僕にとって、読書は学びや情報のインプットであり、自分自身の好奇心やモチベーションを映し出すもの。そして、1冊1冊の本には、そこへ導いてくれた仕事や先輩方との出会いが結びついています。

 自分がこれまで読んできた本を振り返ることは、自分のキャリアを振り返ることと同じなのだ――。

 今日の取材を受けるに当たって自宅の本棚を眺めていると、そんな実感が湧いてきました。

「今日は、自宅の本棚から何冊か本を持ってきました」
「今日は、自宅の本棚から何冊か本を持ってきました」
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 象徴的なタイトルをいくつか紹介します。

 まず、筑紫哲也さんの『 若き友人たちへ――筑紫哲也 ラスト・メッセージ 』(集英社)は、TBSの報道番組『news23』のキャスターに抜てきしていただいたときにすぐに買って読んだ本です。

 1989年の放送開始から20年にわたって、メインキャスターとして番組『筑紫哲也NEWS23』を率いた、言わずと知れた日本を代表するジャーナリストであった筑紫さん。その魂を引き継いだ1人として、筑紫さんがこの番組を通して伝えたかったものとは何か、ニュースの読み手が持つべき姿勢とは何かを知りたいと思い、手に取りました。

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 どのページをめくっても、「さすが筑紫さんだな」という深い学びに満ちていて、ページの角を折った跡がたくさんあります。報道とは何か、政治とどう向き合うべきか…今読んでも、筑紫さんから直接語りかけられているような気分になります。まさにサブタイトルの「ラスト・メッセージ」という言葉がしっくりきます。

 この本の中に、筑紫さんが井上陽水さんに頼んで、番組のエンディング曲を書いて歌ってもらったというエピソードが紹介されているんです。いい話だなぁと印象に残り、筑紫さんが初めて聞いた時に引かれたという井上陽水さんの『傘がない』という曲をすぐにダウンロードしたのを覚えています。

 番組にとって大切なエピソードを、筑紫さんから直接聞くことはかなわなくても、本を通じて知ることができるのはありがたいなと感じました。こうして知り得たエピソードは、世代を超えた“共通言語”になるんですよね。

 当時を知るプロデューサーやスタッフ、アナウンサーの先輩方にも、「筑紫さんの本を読んで知ったんですけれど、本当にそうだったんですか?」と質問するフックになって、貴重な話を聞くことができるんです。アナウンサーとして飛躍する大きなチャンスをいただいた場面で、信頼関係を築く架け橋になってくれた1冊です。

 どんな仕事も、先人の努力の結果だと思いますし、その精神に触れることができる本があるなら、読むことをお勧めしたいですね。

「『若き友人たちへ』は、まさに自分に語りかけてくれているような気分になるんですよね」
「『若き友人たちへ』は、まさに自分に語りかけてくれているような気分になるんですよね」
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 本田宗一郎さんや松下幸之助さんのように、大企業を創業した著名人の本も、業界を超えた共通言語になるはずです。名著には世代や属性を超えた「対話」を促す効果があるので、読んでおくだけでキャリアにもプラスに働く気がします。

 その後、縁あってPIVOTというスタートアップに転職し、新しいキャリアを歩むことになったわけですが、周囲からは「もったいない」「不安はないのか」と驚きの反応をたくさんいただきました。しかしながら、僕自身の中には衝動にも近い「挑戦してみたい」という熱が湧き上がり、止められなくなる感覚があったのです。

 もともと、僕は、情動に対して素直な人間で、特に「熱い言葉」に強く影響されるところがありました。

 大学入学直前の高校3年生の頃、当時の彼女とデートをしていて立ち寄った吉祥寺のヴィレッジヴァンガードでたまたま見つけた本がこちらです。

初めて買った自己啓発本

 その名も『 無駄に生きるな熱く死ね 』(直江文忠、サンクチュアリ出版)。「これから大学に入って、頑張るぞ」と意欲に燃えていた時期ということもあって、このタイトルが強烈に刺さりました。

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 いわゆる自己啓発本に人生で初めて出合ったわけですが、「終わりを意識しろ」「出る杭になれ」「今目の前のことに全力を出せ」などなど、熱いワンフレーズをぐんぐん吸収し、最後のページにあるこの言葉で完全にスイッチが入りました。

「これです! 『いまこそ一歩を踏み出すのだ』 熱いですね(笑)」
「これです! 『いまこそ一歩を踏み出すのだ』 熱いですね(笑)」
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 社会人になってからも、前向きで貪欲な姿勢を大切にしてきたつもりですし、TBSでは成長につながる素晴らしいチャンスを多く頂けました。

 毎週土曜放送の『王様のブランチ』を担当していた時期は、番組で本を紹介する人気コーナーがあったこともあって、小説やエッセーなど幅広い本に触れる機会が広がりました。

 今はビジネス書を読むことが多くなりましたが、当時は圧倒的に小説が多かったですね。伊坂幸太郎さんや東野圭吾さんなど、いろんな作家の本を読みましたが、中でも好きだったのが原田マハさんです。

 実在する美術作品をモチーフに、緻密な取材をベースにしたストーリー展開が見事で、原田さんの作品だけで6、7冊は読んだと思います。

 1冊挙げるなら『 太陽の棘 』(文藝春秋)でしょうか。終戦後の沖縄・ニシムイ美術村を舞台にした、歴史を学べるエンターテイメント小説です。

 作中に登場する絵に興味を持ち、ヨーロッパを旅した際に美術館まで実物を見にいくといった、リアルな行動につなげてみたり。本を通じて、自分の世界が広がっていくのも面白いですし、そんなきっかけとなる本に出合えたらワクワクするんです。

取材・文/宮本恵理子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 写真/稲垣純也