企業などの会計監査を行う大手監査法人、EY新日本有限責任監査法人。数百人の公認会計士を束ねる同社第2事業部 事業部長の安藤勇さんに、部下におすすめしたい本を聞きました。第2回は、急速に経済成長しているインドやグローバルサウスを知るための『インド グローバル・サウスの超大国』(近藤正規著)、『グローバルサウスの逆襲』(池上彰、佐藤優著)と、アフガニスタンで支援活動を行っていた中村哲さんの著書を紹介します。

前編 「EY新日本 ファクトから現実的な未来を示す『2050年の世界』」

インドを多方面から分析

 前回、『 2050年の世界 見えない未来の考え方 』(ヘイミシュ・マクレイ著/遠藤真美訳/日本経済新聞出版)を紹介した際、「中国に比べて、インドやアフリカは身近に感じづらいのでは」とお話ししましたが、今回はインド、アフリカについての理解が深まる本を紹介します。

 1冊目は『 インド グローバル・サウスの超大国 』(近藤正規著/中公新書)です。この本にはインドの経済、政治、社会、文化など多方面にわたる現状と将来についての分析が書かれています。インドがグローバルサウス(急速に経済発展を遂げている新興国・途上国)の中でどのようにリーダー的な役割を果たしているのか、その潜在能力についても説明されています。インドの本はたくさん出ていますが、この本は政治、経済、文化、そしてインドと日本の関係についても詳しく書かれているので、最初に読む1冊として最適です。

『インド グローバル・サウスの超大国』(近藤正規著)
『インド グローバル・サウスの超大国』(近藤正規著)
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 インドといえば、私が最初に手にしたインド関連の本は妹尾河童さんの『 河童が覗いたインド 』(新潮文庫)でした。その後、沢木耕太郎さんの『 深夜特急 』(新潮文庫)を読み、初めて「印僑」(在外インド人、インド系移民)という言葉を知りました。数としては華僑のほうが多いのですが、本国への送金額は印僑のほうが多いようです。インドの戦略としても、印僑に国内との関係をどう持たせるかが重要になってくるのですが、そうした経済政策についてもこの本を読むと分かります。

 私は最近インドに行きましたが、4車線の道路なのに車が横に並んで6台走っていたり、その脇には牛がいたり、とまさにカオスでした。一方で、「この国がこれから伸びていくのだ」という独特の活気を感じました。

EY新日本有限責任監査法人で第2事業部の事業部長を務める安藤勇さん
EY新日本有限責任監査法人で第2事業部の事業部長を務める安藤勇さん
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安藤 勇(あんどう・いさむ)
EY新日本有限責任監査法人 第2事業部 事業部長、公認会計士
1998年、太田昭和監査法人(現・EY新日本有限責任監査法人)に入所、2012年、パートナー昇格。06年よりEYシカゴ事務所に駐在しSEC(米証券取引委員会)登録企業の会計監査業務に携わり、米国公認会計士の全科目に合格(イリノイ州)。帰国後はグローバル企業やメディア企業の会計監査・アドバイザリー業務に従事し、日本公認会計士協会の仮想通貨対応専門委員会委員を務める。著書に『会社ウォッチング』『仮想通貨の会計とブロックチェーンのしくみ』『キャッシュレス決済のしくみと会計実務』(いずれも共著)がある。

 余談ですが、以前にアメリカのテスラの工場、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の工場をプライベートで訪れたときも、その規模の大きさに仰天しました。行けども行けども工場なのです。両社とも当時はそこまで注目度が高くなかったのですが、「こうした巨大な工場を持つ企業が世界を変えていくのだ」と確信しました。やはり、現地に行かないと分からないものがありますね。

アフリカとロシアの関係とは

 続いて2冊目は『 グローバルサウスの逆襲 』(池上彰、佐藤優著/文春新書)です。現在、一般的には新興国・途上国の総称として「グローバルサウス」という表現が使われていますが、「グローバル」という言葉には、ヒト・モノ・カネの移動が自由で、国境の壁が低いという意味があります。

『グローバルサウスの逆襲』(池上彰、佐藤優著)
『グローバルサウスの逆襲』(池上彰、佐藤優著)
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 しかし、グローバルサウスの現状を考えると、国家間の関係を重視する「インターナショナル」のほうが適切かもしれません。そのため本書では「サウスインターナショナルという表現がより正確である」としており、その概念はグローバルノースとグローバルサウスの関係を理解するうえで役立ちます。

 著者はジャーナリストの池上彰さんと作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんのお2人。対談形式なので読みやすく、グローバルサウスの全体像をつかむにはおすすめです。佐藤優さんといえば「ロシアが専門では?」と思う人もいるかもしれませんが、実はアフリカとロシアには深い関係があることも分かります。冷戦時代、アメリカを疲弊させるために、ロシアはアフリカ諸国の独立運動を支援していました。また、国内では高等教育を受ける機会のなかった人をロシアの大学に入学させ、エリート層を育成しました。

 以前、佐藤さんがアフリカの大使を集めてロシア語でスピーチをしたとき、ほとんどの大使はロシア語で返答したそうです。ビジネスの観点から見ると、日本では中国のアフリカ進出が頻繁に報道されていますが、ロシアの同地域への関与はあまり注目されていないようです。ロシアとアフリカ諸国との経済的および政治的な関係は、将来的なビジネスチャンスやリスクを考慮するうえで重要な要素であり、この本を読むことにより理解が深まります。

 本当はインドやアフリカに行って自分の目で確かめるのが一番ですが、なかなかそうした時間が取れません。そんなとき、『インド グローバル・サウスの超大国』『グローバルサウスの逆襲』は現地をより深く知る本としておすすめです。

「グローバルサウスでは、各国への深い理解が重要になってきます」
「グローバルサウスでは、各国への深い理解が重要になってきます」
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今こそ中村医師の志を見直したい

 3冊目はアフガニスタンで長年、支援活動を行った中村哲さんの『 天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い 』(NHK出版)です。恥ずかしながら、私がこの本を読んだのは中村さんが2019年に亡くなってからです。「信頼は一朝にして築かれるものではない。利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人々の心に触れる」という言葉に身の引き締まる思いでした。

『天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い』(中村哲著)
『天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い』(中村哲著)
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 中村さんは医師でありながら、アフガニスタンの病気の多くは十分な食料と清潔な飲料水があれば防げるとみて、1600本の井戸を掘り、25.5kmにも及ぶ用水路を開きました。私たちが中村さんと同じような過酷な環境に置かれることは実際にはないかもしれませんが、1つの理想や目標を持って行動することで、海外の人々の心も動かせるのではないでしょうか。最初は思うように言葉が通じなくても、誠実さや熱意がアフガニスタンの人々に伝わったのだと思います。

 グローバル企業で働く身としては、何かクライアントとトラブルがあれば「これは自分の問題だ」と思って、現地に飛んでいく。英語が苦手だったら、通訳を入れてでも解決に導く。中村さんのように困りごとを自分事として捉え、周囲から信頼を得ていくのは、ビジネスの世界にも通じると感じました。いま一度、中村さんの偉業に目を向ける意味でも、ぜひ読んでもらいたい1冊です。

 また、中村哲さんとノンフィクション作家の澤地久枝さんの対談集『 人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束 』(岩波現代文庫)も中村さんのお人柄が分かり、写真で灌漑(かんがい)事業の成果を知ることができるため、おすすめです。

『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』(中村哲、澤地久枝著)(写真は単行本版)
『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』(中村哲、澤地久枝著)(写真は単行本版)
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取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美