人材や旅行、学びなど幅広い事業を展開するリクルート。今回は同社まなび教育支援ディビジョンのディビジョン長で「スタディサプリ」事業を統括する木村健太郎さんに、部下によく薦めている本として『イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」』を紹介してもらいました。部下から相談に乗る際にも、本書の内容に基づいて話をすることがあると言います。

「イシューの見極め」が最重要課題

 現在、私はオンライン学習サービス「スタディサプリ」を手掛けるリクルートのまなび教育支援ディビジョンのディビジョン長を務めています。

 もともとスタディサプリは、個人の学生に向けて、月々980円で全教科の動画を見放題という「学びのサブスクリプション」「ウェブ予備校」としてスタートしました。しかし、全国の高校から「学校の教育支援に取り入れたい」という依頼が相次ぎ、今では日本全国にある約5000校の高校のうち約4割に当たる1947校(2022年3月末時点)に導入されています。また、社会人に向けた英語のカリキュラムなども用意しています。

 現在、まなび教育支援ディビジョンには400人ほどのメンバーがいますが、私はそのマネジメントと事業全般の統括を行っています。

 私が部下によく薦めているのが『 イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」 』(安宅和人著/英治出版)です。著者の安宅和人さんは慶応義塾大学教授、Zホールディングス シニアストラテジストで、本書はロジカルシンキング、問題解決法のロングセラーです。本当に生産性の高い仕事をするには、「イシューを設定し」「イシューを分解して、ストーリーラインを組み立てること」が重要だと説いています。

イシューの設定の重要性を説く『イシューからはじめよ』
イシューの設定の重要性を説く『イシューからはじめよ』
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 多くのビジネスパーソンに支持されている名著ですが、「ロジカルシンキング系の本はこの1冊を読めば十分」と考えています。世にロジカルシンキングの本はたくさんありますが、「課題をいかに分解して整理するか」という思考の整理法が多いように思います。その点、この本はイシューの設定に重きを置いているのでインパクトがあり、ビジネスの実態に合っていると感じます。

 例えば、スタディサプリはもともと個人向けでしたが、高校という団体向けのサービスにかじを切ったタイミングでは、「思うようにいかない」ことが日常茶飯事でした。そんな中で、「要するにイシューは何か」「この高校で解決すべき課題は何か」ということを現場の営業の声から拾い、それをプロダクト開発に生かす必要があります。そのときに「イシューそのものが間違っている」のではうまくいかないし、組織の生産性が上がりません。

 そのため、イシューの設定に関してトレーニングが必要な若手に対しては、「まず読んでみて」とこの本を渡し、実際のミーティングでも「『イシューからはじめよ』に当てはめると、この案件はどうなる?」と話すこともあります。

生産性向上で余白の時間を生む

 部下から相談を受けた際、「イシューの特定を一緒にしてほしい」のか、「イシューは分かっているので、一緒に整理してほしい」のか、「イシューの設定も整理もできていて、後は意思決定をするだけ」なのかで、答える内容がまったく違ってきます。

 何から手をつけるべきか分からずに悩んでいるのであれば、早めにイシューを設定し、周囲にそれに対する意見を聞く“壁打ち”をした方が早い。そういう意味では、チーム全体が「イシュー」という共通言語を持っておくことが、仕事の生産性を上げるカギになります。

 まなび教育支援ディビジョンには法人営業と営業推進という主に2つの職種があり、法人営業ならクライアントである学校の課題解決、営業推進なら教材活用の設計、人員計画などと業務は分かれていますが、イシューの設定なくして進む仕事はありません。職種にかかわらず、どのビジネスパーソンにも必要なスキルです。

 さらに言えば、リクルートは新たな事業を打ち出すことで成長し続けてきた会社です。ですから、本業に生産性高く取り組み、生まれた余白の時間で何か面白いことを考えてほしい。そうした余力がある人材こそ、リクルートらしさなのです。

「イシューの設定は、職種にかかわらず、どのビジネスパーソンにも必要なスキル」と話す木村さん
「イシューの設定は、職種にかかわらず、どのビジネスパーソンにも必要なスキル」と話す木村さん
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財務と組織論が学べるロングセラー

 ロジカルシンキングに関しては『イシューからはじめよ』の一択ですが、最後に他のジャンルの本もお薦めしたいと思います。

 仕事で事業計画書や財務諸表を見る必要があるのなら、『 稲盛和夫の実学 経営と会計 』(稲盛和夫著/日経ビジネス人文庫)が一番分かりやすく、面白いと思います。著者の稲盛さんは、京セラを創業し、日本航空を再建した名経営者。「会計が分からんで経営ができるか!」という稲盛さんの言葉通り、この本を読んでいるか読んでいないかで、財務の理解力がまったく変わってくるでしょう。

 また、組織を設計する立場の人であれば、『 組織設計概論 戦略的組織制度の理論と実際 』(波頭亮著/産業能率大学出版部)もマネジメントの要点が押さえられていて、勉強になります。これら2冊はロングセラーですが、今読んでも古くはなく、ビジネスの本質は変わらないのだと感じさせられます。

 今回ご紹介した本は、いずれも自分が仕事上の課題を抱えていたときに、人から薦められて読んだ本です。そうしたら、どれも内容が深く、学びが多いものでした。信頼できる人に薦められた本を素直に読んでみるのも、効率的で、生産性の高い読書術だと思います。

「部下には生まれた余白の時間で何か面白いことを考えてほしい」と話す木村さん
「部下には生まれた余白の時間で何か面白いことを考えてほしい」と話す木村さん
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取材・文/三浦香代子 撮影/小野さやか

日経ビジネス人文庫
稲盛和夫の実学 経営と会計
会計が分からんで経営ができるか!

もうけとは、値決めとは、お金とは、実は何なのか。身近な例え話からキャッシュベース、採算向上、透明な経営など7つの原則を説き明かす。ゼロから経営の原理と会計を学んだ著者の会心作。

稲盛和夫著/日本経済新聞出版/576円(税込み)