家計簿アプリやクラウド会計ソフトを中心に事業を展開し、急成長を続けているマネーフォワード。創業者の辻庸介さんは読書家で、本を活用した人材育成の取り組みをさまざまに展開しています。同社の人材育成・研修の責任者を務める竹内富貴・Talent Growth部部長に、それらの取り組みの内容や効果などを3回にわたって聞きました。第1回は人材育成における本の役割と、全マネジャー向け研修の参考図書について。

本を活用して人材育成

 マネーフォワードは2012年に創業した、金融とITを掛け合わせたFintech(フィンテック)領域のスタートアップです。個人向けの家計簿アプリや法人向けの金融サービスで事業を広げてきました。

 私自身は2年前にメーカーから転職し、人事部門にあたるPeople Forward本部で人材育成の施策全般を担当しているのですが、マネーフォワードは他社と比べても「読書に親しむカルチャー」がかなり浸透しているという実感があります。

「マネーフォワードには『読書に親しむカルチャー』が浸透しています」と話す竹内さん
「マネーフォワードには『読書に親しむカルチャー』が浸透しています」と話す竹内さん
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竹内富貴(たけうち・ふき)
マネーフォワード People Forward本部 副本部長、Talent Growth部 部長
新卒で人材紹介会社へ入社し、キャリアコンサルタントとしてキャリア支援に携わる。その後、IT企業や食品メーカーで人事として採用や人事制度改定、組織開発などを経験し、2021年マネーフォワードに入社。組織と人の成長を支援するために、人材育成施策の企画・運営や人事制度改定、組織開発など多岐にわたるプロジェクトに携わる。2023年6月より現職。

 その背景としては、創業者でCEO(最高経営責任者)の辻庸介が無類の本好きで、日ごろから「この本はおすすめです」と社内向けに発信している影響から、おすすめの本を紹介し合う風景が当たり前になっていることが一つ。

 さらにもう一つ、「人材育成の教材」として本の価値が急速に高まっているという、ある意味、とてもシビアな事情があります。

 当社では事業拡大が進んだ結果、社員の数がこの2年間で倍以上となる2200人ほどに。急成長にともなって、部門の数もマネジャーの数も増えて、現在、副部長以上の社員は320人を超えました。

 もともと平均年齢が若い環境だったこともあって、20代・30代のフレッシュなマネジャーが次々に誕生する中で、社内全体で重要な課題となっているのがリーダーの育成です。

 マネーフォワードではどんなリーダーが求められるのか、そしてそのリーダーシップはどうやって身に付けたらいいのか。

 リーダー育成のための研修でももちろん学ぶのですが、メンバーの目線をそろえ、ベクトルを合わせる手段として本も重要な教材なのです。

 研修の課題図書や参考図書として本を指定し、参加するメンバーに読んでもらうことで、本の中に書かれているメッセージやキーワードが“共通言語”となって、対話や議論が深まります。「ほかのメンバーの感想に触れたことで、自分だけでは得られなかった気づきがあって、視野が広がった」という声もよく聞かれますね。

 また、本には「研修での学びが長続きする」という効果もあります。研修は限られた時間の中での学びになりますが、研修で使った本はいつでも“おさらい”として読み返せますし、現場で問題に直面したときの指針になるからです。

「1on1」に生きる2冊

 研修で推薦する本の選定を担当するのは、研修の講師や辻をはじめとした経営陣です。

 マネーフォワードのリーダーとして身に付けてほしいマインドやスキルについて、数ある良書の中から厳選するので、どれも内容が濃い本ばかり。研修担当の私が準備のために読むときも、いつも付箋だらけになってしまいます(笑)。

 トップマネジメントの思いを代弁するような本を読むことで、日々の業務の意味合いも変わってきますし、視座が上がり、自然とモチベーションも高まると感じます。

 実際の活用例としては、マネジャークラスから経営陣まで、階層に応じた研修に、それぞれ本を活用したメニューを取り入れています。

 例えば、全マネジャーを対象に実施している「1on1研修」で参考図書として紹介しているのは、『 1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める 』(本間浩輔、吉澤幸太著/ダイヤモンド社)です。

『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(本間浩輔、吉澤幸太著)
『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(本間浩輔、吉澤幸太著)
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 ヤフーに1on1を導入したことで知られる本間さんの考え方は、当社が目指す1on1の目的、「メンバーの成長を支援し、アウトプットを最大化するための支援をする」という定義と非常に近いんです。

 1on1を当社が導入したのはずいぶん前のことです。「何のためにやっているの?」と手探りのメンバーも多かったのですが、この本をベースにした研修を通じて目的が共有されました。

 さらに、実際にどんな問いかけをしたらいいのかというハウツーを学べる本として紹介しているのが、『 対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術 』(世古詞一著/日本能率協会マネジメントセンター)です。

『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(世古詞一著)
『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(世古詞一著)
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 プロのコーチとして活躍する著者が解説する「すり合わせ9ボックス」というマトリックスの手法を使うことで、1on1の現場で生じがちな「何を聞けばいいんだっけ?」という悩みも解決できるテキストになっています。

 「組織・個人・業務」と「過去・現在・未来」をかけ合わせた9つの問いを使い分けることで、例えば「半期のふり返りのときには、個人の未来の話を聞こう」など、適切なタイミングで必要な問いかけができるようになるので、研修に参加したマネジャーからも好評です。

本からの学びで個人も組織も成長

 ちなみに、1on1の実施ペースは月に1回。毎月、マネジャーとメンバーが1対1で対話する機会を設けることは、一人ひとりの成長スピードを上げて、高いアウトプットを出す伴走支援のために重要だからです。また、目標や課題の認識をこまめに合わせることで、半期に1度の評価に対する納得感も増すと考えています。

 マネーフォワードのサービスや会社の雰囲気は、「あたたかい」「やさしい」というイメージを持っていただくことが多いのですが、実は働く上ではかなりハイパフォーマンスが求められるカルチャーでもあります。

 結果を出すための個人と組織の成長のために、本からの学びを最大限に生かしています。

「本からの学びを最大限に生かしています」
「本からの学びを最大限に生かしています」
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取材・文/宮本恵理子 写真/品田裕美

マネーフォワード3000日戦記

誰も使ってくれないプロダクト、接続先からアクセス拒否、訴訟、サービス全停止の危機、仲間の反発、ユーザーからの大反発、事業撤退。胃がキリキリする“黒歴史"が、起業家をタフに変え、強いチームと成功を生み出した。

辻庸介著/日経BP/1760円(税込み)