職場におけるコミュニケーションの断絶を、才能という観点から鮮やかに斬り、物語にしたベストセラー『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』(日本経済新聞出版)。今回は、文庫化に当たり加筆した「読者との一問一答」の前編をお届けする。天才・秀才・凡人の3分類は単純すぎないか? 天才肌の人は理解されにくいのか? 多数決は悪か? など様々な質問に答える。
「凡人=悪者」ではない
Q 『天才を殺す凡人』というタイトルは衝撃的ですが、凡人が悪者のように感じます。普通の人(凡人)が天才を必ずつぶしてしまうという意味なのでしょうか?
A タイトルは刺激的ですが、決して「凡人=悪者」ということではありません。これは、斬新なアイデアを持つ人(天才)が多数派の常識を持つ人(凡人)に理解されず排斥されてしまうことがある、という現象を端的に表現したものです。天才はしばしば自分のアイデアを周囲に理解してほしいと願いますが、その発想があまりに独創的だと凡人には理解できず、「おかしい」「現実的じゃない」と否定されてしまいがちです。このコミュニケーションの断絶をメタファー(隠喩)として、「殺す」という強い言葉で表現しています。
しかし本書のメッセージは、互いの才能の違いを理解し、悲劇を防ごうという前向きなものです。凡人が常に天才の敵というわけではなく、むしろ凡人・秀才・天才のすべてが協力してこそ組織や社会が発展すると説いています。タイトルはそのギャップを乗り越える重要性を強調するためのものだと捉えてください。
Q 人間を「天才・秀才・凡人」の3種類に分類するのは単純すぎませんか? 多様な個性をそんな風にラベル付けしてよいのか疑問です。
A ごもっともな疑問です。本書でもこの3分類は優劣ではなく、それぞれ役割が異なるだけだと強調されています。実際の人間はそんな単純に割り切れず、一人の中に天才的な部分も秀才的な部分も凡人的な部分も併せ持つと本書でも述べています。つまり誰もが状況によって創造性(天才性)や論理性(秀才性)、共感力(凡人性)を発揮しうるのです。
ただ、この物語では極端な類型を示すことでコミュニケーションの行き違いを分かりやすく描いています。分類はあくまで理解を助けるフレームワークであり、人を決めつけるためのレッテルではありません。
大切なのは、「自分や他人の中に様々な才能の側面がある」と自覚し、多面的に捉えることです。それにより相手の考え方の背景を想像しやすくなり、人間関係がスムーズになるというのが本書の狙いです。
Q 自分がどのタイプか知りたいのですが、はっきり天才でも秀才でもない凡人だと感じると落ち込んでしまいそうです……。どう自己理解すればいいでしょうか?
A まず、「凡人だからダメ」ということは決してありません。本書でも強調されるように、凡人の共感力は組織に不可欠な力です。多くの人に共感し支持を集めることで物事を前に進める推進力となります。また、ほとんどの人は純粋な一種類ではなく、創造的な面や論理的な面が少なからずあるものです。
自己分析のヒントとしては、例えば「新しいアイデアを考えるのが好きか」「データや再現性を重視するか」「人の気持ちを読むのが得意か」といった観点で振り返ってみてください。それぞれ創造性・再現性・共感性に対応します。
そうして自分の強みの傾向をつかめば、「自分は周りをもり立てる役割が得意なんだ」「自分はアイデアマン寄りなんだ」など自己理解が深まります。また、仮に自分は凡人タイプだと感じても悲観する必要はありません。凡人タイプは人と協働する力に長(た)けていますし、秀才タイプなら物事を着実に形にする力があります。それぞれが価値ある才能ですから、自信を持って大丈夫です。それに気づけば、「自分には自分の役割がある」と前向きに捉えられるはずです。
Q 一人の中に複数の才能があるとのことですが、では凡人が創造性(天才性)を伸ばしたり、秀才が共感力(凡人性)を身につけたりといった成長は可能でしょうか?
A はい、才能の要素は伸ばすことができます。本書の中でも、例えば「論理性(再現性)は勉強すれば身につく後天的才能だ」と語られています。創造性も訓練や経験で高めることが可能です。実際、クリエイティビティを鍛える発想トレーニングや、多様な体験による刺激が創造的思考力を向上させることが知られています。また秀才タイプが共感性を高め「最強の実行者」になる例も本書で紹介されています。
逆に天才タイプも再現性を磨けば「エリートスーパーマン」になれるとも述べています。要は、自分に不足する軸を意識的に伸ばすことでバランスの取れた人材に近づけるということです。とはいえ急に変身する必要はなく、身近なところからで構いません。普段論理一辺倒の方が人の気持ちに注意を向けてみるとか、共感優先の方があえてデータで考えてみるとか、小さなプラクティス(実践)の積み重ねが大事です。
さらにうれしいことに、人は周囲の環境やツールを活用して不足部分を補うこともできます。例えば発想支援ツールや他分野の人との交流によって創造性を刺激するといった形で、自分の才能の幅を広げられるでしょう。成長の余地があると考えれば、「自分はこのタイプだから」と決めつけず前向きに取り組めます。
「天才は孤独だから仕方ない」と諦めない
Q 本書の中では天才が孤独に苦しむ姿が描かれていました。やはり天才肌の人は組織で理解されにくく、孤独になりがちなのでしょうか?
A 残念ながら「周囲に理解されない孤独な天才」というのは現実にも見られる現象です。独創的な発想ほど周りとの共有が難しく、共感されにくい傾向があります。特に凡人タイプの人は「自分に理解できないもの=おかしい」と捉えがちで、天才的な人ほど孤立しやすいのです。
ただし、孤独=不幸とは限らないことも覚えておきましょう。創造に没頭する中で本人が充実感を得ている場合もありますし、理解者が少人数でもいれば救われます。また、本書では「共感の神」と呼ばれる潤滑油役の存在が鍵として描かれています。これは高い共感力で天才の才能を見抜き、周囲に橋渡しできる人です。現実でも、例えば理解ある上司やメンター、同志の友人が一人いるだけで天才型の人の孤独は大きくやわらぐでしょう。
最近では、インターネットを通じて世界中からニッチな才能にも共感してくれる仲間を見つけやすくなっています。ですから「天才は孤独だから仕方ない」と諦める必要はありません。必ずどこかに理解者はいると信じ、発信を続けたり身近な協力者を大切にしたりすることで、孤立の苦しみはかなり軽減できるはずです。
Q 私は新規アイデアを出すのが好きなタイプですが、職場では「話が飛躍しすぎ」「現実味がない」としばしば却下されます。どうすれば凡人や秀才に自分のアイデアを理解・支持してもらえるでしょうか?
A 創造的なアイデアを持つ人にとって、それを周囲に伝わる形に「翻訳」する努力がとても大切です。いくつか方法があります。まず、相手の言葉で語ることを意識してみましょう。専門用語や難解な表現ではなく、相手になじみのあるたとえやビジネスの文脈に置き換えて説明すると、共感性の高い凡人にも伝わりやすくなります。「なぜそれが大事なのか」を物語として語るのも有効です。次に、小さくても具体的な成果やデータを示すことです。
秀才タイプは論理や再現性を重んじますから、アイデアを試作してみたり、類似事例の実績を調べてみたりして、再現性の手がかりを提示すると評価してもらいやすくなります。
例えば新提案のプロトタイプを作ってみせ、「この部分は既存技術で実現できます」「市場調査では○割の人が興味を示しています」のような情報を添えると、現実味が伝わるでしょう。さらに、味方を増やす戦略も有効です。最初から大多数を説得しようとせず、理解のある同僚や上司一人ひとりに丁寧に話して共感者を徐々に増やすことで、アイデアへの支持を底上げできます。本書でも、天才の発想を支える潤滑油役が重要だとされています。あなた自身が信頼できる「共感の橋渡し役」を見つけられれば心強いでしょう。
最後に、否定にあってもめげずに改良を重ねる粘り強さも大事です。独創的なアイデアほど理解されるまで時間がかかるものですから、フィードバックを活かしてブラッシュアップし続ければ、いずれ認められる可能性が高まります。
理解できないからといって即否定しない
Q 私はどちらかというと凡人タイプで、変わったアイデアより現実路線派です。気づかないうちに誰かの才能をつぶしてしまわないか心配ですが、凡人が“天才を殺さない”ためにできることは何でしょうか?
A 大切なのは「理解できないからといって即否定しない」ことです。凡人タイプの強みは共感力ですが、裏を返せば未知のものに抵抗を感じやすい傾向があります。しかし、自分にピンと来ないアイデアでも頭ごなしに「無理だ」「おかしい」と切り捨てる前に、一呼吸おいて考えてみる姿勢を持ちましょう。本書でも、タイプが異なる相手には一呼吸置いて対応することが大事だと語られています。
具体的には、その人が何を実現したいのか背景にある思いに耳を傾けたり、自分なりに調べてみたりすることです。もしすぐには賛同できなくても、「面白いね」「新鮮だね」と相手の情熱を尊重する反応を返すだけでも、才能をつぶすどころか伸ばす助けになります。
また、自分に理解できないからといって多数派の論理(多数決)で排除しようとする心理にも注意が必要です。人間は多数が支持するものを良いと感じがちですが、それだけでは新奇な価値は生まれにくいものです。少数派の意見にも耳を貸す度量を意識的に持つことが、凡人にできる最大の才能支援と言えるでしょう。
自分自身が潤滑油役に回ってみるのも一案です。周囲に天才肌の人がいるなら、その人の意見をみんなにわかりやすく伝えたり、逆に周囲の反応を本人にフィードバックしたりする仲介役になってみてください。それができれば組織の中で非常に価値ある存在になりますし、才能ある人の力を生かすことで全体の成功にもつながります。
Q 本書では「多数決こそが天才を殺すナイフになる」という指摘がありました。でも職場や社会では多数決は公平な手段として大事ですよね? イノベーションのためには多数決を排すべきなのでしょうか?
A 多数決そのものが悪というわけではありません。ただ、多数決はどうしても現状維持寄りの結果をもたらしがちだという点には注意が必要です。大多数の人は急激な変化より安定を好む傾向があります。そのため、革新的な案は最初、少数派の支持しか得られず、多数決にかけると否決されてしまうことがあるのです。イノベーションを起こすには、このジレンマを乗り越える工夫が求められます。
例えば、少数の有志で試験的にプロジェクトを走らせてみることが考えられます。全員の賛成を得られなくても、小さくテストして成果を示せれば、後から多数派も「うまくいきそうだ」と支持に回るかもしれません。つまり少数意見をゼロから育てる場を用意するのです。
また、組織のリーダーシップも重要です。多数決は民主的ですが、こと新規事業や製品開発ではリーダーがビジョンを示し、時には反対意見が多くても先見の明を持ってゴーサインを出す決断力が求められます。実際、画期的な発明や事業は当初「そんなの無理だ」と言われたものが多いのですが、トップや支援者がゴーサインを出して世に出ています。
要は多数決と少数意見尊重のバランスです。普段はみんなの合意を大切にしつつ、イノベーションが必要な場面では少数派の新提案にもチャンスを与える――そんな柔軟な意思決定が理想的です。「とりあえずやってみて判断する」という文化があると、新しい才能が埋もれずにすむでしょう。
世の中には天才と秀才と凡人がいる。凡人は天才を理解できず、排斥する。秀才は天才に憧憬と嫉妬心を持つが、天才は秀才にそもそも関心がない――。職場におけるコミュニケーションの断絶を、才能という観点から鮮やかに斬った話題のベストセラー、いよいよ文庫化。
北野唯我著/日本経済新聞出版/990円(税込み)

