職場におけるコミュニケーションの断絶を、才能という観点から鮮やかに斬り、物語にしたベストセラー『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ 』(日本経済新聞出版)。今回は、文庫化に当たり加筆した「読者との一問一答」の後編をお届けする。天才・秀才・凡人の構図は職場以外でも当てはまるのか? マネージャーとして異なる才能を持つ人材をどう活かすか? などの質問に答える。

お互いの価値を認め合う文化を醸成

Q 本書の天才・秀才・凡人の構図は、職場以外でも当てはまりますか? 例えば学校や家庭、社会全般にも言えることでしょうか?

A はい、人間社会全般に通じる法則として捉えることができます。歴史上の発明家や芸術家が当初は世間に理解されず苦労したという話は枚挙に暇がありませんし、学校でも風変わりな生徒が周囲になじめないといったケースがあります。家庭内でも、新しい挑戦をしたい子どもに対し親が心配から反対してしまう、なんて場面はあるでしょう。

 このように「新しいもの」と「受け入れる側」の齟齬(そご)はあらゆる場面で起こりえます。本書はそれをわかりやすく「才能の種類」として描いていますが、見方を変えれば「変化を起こす人」と「現状を守る人」の力学とも言えます。社会全般では、多くの人は急な変化を望まないため現状維持の力が強く働きますが、その中で少数のイノベーターが粘り強く訴えかけることで徐々に受け入れられていく、というのが革新のプロセスでしょう。

 したがって本書の内容はビジネスの職場に限らず、生きづらさを感じている才能ある人へのエールであり、周囲の人への提言にもなっています。「身近な○○さんとの関係に当てはまるかも」といった具合に、ぜひ広い場面に置き換えて考えてみてください。

Q 部下やチームメンバーに天才肌の人と秀才タイプ、凡人タイプが混在しています。マネージャーとして彼らの才能を伸ばし、生産的に協力させるにはどうすればいいでしょうか?

A 異なる才能を持つ人材がそろっているのは組織にとって大きな強みです。それぞれの力を発揮させるために、まず役割分担と相互理解を促すことが有効です。例えば、新規サービスの開発であれば天才型の人には自由な発想をどんどん出してもらい、秀才型の人にはそのアイデアを実現可能な計画に落とし込んでもらう。凡人型の人にはユーザー目線でフィードバックをもらったり、チーム内の調整役をお願いしたりするといった具合です。それぞれが自分の強みを活かして貢献できるポジションを与えられると、才能が生き生きと動き出します。

 同時に大事なのは、お互いの価値を認め合う文化を醸成することです。「あの人は自分にないものを持っている」と理解できれば、ねたみや見下しといった感情ではなくリスペクトが生まれます。具体的には、定期的にお互いの成果やアイデアを称賛し合う場を設けたり、それぞれの視点から意見を言わせる機会を作ったりするとよいでしょう。例えば会議で「共感的な観点ではどう思いますか?」とか「論理面で問題ないかチェックをお願いします」といった風に、それぞれのメンバーの得意分野にスポットを当てるのです。こうすることでみんなが「自分はチームに必要とされている」と感じられます。

 さらに、仲介役(ブリッジ人材)を育てることも有効です。潤滑油のように天才と凡人の間を取り持てる人、あるいはビジョンも語れて数字にも強い人材がいれば、チーム内の齟齬は格段に減ります。

マネージャーは部下の才能タイプごとに役割分担と相互理解を促すことが必要だ(写真:Wuttichai/stock.adobe.com)
マネージャーは部下の才能タイプごとに役割分担と相互理解を促すことが必要だ(写真:Wuttichai/stock.adobe.com)
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 このような人物を見極めてプロジェクトリーダーに据えたり、あるいはマネージャー自身が各タイプの言い分を汲み取って翻訳してあげたりするとよいでしょう。マネージャーは「才能の通訳者」でもあるのです。

 あとは、失敗をとがめない心理的安全性も重要です。天才型の奇抜な提案もまず受け止める、秀才型の慎重な指摘も価値として歓迎する、凡人型の率直な感想も尊重する、といった姿勢で、何でも言い合える安心感を作ってください。そうすれば互いの能力を補完し合いながら、組織全体として大きな成果を生み出せるはずです。

一人一人が自分なりの創造性を発揮する

Q 「天才」なんて聞くと特別な人だけの話のようですが、自分のような平凡な人間にも何か天才性ってあるのでしょうか?

A あります。誰しも何らかの分野では創造性を発揮しうるものです。本書のメッセージの一つは「あなたの中にも天才(創造性)がいる」という気づきを持ってほしいということでした。たとえ日常の仕事ではマニュアル通りに動くことが多い凡人タイプの人でも、趣味で斬新な作品を生み出しているかもしれません。あるいは家事の工夫が得意で独自のアイデアで家族を驚かせることもあるでしょう。そのように、自分では平凡だと思っていても特定の場面では「自分なりの発想」で物事を進めていることがあるはずです。そこにあなたの天才性が表れています。

 また、創造性の大きさは人によって違いますが、小さな独創でも尊い才能です。みんなが同じやり方しかできなければ世の中は停滞してしまいますが、些細(ささい)な工夫でも誰かが新しいやり方を試みることで前進が生まれます。あなたの中の「他人とはちょっと違う視点」こそが大切です。それを伸ばすには、自分が熱中できることやワクワクするテーマを大事にしてください。好きこそ物の上手なれで、それを極めていくうちにオリジナリティが育まれていきます。

 全員が歴史に名を残す大天才になる必要はありませんが、一人ひとりが自分なりの創造性を発揮することで人生に彩りが生まれ、周囲にも良い影響を与えられるのです。「凡人の自分にも小さな天才が宿っている」と思って、ぜひあなたならではの創造を楽しんでください。

Q 本書で触れられていた「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」や「病める天才」などのネガティブなタイプも気になります。秀才がねたみから天才を邪魔することがあるとか、創造性があっても再現性がないと才能が埋もれてしまうとか……。こうした罠(わな)に陥らないためには?

A ご指摘のように、本書では才能の組み合わせによるいくつかのタイプが紹介されています。例えば「サイレントキラー」とは秀才タイプが持つ負の側面で、天才への嫉妬から内心で反発し足を引っぱってしまう人を指します。一方「病める天才」は、創造性は高いものの再現性(形にする力)が不足して成果を出せず埋もれてしまう人です。これらは才能そのものよりも、心の持ちようや努力の方向性によって生じる状態と言えます。

 避ける方法として、秀才タイプの人であれば先述したように共感力や協調姿勢を意識的に鍛えることが有効でしょう。天才タイプの人であれば、自分のアイデアを実現するためのスキルや周囲との調整力を磨くことが大切です。加えて、組織全体の文化として健全な競争と協力関係を築くことも必要です。才能同士が対立するのではなく、お互いを補完し合うという意識をチームで共有できれば、妬みや怠慢からくる「殺し屋」や「病める」状態は起こりにくくなります。

 要するに、才能におごらず不足を補い合う姿勢が鍵です。自分に足りない部分を認め、他者の力を借りたり学んだりする謙虚さがあれば、どのタイプの人もネガティブな落とし穴に陥らずに済むでしょう。

 逆に「自分は天才だから理解されないんだ」と孤高を気取るだけでは進歩がありませんし、「自分は秀才で正しいんだからあの人は間違っている」と決めつける態度では成長が止まってしまいます。本書のラストでも、才能を分類して終わりではなく「では自分は何をすべきか?」と問いかけています。才能のタイプはあくまで出発点であり、その先の行動次第で良くも悪くも変わりうるのです。

 ですから、自分や周囲がネガティブな状態にハマりそうだと気づいたら、「どう補えばうまくいくか?」と建設的に考えてみてください。それが天才・秀才・凡人それぞれの才能を健全に発揮させるコツです。

想像力と思いやりを持つ

Q 最終的に、才能の違いによる悲劇を避けるには何が一番大切なのでしょう? 社会や職場を「優しい世界」に近づけるために、私たちにできることはありますか?

A 一番大切なのはやはり「相手を理解しようとする姿勢」と「自分の中にも相手と同じ要素があると知ること」だと本書は教えてくれます。天才・秀才・凡人と分けると対立が生まれがちですが、実は誰しも少しずつ相手の要素を持っています。自分にも創造性や論理性、共感性のすべてが備わっていると気づけば、「あの人の気持ちはわからないでもないな」と想像できるようになります。想像力と思いやりがあれば、不用意に才能を否定したり嫉妬したりせずにすみます。

 他者の才能や挑戦を応援することも重要です。自分と違うタイプの人を恐れたり排除したりするのではなく、「面白い存在だ」「学べるところがある」と尊重すれば、その人も力を発揮しやすくなります。組織でも社会でも、多様な才能が花開くには心理的安全性と相互支援の風土が欠かせません。

 幸い2025年現在、リモートワークやオンラインコミュニティの発達により、旧来の組織の枠を超えて協力し合うチャンスも増えています。SNS(交流サイト)や情報発信を通じて、自分の理解者やメンターを世界中から見つけることも可能です。生成AIなど新しいツールも、人と人をつなぐサポートに活用できます。そうした環境の進歩もうまく活かしながら、一人ひとりが「この人の才能を活かすには?」と考えて行動すれば、きっと今より優しい世界に近づくでしょう。

 本書が提示した知見を活かして互いの才能を認め合い、高め合える社会を目指したいですね。それこそが本書で目指したメッセージであり、読者への問いかけでもあるのです。お互いを知り、違いを楽しみ、みんなが活躍できる土壌を作る――それが凡人も秀才も天才も幸せになれる道だと言えるでしょう。

大反響を呼んだ13万部ベストセラー、文庫化!

世の中には天才と秀才と凡人がいる。凡人は天才を理解できず、排斥する。秀才は天才に憧憬と嫉妬心を持つが、天才は秀才にそもそも関心がない――。職場におけるコミュニケーションの断絶を、才能という観点から鮮やかに斬った話題のベストセラー、いよいよ文庫化。

北野唯我著/日本経済新聞出版/990円(税込み)