データセンターなど法人分野に強みを持つNTTコミュニケーションズは、2022年度からNTTドコモ、NTTコムウェアと法人事業を統合し、3社で「ドコモグループ」として始動し新しい領域に事業を拡大しようとしています。そんなドコモグループの新入社員に配布される本が『ソフトウェア・ファースト』(及川卓也著)。本書がどのように活用されているのか、NTTコミュニケーションズ ヒューマンリソース部の三村正法さん、栗澤友菜さん、櫻田駿さんに聞きました。
前編 「NTTコミュニケーションズ 読書履歴を共有し、自律的に学ぶ」
新入社員800人が読む本
日経BOOKプラス編集部(以下、──) NTTコミュニケーションズでは新入社員全員に配る課題図書があるそうですね。どんな本ですか。
ヒューマンリソース部 栗澤友菜さん(以下、栗澤) Tably代表取締役の及川卓也さんの著書『 ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略 』(日経BP)です。及川さんはマイクロソフトやグーグルで活躍されたエンジニアです。当社の技術顧問として技術的なフォローや社員向けの講演をお願いしており、その考えを知っておいてほしいためです。
ヒューマンリソース部 三村正法さん(以下、三村) 当社には3人の技術顧問がいます。及川さんにはプロダクトマネジメントやエンジニアリング組織作りへの支援、アトラクタFounder/CTOの吉羽龍太郎さんにはアジャイル開発チームへのコーチング支援、タワーズ・クエスト社長の和田卓人さんにはソフトウェア開発の技術支援をお願いしています。
NTTコミュニケーションズというと「ネットワークと音声の会社」というイメージがあるかもしれませんが、さらなる成長にはモダンなプロダクト開発が欠かせません。そのため、3名の方の力をお借りしています。
具体的にはどのような活動をしているのですか。
三村 1つは研修です。もちろん私たちヒューマンリソース部も社員研修はしているのですが、やはり幹部の思想も変えないと新しい戦略は浸透しません。そのため、3名の方々には幹部に向けたセミナーや勉強会を行ってもらっています。
それからもう1つは伴走支援です。実際に我々のプロダクトが外部からどう見えるのか、どのように改良すべきかといった具体的なアドバイスをいただいています。
そうした活動の一環で、及川さんの『ソフトウェア・ファースト』を課題図書にしているのですね。
栗澤 及川さんには今年4月にも、新入社員向けの講演をしていただいたのですが、まさに「これからはソフトウェア・ファーストの考えを持った社員に育っていってほしい」というお話がありました。そのマインド醸成のために本書を活用しています。
ヒューマンリソース部 櫻田駿さん(以下、櫻田) 新入社員には入社前にパソコンを貸与するのと同時に、本書を配っています。及川さんにはNTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、NTTコムウェア3社の新入社員約1000人に向けて、本の内容をはじめ、世界のトレンドや外部から見たドコモグループについて話していただきました。新入社員にはその場で得た気づきや学びを個人ワークやグループワークで深めてもらいました。
栗澤 これまではソフトウェアを提供すれば終わり、という売り切り型のパッケージサービスの提供が主流でした。しかし、今後もお客様やユーザーに使い続けていただくためには、クラウド上でサービスを提供し、提供後もメンテナンスやアップデートを重ねていく必要があります。その考え方こそが「ソフトウェア・ファースト」であり、本書はその考えをインプットするのに最適です。
また、ITと聞くと「業務効率化の1ツール」といった程度の認識である人が多いと思いますが、本書の後半では「自分の行う事業にITを浸透させ(内製化)、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していこう」と書かれています。新入社員には「ソフトウェア・ファースト」の資質を育み、プロダクト開発をしていってほしいという期待も込めて、本書を配っています。
ITの考え方をアップデートする
DXを進めるためにも有効なノウハウが書かれているのですね。
栗澤 はい。実は私もITは業務効率化のツールと捉えており、アウトソーシングすること自体に違和感を覚えていなかったのですが、及川さんの「DXを進めるためにはノウハウを自社内に蓄積し、企画から運用まで一気通貫で行うスピード感を実現する内製化が理想」という説にハッとさせられました。今までそうした発想がなかったので、学びになりました。
櫻田 NTTコミュニケーションズはIT企業ですが、中にはITに詳しくないまま入社する社員もいます。一人ひとりが「ITを手の内化し、事業を展開する」ためのメッセージが込められていると思います。
今まで「ツールの1つ」と捉えがちだったITを、もっと業務や事業の主軸に置こうと。考え方の転換が図れそうですね。
栗澤 そうですね。例えば、インフラ整備で言うと、今まではシステムをデータセンターの中に置いて…といった形で進めていましたが、クラウドのIaaS(*1)上で内製化して構築することで、「運用」を重視して日々改良できるサービスを提供していくことも可能になりました。「ソフトウェア・ファースト」はそのような考え方のアップデートのきっかけになります。
NTTコミュニケーションズというと従来は多数のハード設備を持ち、それを基盤にビジネスを展開してきたと思いますが、社内システムをオンプレミス(自社保有)からクラウドへ移行したように、今後のビジネスにおいても「発想の転換が必要」という社内向けの強いメッセージとなりそうですね。
栗澤 そうですね。「今後はハードを前提に考えない」というメッセージになると思います。
櫻田 また、おそらく今までは、「ITを使う部門だけがITを使いこなせればいい」という考えもあったと思いますが、今後はマーケティング、営業など社内のどの部署でもITを活用し、さらにそれをカスタマーサクセスに生かしていかなくてはいけません。その意識付けになる1冊だと思います。
三村 著者の及川さんがおっしゃっているのは「IT活用を手の内化する」ということなんですね。近年、DXという言葉を聞かない日はありませんが、本書ではDXとは何かを定義して、その進め方を明確に解説しています。我々、IT業界にいる者としては、考えが非常にクリアになるので助かります。
また、今まで我々は「土管」といわれるインフラでビジネスを支えてきましたが、それだけでは収益がどんどん下がっていきます。従来のインフラも大事ですが、これからはクラウドの領域も重要です。そのためには「アジャイルやスクラム(*2)といった手法を使わないと世の中の変化には対応できない」と本書には書かれていて、新入社員だけではなく、全社員にとって学びとなる1冊だと感じています。
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美
マイクロソフトやグーグルで世界標準の製品開発に携わってきた技術者が書き下ろす、あらゆるビジネスが「ソフトウェア中心」に刷新される今必要な次世代型サービス開発の要諦。
及川卓也/日経BP/2090円(税込み)





