ハーバード大医師の内田舞さんによる『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』をもとに、本書の構成を担当したライターが、子どもとのスマホ使用のルール作りを実践しました。
スマホを使いたい息子と制限したい母
ここ最近の私の育児の悩みは、子どもにどの程度スマホやインターネットを使用させるかということです。子どもはいつまでも使いたがり、親はなるべく使わせたくない。
この春、息子が中学に入るタイミングでスマホを持たせることにしました。スマホを使うにはルールを決めなければなりませんが、不安だらけです。なぜなら、これまで携帯ゲーム機で遊ぶ時のルール作りが難航し、いつまでもゲームをやめない息子と怒る母で、話し合いが平行線ということがあったからです。
息子にスマホを持たせるのは不安ですが、一方で今の時代、スマホを持たない生活は考えられません。ではどうすればいいのでしょうか。
内田舞さんの『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』の第14章の「SNSには虚構が含まれていることを教えるのも親の役目」「ルールを守れなければ取り上げることも。子どもに伝えるべきこと」をもとに、ルール作りをすることにしました。
本書で内田さんは、対話しながらスマホの良いところや悪いところ、注意点を共有したうえでルール作りをすることで、ルールへの納得感が高まるのではないかと書いています。これを踏まえて、実践してみました。
息子との対話はなかなか難しかった
当日は、まずこんなふうに伝えました。
「小学校の友達の中には違う中学に行く子もいるし、LINEで連絡が取れるようにしたいという気持ちは私もよくわかる。それで、○○(息子の名前)が約束を守って適切に使えるだろうと信じてスマホOKにしたんだよ。だから私をがっかりさせないでね」
ここでも本に書かれていたことを参考にしました。内田さんは、「あなたを信じてスマホを使うことを許したのだ」と伝えたうえで対話しながらルールを決めることが大事と書かれていて、私もその通りだと思ったのです。
ただ、ルール作りの対話は、思ったほどはうまくいきませんでした。
書籍ではまず、スマホの魅力は何なのか子どもに聞くことで、手放すことが難しく、つい際限なく使ってしまう理由を自分で考えさせるというやり方を紹介しています。その後、ネガティブな面についても聞いてみることで、「最初から『こんなに悪い面があるよね』と親が『教える』のではなく、できるだけ本人に考えさせる」ことを促します。
息子は、「えーっと、Xの変な情報見て影響されちゃうとか、闇バイトみたいなのにひっかかっちゃうとか……」と言いますが、まだ実際にスマホを使っていないこともあって、「自分がスマホを使ったらどんな問題が起きるか」を具体的に想像できないようです。
以前、携帯ゲーム機を使っていた時には、手放すことが難しく、つい際限なく使ってしまっていたので、そこをスマホに置き換えて、私の方から「ずっとスマホを見ていて寝不足になったり、宿題や試験勉強を後回しにしちゃったり、スマホを見ながら勉強しようとして集中できなくなったりする可能性があるんじゃないかと心配してるんだけど……」と、話を振ってみました。
すると息子は、「あー、それはあるかも。夜は使えないように制限かけていいよ。あと、寝る時と勉強する時は、スマホはこっちの部屋(リビング)に置いておく」と提案してきました。
思ったよりもルール作りはスムーズに進み、結局、ペアレンタルコントロールで、使える時間帯やアプリのダウンロード、課金に制限をかけることで合意。充電器は自室に置かずリビングに置いて、寝ている時や勉強中はそこで充電しておくことになりました。そして、実際にスマホを使ってみて、ルールに不都合があれば話し合って見直すことにしました。
何かあったらすぐに相談してほしい
私からは、さらに次のように話しました。
「ネットでは、世界中の頭のいい人たちが虎視眈々(たんたん)と『お金を吸い取ってやろう』『だましてやろう』と狙っていて、子どもだからと容赦しないし、手口もものすごく巧妙。
だから、大丈夫だと思って個人情報を書き込んで、後で『ヤバかったかな?』と思ったり、よくわからずクリックしてお金を請求されちゃったりすることはあるかもしれない。もちろん、気を付けてはほしいけど、もしそうなったらすぐに言って。それはあなたが悪いわけじゃなくて、ワナを仕掛けたりだましたりする方が悪いんだから。
それから、LINEでもオンラインゲームでも、直接会ったことがない人とはつながらないようにね。大人が子どものフリをするのは簡単だし、人をだまそうとしている人は何だってやるから。もし、『親には言うな』って言われたりすることがあったら、それは絶対に親に言って」
このあたりも、14章の「性被害から子どもを守るための言葉がけ」に書かれていたことをそのまま意訳しています。
息子は、どうも「弱みを見せるのは負け」「非を認めたら負け」と思い込んでいるふしがあって、もしもネットで何かだまされたり、被害に遭いそうになったりしても、素直に助けを求めたりしないのではという気がしてなりません。つまずいた時にすぐに相談できるよう、まずはつまずいたことに対する罪悪感を取り除くための声掛けをしなければ、と思いました。
ルール変更で“交渉”する
最初は「使うのは夜9時まで」という約束をしたのですが、数日たって息子が、「9時15分までに変えてほしい」と言ってきました。理由を聞くと、「仲のいい友達は、スマホの制限時間が9時15分までだから」。私は「それは制限時間を延ばす理由にはならないからOKとは言えない」と答えたのですが、内心「ここですぐに怒りだすんじゃないか」と覚悟しました。
でも息子は、「寝る時間が10時なんだから、9時15分までスマホを使っていても、それから寝る準備をすれば間に合うはず。だから15分だけ延ばしてほしい」と言ってきました。
私は「『よその家では9時15分だから』という理由は納得できないけど、『15分延ばしても寝る準備は間に合うから』っていうのは納得できる。9時15分に変えてもいいよ」と答えました。それから、こんなふうにも話しました。
「以前の○○(息子の名前)なら、最初に『ダメ』って言ったらそこで怒りだして『もういい!』ってキレてたと思う。でも、そこで別の説得材料を持ち出して“交渉”ができるようになったのは、すごい成長だと思った。うれしかったよ。
こういうふうに、交渉して“落としどころ”を探るのは、大事だと思う。2人とも目指しているところが全然違うからといって、勝ち負けを決めて、『スマホはナシ』とか『スマホ使い放題』にするんじゃなくて、話し合って交渉して、中間地点の落としどころを探す。そういう練習をすることが大事だと思う」
親子で失敗の練習を
内田さんは書籍の中で、親はつい、子どもが失敗しないよう先回りしてしまうけれど、親の手がまったく届かないところで初めて失敗に直面するよりも、親の手が届くところで小さな失敗を繰り返し、「失敗から立ち直る」練習をさせておく方が、子どものためになるだろうと書かれています。
スマホには、高額課金や詐欺など、大人でも陥るような落とし穴がたくさんあり、不安は尽きません。
だからといって、あれもダメ、これもダメとルールでガチガチに縛ると“練習”になりませんし、私の方も管理するのが大変です。ペアレンタルコントロールの機能などを使って自由度をコントロールしながら、息子にはスマホとうまく付き合う練習をさせ、親子ともに、ルール作りで交渉の練習をしようと思いました。
息子は中学に入り、部活も始まって、一気に人間関係も広がったようです。それに加えて、本人だけでなく周りでも、スマホを持ち始めた子が一気に増えました。友達とトラブルになることもあるかもしれませんし、ハラハラしますが、多少痛い目に遭ったりしながら(息子も私も)学ぶしかないと思っています。
内田也哉子氏(エッセイスト)推薦「子育てを見つめると、多様な世の中が見えてくる。本書は、こどもを育てる人々への道しるべであり、心の所在をしなやかに探すための大いなるエールなのです」
内田舞著/日経BP/1760円(税込み)


