大手広告会社・博報堂の本社(東京都港区赤坂)には、蔵書が4万冊もある充実したライブラリーがあります。どのような本が置いてあるのでしょうか。また、どのように活用されているのでしょうか。博報堂でライブラリーの運営に携わっている今野雄策さん、前和宏さん、髙橋哲久さんが、歴史をひもときながら説明してくれました。

約70年前に資料室としてスタート

日経BOOKプラス編集部(以下、──) 今回は博報堂のライブラリーの成り立ちについて聞きたいと思います。その前に、まずはみなさんの現在の仕事について教えてください。

ブランドデザイン事業ユニット事業経営企画室 今野雄策さん(以下、今野) 私は今、事業経営企画室にいますが、12年間ほどライブラリーの担当部長としてライブラリーのコンセプト作りや選書などの運営にかかわっていました。

 もともと、ライブラリーは広告会社である博報堂の資料室としてスタートしました。1956年3月に創業60周年の記念事業の一環として、資料室を設立。96年、本社が東京都港区の田町に移転した際に「ライブラリー」という名称になりました。そして、現在のライブラリーは2008年、本社が赤坂に移転した際にでき、2023年にリニューアルしたものです。

マーケットデザインビジネス統括センター ビジネス推進局ナレッジマネジメント部 前和宏さん(以下、前) 私は2024年4月にライブラリー担当になりました。選書をはじめ、司書さんたちのマネジメントなどを担当しています。ライブラリー以外では「BIZ GARAGE」という博報堂のソリューションを社外に発信するプラットフォームの運営にもかかわっています。

広報室クリエイティブビジネスプロデューサー 髙橋哲久さん(以下、髙橋) 私はもともとクリエイティブ職として広告制作にかかわり、2010年からはライブラリーの展示企画やアートディレクションを担当しています。2023年にコンセプトとロゴを大きくリニューアルした際には、そのデザインなどを担当しました。

2023年にリニューアルしたという博報堂のライブラリー。左から今野さん、前さん、髙橋さん
2023年にリニューアルしたという博報堂のライブラリー。左から今野さん、前さん、髙橋さん
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今野雄策(こんの・ゆうさく)
博報堂 ブランドデザイン事業ユニット事業経営企画室 インテリジェンスグループ グループマネージャー
1997年、博報堂入社。プロモーション企画担当部門に所属した後、2001年から研究開発局。プロモーション・CRM研究からブランド研究を担った後、中国ナレッジ開発担当GM(グループマネージャー)。2012年よりナレッジマネジメント担当GM(兼務)となり、ライブラリーもGMとして担当。
前 和宏(まえ・かずひろ)
博報堂 マーケットデザインビジネス統括センター ビジネス推進局ナレッジマネジメント部 ビジネスプロデューサー
2001年、営業職として博報堂に入社。消費財メーカーや官公庁を担当。2012年に中部支社へ移動。IT企業やエネルギー会社などさまざまな業種を担当。2020年度より現職。
髙橋哲久(たかはし・あきひさ)
博報堂 広報室クリエイティブビジネスプロデューサー アートディレクター
1988年、博報堂にデザイナーとして入社。クリエイティブ局でクライアントの課題解決のために広告制作や商品開発を担当。2000年、博報堂生活総合研究所へ異動。生活者研究とコミュニケーションデザインを行いながら、2010年からHAKUHODO LIBRARYの企画・デザインを兼務。2020年に広報室へ異動。コーポレートデザイナーを担当しながら、HAKUHODO LIBRARYの企画・デザインを続けている。

2008年に赤坂に移転し、2023年にもリニューアルしたのですか。

今野 2008年に移転した当時のライブラリーは社内のカフェと一体化したオープンなスペースでした。社員が「創発し合う」「知的刺激を受ける」ための場所で、ランチを食べながら雑誌を読んだり、ふらっとやって来て本を読んだりする人も多かったですね。

 ただ、新型コロナウイルス禍を経て、社内がフリーアドレス制となりました。そうなるとライブラリーに来なくても「創発し合う」「誰かと偶然に出会う」ことができます。今度は反対に自分1人で集中できる場所が必要なのではないかと。そこで2023年4月に個人用の閲覧席を作り、カウンターに司書がいる「図書館らしいライブラリー」にリニューアルしました。今のライブラリーだけ見ると「普通のライブラリーだな」と思われるかもしれませんが、私たちの中では1周回ってこの形に落ち着いたんです(笑)。

ライブラリーには個人用の閲覧席が設けられている
ライブラリーには個人用の閲覧席が設けられている
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髙橋 新たなライブラリーは「森」をイメージし、森の中の樹木のように本が配置されている空間を作りました。ライブラリーとは、利用者が本を見て、感じて、うんと自分の考えを深められる場所であるべきだと考えました。知恵を育み、ビジネスのアイデアを孵化(ふか)させられる場所ということで、「個人の発想を守る、育てる、栄養になる」をコンセプトにしています。

今野 デジタルサイネージで森の映像を映し、森を感じられるようにしています。今の落ち着いたライブラリーになってから、朝早く来て本を読んだり、仕事をしたりする人が増えましたね。

 リピーターも多いですよね。

デジタルサイネージでは森の映像を流している
デジタルサイネージでは森の映像を流している
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雑誌の創刊号をコレクション

コンセプトが変わり、静かで落ち着いた空間になったということですね。リニューアルでライブラリーの蔵書数も変わりましたか。

今野 ライブラリーの広さが以前の3分の2程度になったので、多少減りました。それでも4万冊以上あります。

 広告、マーケティング、メディア、文化、スポーツ、社会テーマなどの図書資料が約1万7800冊。業界、市場、メディア動向を中心とした主要調査機関の高額資料などが約1万冊。全国紙、業界紙などの新聞、広告・マーケティング関連紙などが約25紙。その他にも広告賞や博報堂の受賞作品などのAV資料、アート系の写真集、もちろん一般書などもあります。

今野 雑誌の創刊号からは時代が見えると考えているので、それらも永年保存しています。「anan」(マガジンハウス)の創刊号もありますよ。

髙橋 ライブラリーは日本十進分類法(NDC)に沿って整理していますが、広告やマーケティングに関する情報分野は、独自に展開していて層が厚いのが特徴ですね。

 どんな本を置くか、月に1回ぐらい選書会議をします。基本的に入門書や自己啓発に関するものは個人で読むべきものだと考えているので、ライブラリーに置く本はアイデア作りにつながるものや新しい業界、ニッチな業界の情報を伝えるものなどを中心に選んでいます。最近ならAI(人工知能)や著作権に関する本などですね。

ライブラリーには4万冊以上の蔵書があるという
ライブラリーには4万冊以上の蔵書があるという
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雑誌のバックナンバーや統計資料も充実している
雑誌のバックナンバーや統計資料も充実している
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常駐7人の司書によるレファレンスも

ライブラリーは実際の仕事にどう生かされていますか。

今野 インターネットがない時代はライブラリーの蔵書や資料を見ながら広告案を練ったそうですが、今は仕事のリサーチに使う人が多いようですね。

 例えば、「中東で広告コンテンツを展開したい」となったときは、歴史や宗教的な背景、注意すべき点を調べないといけません。そうしたときに利用する人が多く、営業職やマーケティング職が多い傾向にあります。

髙橋 今はクリエイティブ系の人もアイデアの捻出方法が変わってきたように感じます。私もクリエイティブ出身で、20~30年前は広告年鑑などを調べながらアイデアを練っていましたが、今はインターネットにアクセスし、パソコンの画面を見ながら作業する人が多いかもしれません。

今野 リサーチという意味では、司書さんがいるのも心強いですね。私たちの世代は何か調べるとき、図書館に行って、司書さんに聞くのが当たり前でしたが、インターネットで検索するのが当たり前の若い世代は司書さんに頼むことを知らなかったそうです。コロナ禍でリモートワークが主流になったときは、「どうやら司書さんに頼むと情報が手に入るらしい」「調べもののプロがいるらしい」と噂が広まり、レファレンスの利用者が増えました。

髙橋 ライブラリーに情報がないときは官公庁や外部データなど、思い当たるところはすべて調べてくれますからね。

ライブラリー奥のカウンターには司書が常駐している
ライブラリー奥のカウンターには司書が常駐している
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司書は何人いるのですか。

今野 7人で、ライブラリーのカウンターにいるのが常時1人、バックヤードに2~3人、他は在宅勤務で、交代で担当しています。今、司書さんにレファレンスを頼んでいる人は週に30人ぐらい、ライブラリー自体の利用者数は1日に20~30人ぐらいです。

リニューアル後のライブラリーについて、社員からの評判はどうですか。

今野 使い勝手という意味では「自動貸出機の導入がうれしい」という声が多いです。司書さんのいるカウンターは9時30分~17時30分なのですが、自動貸出機があれば本自体はいつでも借りられます。

 それから、やはり新しくなったライブラリーで「今までと違う体験ができる」のは大きいようです。居心地の良さが上がっているように思いますね。

ありがとうございます。次回はみなさんのお薦めの本を教えてください。

(後編に続く)

取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子