企業などの会計監査を行う大手監査法人、EY新日本有限責任監査法人。数百人の公認会計士を束ねる同社第2事業部 事業部長の安藤勇さんに、部下におすすめしたい本を聞きました。第1回は、膨大なファクトを基に現実的な未来を予測する『2050年の世界 見えない未来の考え方』(ヘイミシュ・マクレイ著/遠藤真美訳)を紹介します。

社員に必要な3つのスキル

 私は大学の卒論を提出した日に公認会計士の受験予備校に入学して資格を取得し、太田昭和監査法人(現・EY新日本有限責任監査法人)に入所しました。グローバルな環境で働きたいと思ってEY新日本を選んだのですが、念願かなって2006~08年はEYシカゴに駐在。米国では女性活躍推進やLGBTQに対する取り組みに感銘を受け、その素晴らしさを日本にも伝えたいと思い、帰国後はDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス)推進活動に日本のリーダーとして関与しました。現在は第2事業部の事業部長として、数百人の部下がいます。

 EY新日本は事業部ごとに業務内容が分かれており、私がいる事業部は主に消費財、メディア&エンターテインメントやテクノロジーなどの分野の企業を担当しています。

EY新日本有限責任監査法人で第2事業部の事業部長を務める安藤勇さん
EY新日本有限責任監査法人で第2事業部の事業部長を務める安藤勇さん
画像のクリックで拡大表示
安藤 勇(あんどう・いさむ)
EY新日本有限責任監査法人 第2事業部 事業部長、公認会計士
1998年、太田昭和監査法人(現・EY新日本有限責任監査法人)に入所、2012年、パートナー昇格。06年よりEYシカゴ事務所に駐在しSEC(米証券取引委員会)登録企業の会計監査業務に携わり、米国公認会計士の全科目に合格(イリノイ州)。帰国後はグローバル企業やメディア企業の会計監査・アドバイザリー業務に従事し、日本公認会計士協会の仮想通貨対応専門委員会委員を務める。著書に『会社ウォッチング』『仮想通貨の会計とブロックチェーンのしくみ』『キャッシュレス決済のしくみと会計実務』(いずれも共著)がある。

 EY新日本は会計監査を中心としたサービスを提供しており、グローバルな経済社会の発展に貢献できる人材を育てる必要があります。具体的にどのようなスキルかといえば、1つめは会計監査という専門的かつプロフェッショナルなスキル。2つめがグローバル対応力。今の日本企業は積極的に海外進出をしているので、我々もプロフェッショナルとしてサポートしていかなければなりません。3つめは昨今のトレンドでもありますが、デジタルとサステナビリティ。この3本柱を重視して、人材育成にあたっています。

 今回はそうした中で、私が実際に部下にすすめている本を紹介したいと思います。

2050年の世界はどうなる?

 1冊目は『 2050年の世界 見えない未来の考え方 』(ヘイミシュ・マクレイ著/遠藤真美訳/日本経済新聞出版)です。

『2050年の世界 見えない未来の考え方』
『2050年の世界 見えない未来の考え方』
画像のクリックで拡大表示

 現代はVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代といわれており、未来のことを考えると不安になるという人も多いのではないでしょうか。しかし、この本は学術・技術の進歩や人口動態、地政学的な変動を分析し、2050年に地球が直面するであろう課題と可能性について、深く洞察しています。

 未来予測本というと悲観的なものが多い印象ですが、著者の予測は楽観的でも悲観的でもなく、現実的。そういった意味では、本書の中でも紹介されていますが、ベストセラーとなった『 FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著/上杉周作、関美和訳/日経BP)に通じるかもしれません。

 この本では、「アフリカは21世紀に世界で最も急速に成長している地域であり、成長スピードは中国さえ上回る」「世界の人口が100億人になっても食べさせていく方法はある」「水不足の問題も、国が適切な選択をすれば、ほとんどの国が危機を乗り越えられる」といった現状分析や予測を示し、「今、我々がやるべきこと」を示唆してくれています。

 本の前半は環境や貿易、テクノロジーといった大きな問題を取り上げ、後半ではアメリカ大陸や中国、インド、日本などのアジア、アフリカ・中東といった各地域の未来について説明しています。まず世界情勢について大局をつかみ、そのうえで各国について詳細を知るという構成で、理解が深まります。

 2050年の未来を考えるとき、中国が大きなポイントとなることは間違いありません。そして、人口が中国を抜いて世界1位となったインド。人口増加、経済成長の面からすると、アフリカからも目が離せません。

 日本にいると隣国の中国のニュースには触れる機会が多く、状況を想像しやすいのですが、インドやアフリカとなると身近に感じにくく、想像もつきにくい。そうしたときにこの本がナビゲーターになると思います。

 著者のヘイミシュ・マクレイさんは、自らを「未来という見知らぬ地へと向かう旅をしている人たちを導く案内人」と言っています。人口動態だけではなく、資源と環境、貿易や金融などの視点から、世界がどのような方向に進んでいるのか、またそれが具体的に各国や地域にどのように影響していくのか、我々が旅をしやすいように詳細に説明してくれているのです。

「2050年に地球が直面するであろう課題と可能性について、深く洞察しています」
「2050年に地球が直面するであろう課題と可能性について、深く洞察しています」
画像のクリックで拡大表示

世界を自分の目で見る

 私は妹尾河童さんの『 河童が覗いたヨーロッパ 』(新潮文庫)、沢木耕太郎さんの『 深夜特急 』(新潮文庫)、小田実さんの『 何でも見てやろう 』(講談社文庫)などを読み、大学時代に休学してバックパッカーとして14カ国を回った旅好きです。未来への旅やグローバルな出来事を知ることは、人間の知的好奇心やフロンティア精神を刺激するものだと思います。

 当法人としても「グローバル対応力の強化」は喫緊の課題です。今は家にいながらネットで世界中の情報が得られるため、入所した若い世代には「パスポートを持っていません」という人もいます。しかし、実際に海外を自分の目で見て知っているということは、その国の人と話すときに話のきっかけになりますし、ビジネスにおいても相手が考えていることを具体的にイメージしやすくなります。

 ぜひ、大いに旅をしつつ、こうした書籍で視野を広げてほしいと願っています。

(後編へ続く)

取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美

30年後の驚くべき現実

世界を変える「5つの力」と「10大要素」とは何か? 膨大なファクトと経済学、地政学、歴史的な洞察から、欧州を代表する経済、ビジネス、社会のトレンドスピーカーが30年後の世界を大胆に予測!

ヘイミシュ・マクレイ著/遠藤真美訳/日本経済新聞出版/2750円(税込み)