました。著者の中尾隆一郎さんはリクルート社内でKPI講座の講師を務めていた方で、KPIの基礎からマネジメント手法、さまざまな活用事例について詳しく説明しています。チームで結果を出すために、どのようにKPIに向き合ってきたかが分かります。
市原 私もこの本を読んで、「KPIというものが、これまできちんと理解できていなかったな」と分かりました。当社は中途採用の社員が多く、さらにスタートアップですので、OKRの設定が各部署に委ねられている部分があります。そうした状況下で、「自分のやっている業務は会社のどこにつながっているのか」が俯瞰(ふかん)できるようになりました。
また、受講者同士でディスカッションをする中で、仕事を数字で管理できないチームもあるということが分かりました。例えば、デザインチームの仕事は数字で表せないため、OKRに落とし込んでKPIで管理するのが難しくなります。では、実際に自分がデザインチームに仕事を頼むとき、何を成果として伝えるのがいいのか。そう考えるきっかけになりました。この本は絵が多くてすごく分かりやすく、仕事をする上で勇気づけられる本でした。
確かに。自分の仕事が会社の中のここに役立つと分かると、励まされそうです。
久保 4冊目は『 THE CULTURE CODE カルチャーコード 最強チームをつくる方法 』(ダニエル・コイル著/楠木建監訳/桜田直美訳/かんき出版)。先ほどの『最高の結果を出す KPIマネジメント』が成果に向き合う本だとしたら、この本はメンバーに向き合う本です。世の中にはトップダウン型の強いリーダーシップについて書かれた本が多くあり、それを否定するわけではありませんが、当社は現場のマネジャーが、自分はどういうリーダーで、今のチームはどういった状態なのかを把握する必要があると考えています。
私がこの本で印象的だったのは、「弱さの開示」という言葉でした。自分自身がチームに対してできることを考えつつ、「実はこの部分が苦手だ」「こういう状況のときは、こう感じてしまう」といったように開示したほうが、チームメンバーが率直に意見交換できるようになると書かれています。誰しも「完璧なリーダーになろう」と思いがちですが、チームメンバーが生き生きと働けてこそ、リーダーの存在価値があります。当社CEOの大賀康史も『 最高の組織 全員の才能を極大化する 』(自由国民社)という本を書いており、その中で「役職というのは役割でしかない」と言っていますが、『THE CULTURE CODE』は当社の組織のあり方に近い内容です。
フライヤー 執行役員CCO カスタマーエンゲージメントDiv ゼネラルマネジャー
市原 この本にはストーリーが豊富にあり、読みやすかったです。「弱さの開示」の部分は私自身もすごく刺さりました。「強くあらねば」と勝手に意気込んで、肩肘を張っていた部分があったと思うんですが、ちょっと肩の力が抜けたというか。他の受講者も「『弱さの開示』が気になった」と言っていたので、みんなあるべきリーダー像について悩んでいたんだと分かりました。
私が前職で接したリーダーは強く、チームを引っ張っていくタイプだったので、何かあるとその人に頼っていました。リーダーとは頼るもので、頼られたら何とかしないといけないと思い込んでおり、自分はそんな強いリーダーにはなれそうにない…と悩んでいました。でも、この本を読んで、そのモヤモヤが解消されたように思います。当社の企業文化として、強いリーダーを増やしていくのではなく、「弱さの開示」をするリーダーがいてもいいんだと分かって安心できました。
企業によってさまざまなリーダーシップの形がありますね。
リーダーは内省して成長する
久保 最後の5冊目は『 リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する 』(中原淳、金井壽宏著/光文社新書)です。当社はマネジャーはもちろん、チームメンバーの一人ひとりを育てることを大事にしています。一人ひとりが成長する組織を作りたいと考えたとき、それを体現するための方法が説明されているのがこの本でした。人を育てる組織、リーダーになるためには、リーダー自身が内省をして成長していくことと、メンバーの成長を促していくことのサイクルを回していく必要があります。中長期で、持続的にお互いの成長を喜び合う組織作りについて書かれた本はあまり見かけないので、役立ちました。
市原 この本は、内省について書かれています。当社では2年前から新卒採用が始まり、若いメンバーと関わることが増えました。この本には「部下や後輩からも得るものがある」と書かれているのですが、私も若いメンバーと対話することで、自分を俯瞰し、内省できていると感じました。どんな状況、誰からでも学ぶことがあるのだと気づかせてくれる1冊です。
今回、5冊の本を読み、ただ読むだけではなく、誰かに内容を伝え、自分の言葉で「こういう理解だった」と語ることで、本の読み方が深まりました。その点が単なる読書会とは違う、対話型研修ならではの効果ですね。
久保 経営層も「教える」という立場ではなく、「ともに議論する」という立場で対話型研修に関わりました。そのおかげで、会社で大事にしている価値観について意見交換ができ、有意義だったと感じています。
研修の受講者だけではなく、経営層に対しても相互作用があったということですね。ありがとうございました。
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美






