親子で話すには抵抗感がある性に関する話題ですが、性被害、性加害から子どもを守るための言葉がけ、子どものSNS使用の際の注意点などについて話します。また、被害に遭ってしまった子どもが「自分のせい」だと思わないための親の心がけについて伝えます。ハーバード大小児精神科医の内田舞さんによる初の育児書『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』から抜粋して再構成。

性被害や性加害を防ぐために

 最近は、リアルな場に加えて、SNSやゲーム、スマホなどのデジタル機器を介した子どもの性被害も問題になっていて、不安を抱える親御さんも多いと思います。

 性教育というと、かつては妊娠や避妊、性感染症防止などが中心でしたが、今はそれだけでなく、性被害や性加害の防止、自分の性や体を大切にしてバウンダリー(心理学で自分と自分以外の人を隔てる境界線のこと)を尊重すること、人間関係やジェンダー平等なども含めた幅広い「包括的性教育」が重視されるようになってきています。

 NOと言えること、NOを受け入れることが、バウンダリーを尊重することに欠かせないのですが、実はこれは、性教育や、性被害・性加害の防止にも大きな関係があります。

 自分の体に触れられそうになったり、キスや性交をされそうになったりした時に、嫌な気持ちがあったらNOと言える。逆に、自分が誰かに触れたいと思った時、キスや性交をしたいと思った時に、相手からNOと言われても受け入れられる。NOは、自分や相手の体や気持ちのバウンダリーを尊重することにもつながります。

性教育では、自分と他人を隔てるバウンダリーの感覚を持つことが、自分の体や相手を尊重する意味でも大切だという(写真:maru54/stock.adobe.com)
性教育では、自分と他人を隔てるバウンダリーの感覚を持つことが、自分の体や相手を尊重する意味でも大切だという(写真:maru54/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示

 誰かから嫌なことをされた場合、すぐにはっきりとNOと言えたらいいのですが、上下関係がある場合や怖いという感情がある場合は、「嫌だ」と言いにくいことがあります。特に日本の子どもは、普段から「目上の人は敬いなさい」「大人の言うことは口答えせず聞きなさい」と教えられていることが多く、大人から性加害や、必要以上に髪や手足など、体に触れてくるといった性加害につながるような行為をされた場合にも、なかなか「やめて」と言えないことが多いのです。

 これは子どもに限ったことではなく、大人であってもありえます。女性でも男性でも、セクシュアルハラスメントをされた時にNOと言うのは勇気が要ります。特に、上司と部下、教師と生徒、コーチと選手、先輩と後輩といった上下関係があると、そのハードルは一層高くなります。

 日本では2023年に刑法が改正されて不同意性交等罪が新設されました。相手の同意なしに性交をした場合は犯罪になる可能性があるのです。恋人同士や夫婦間でも同様です。小さい時から、NOを言うこと、NOを言われるのを受け入れることに慣れ、バウンダリーの尊重が身についていれば、自分が被害に遭うことや、自分が加害者になってしまうことを避けられるようになるのではないかと思います。

「性的グルーミング」の恐ろしさ

 2023年に、旧ジャニーズ事務所の創業者、故ジャニー喜多川氏が多数の少年に性加害をしていたことで、「性的グルーミング」にも注目が集まりました。性的グルーミングとは、性的な加害をするために、子どもと(時にはその親とも)親しくなって信頼を築く、つまり「手なずける」プロセスを指し、昔から、子どもへの性暴力加害者がよく使っている手口です。

 2000年代に入り、スマホやSNS、オンラインゲームが普及してからは、これらを利用した性的グルーミングも増えています。

 大人が子どもに親切にしたりするのはごく当たり前のことなので、それが最終的に性加害を目的としているのかは、親にも子ども自身にもわかりにくいのがやっかいです。特に、それがSNSやオンラインゲームなどで行われていると、余計に周りから見えにくくなります。だからこそ親は子どもに、オンラインのコミュニケーションが抱える危険性についても、注意を促しておく必要があるでしょう。

 例えば、オンラインで出会った相手が、本当はどんな属性の人なのかはわかりません。子どものふりをしている大人かもしれないし、女性のふりをしている男性、男性のふりをしている女性かもしれません。加害者は、顔が見えない状態で、最初はオンラインゲームなどを通じて仲良くなり、信頼を築いたうえで、少しずつプライベートの情報をやり取りすることの抵抗感を下げていき、性的な画像などを送らせたり、直接会う約束をしたりします。

子どもたちは、インターネットやSNSを通して、表面的にはわからない形で性的グルーミングの危険性にさらされてしまう(写真:琢也 栂/stock.adobe.com)
子どもたちは、インターネットやSNSを通して、表面的にはわからない形で性的グルーミングの危険性にさらされてしまう(写真:琢也 栂/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示

 その手口は非常に巧妙で、子ども自身が「被害に遭っている」と気付かないこともあります。

 これはもちろん、ネットの外のリアルの世界でも同様です。子どもを対象とした性加害は、性的グルーミングをともなった、親族や教師、習い事や塾の講師などの顔見知りによるものも多いとされています。

性被害から子どもを守るための言葉がけ

 性教育については、子どもの年齢や性別などによって、親の対応も変わってきますが、最近は子どもの性教育に関する親向けの書籍もたくさん出ているので、参考にするとよいと思います。私も日々、子どもたちにはどのタイミングで何をどのように教えたらいいのか、悩んでいるところですが、これまで息子たちに何を話してきたか、少しご紹介します。

 まず、息子たちにはかなり小さい時から、プライベートパーツについて教えています。「もともと、自分の体は自分のものだけれど、その中でも特に、口と、水着で隠れるところは、人に見せたり触らせたりしてはいけない。もしも誰かに触られたり、見せてほしい、触らせてほしいと言われたりしたら、絶対にママかパパに言いなさい」と言っています。プライベートパーツについては、1歳や2歳くらいから教えてもいいと思います。

 うちでは兄弟同士で、「やめて」と言いながらも笑ってふざけてお尻をつつき合ったりすることもあるのですが、どこからが止めるべきラインなのかは悩みます。ただ、これを友達同士の場合に置き換えると、いくら笑いながらであっても「やめて」「いやだ」と言われたら、それはやめなくてはいけません。している側はふざけているだけであっても、されている方は本当にいやな気持ちになっていて、その場の雰囲気を壊すのが怖くて、無理に一緒に笑ってふざけている“ふり”をしていることもあるからです。

 「親以外の人から『絶対内緒だよ。親には言ってはダメだよ』と言われたら、それは絶対に親に言わなきゃいけない」ということも、4、5歳くらいになったころから何度も伝えています。

兄弟姉妹であっても、ふざけあっている時にどちらかが「やめて」と言った場合、親は止めることも選択肢に入れたほうがよい(写真:siro46/stock.adobe.com)
兄弟姉妹であっても、ふざけあっている時にどちらかが「やめて」と言った場合、親は止めることも選択肢に入れたほうがよい(写真:siro46/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示

 日本でしたら、ジャニー喜多川氏の例が使えるかもしれませんが、私は、アメリカで小児性加害疑惑のあった歌手の事例を引き合いに出して説明しました。

 「みんながあこがれる有名な人から『家で楽しいお泊まり会があるよ』と誘われて、子どもたちが喜んで参加してしまった。その人が子どものプライベートパーツを触ったりしたあと、『このことを誰かに言ったら、僕もきみたちも逮捕されちゃうから、誰にも言っちゃいけない。これはきみと僕だけのヒミツなんだよ』と言ったとしたら……」

 「もしそういうことがあったら、どんな状況であっても、絶対にそれはあなたのせいではないから、怖がらないで絶対にパパかママに言ってね」

 逃げられそうだったら逃げて、もし周りにパパやママがいなかったら、知らない人でもいいから、子どもがいそうな女の人に助けを求めなさいとも言っています。でも、もし逃げられなかったとしても、それはあなたの責任ではないからね、と伝えています。

 オンラインでの性被害についても同様です。「もしかしたら、『あなたのプライベートパーツの写真を送ってほしい』と言ってくる人がいるかもしれない。その場合は、絶対に送ってはいけない。もしうっかり送ってしまった場合は、それはあなたが悪いわけではないから、それもすぐに、パパかママに言ってね」と伝えています。

 「うちの子どもは男の子だから大丈夫」というわけではありません。オンラインでもリアルの場でも、男の子が被害者になることは日本でも少なくないので、油断することなく性被害に対する防犯意識を持ってほしいと思います。

 親の方も、性に関する話は抵抗感があり、子どもに伝える時も「変な人に声を掛けられても、ついていってはダメだよ」といった、漠然とした言い方をしがちになります。しかし、実際は、声をかけてくる加害者は「変な人」には見えないことが多く、それどころか、親も子どもも顔見知りであることもあります。また、ネットでは顔が見えず、巧妙なやり方でグルーミングをしてくるので、「変な人」という警戒心も持ちにくいでしょう。できるだけ具体的に手口を示し、「いやならNOと言うこと」「でもNOと言えなかったことを恥じることはない」「もし被害に遭ったとしても、それはあなたが悪いわけではない(悪いのは加害者です)」「いくら口止めされていてもすぐに親に言うこと」と、早いうちから伝えておくとよいと思います。

 子どもたちには、こうした被害にはもちろん遭わないでほしいですが、もしも遭った時に、「自分が悪かったのではないか」と自分を責めたり、誰にも言えずに余計につらい思いを抱えたりということがないようにしてほしいと思っています。

ハーバード大小児精神科医で3児の母でもある内田舞さん、初の育児書!

内田也哉子氏(エッセイスト)推薦「子育てを見つめると、多様な世の中が見えてくる。本書は、こどもを育てる人々への道しるべであり、心の所在をしなやかに探すための大いなるエールなのです」

内田舞著/日経BP/1760円(税込み)