今の子どもたちが社会人になった時にはAIが今より普及し、多くの仕事をAIが代替するようになっているはずです。それを見据え、大人たちは子どもに何を教えるべきでしょうか。書籍『 わが子に教える AI時代に必要な7つの能力 』(日経BP)では、学校では教わらないけれども、親が子どもに教えるべき未来の能力を7つ挙げました。本特集では、7つの能力のうち1つ目に挙げた「ファクト眼」について解説します。その第1回。
「ファクト眼」の定義
フェイク(嘘)を見破ることはもちろん、目の前の情報や出来事を、感情や先入観に流されず冷静にファクト(事実)だけを見て判断できる能力のこと。さらに、あふれる情報の中から自分にとって価値のある情報を抜き出し、それ以外の情報はノイズとして脳から捨てることができる能力のこと。
「ファクト眼」がAI社会で必要な理由
以前から、ネット上では真実か嘘かがよくわからない情報が流れやすかったのですが、記事を大量生産できる生成AIが登場してからは、ますます怪しい情報が流れてくるようになりましたね。この傾向は今後さらに加速しますよ。
そのうち、いったいどれがフェイクなのか簡単には見分けることができなくなり、もしかするとフェイクが紛れ込んでいることすら意識しなくなっていくかもしれません。
この現象は文字の情報だけでなく、画像や音声、映像でも同じです。既に本物と区別がつかない偽の映像も簡単に作れるようになっていて、僕は近い将来、画像や映像が裁判の証拠として使えなくなる社会が到来すると感じています。
だからこそ、人間がしっかりと情報の真偽を判断できるようにならないと、AIを正しく活用することはできません。情報に基づいてより良い意思決定を行うことも難しくなります。そうなると、真実と嘘が入り交じった情報を前に、自分で判断することができなくなってしまったり、判断することが不安になってしまったりするでしょう。
その結果、友人がアレを選んだから自分もアレを選んでおこうとか、有名人やインフルエンサーが薦めるものを無批判に選んでしまうようになっていきます。こうして人任せの意思決定をしてしまう依存型の人間になってしまうんですね。
そんなことにならないように、自分の子どもにはこの真実を見抜く「ファクト眼」の能力が身に付くように育てる必要があるんです。それでは、どうすればそのファクト眼を身に付けさせることができるのでしょうか。
どう鍛えるか
メディアの情報をうのみにしない
「ファクト眼」を身に付けさせるためには、2つのスキルを鍛えます。
1つ目はクリティカル・シンキングです。クリティカル・シンキングとは批判的な思考を行うことで、例えばメディアの情報をうのみにせずに疑う姿勢を持つことですね。
ユダヤ人は、世界人口のわずか0.2%でありながら、ノーベル賞の20%を獲得しています。彼・彼女たちの家庭での教育には、まさにクリティカル・シンキングが含まれているんですよ。
日本では多くの親が「お父さん・お母さんや先生の言うこと、大人の言うことをしっかりと聞きなさいね」というふうに教えていますよね? しかしユダヤ人はわが子に対して、「親である私や学校の先生の言うことをそのまま信じてはいけないよ。自分の頭で考えて自分の責任において判断しようね」と教えるんです。
どうですか? 真逆ですよね。
またドイツでは、ヒトラー率いるナチスに政権を与えた苦い経験から、メディアや権力のある人たちの話をうのみにしてはいけないという教育が小学校低学年から取り入れられているんです。
例えばある情報について、それは事実が述べられているのか意見が述べられているのかを質問したり、フェイクニュースやSNS上のデマを見抜く方法を教えたりしています。また、写真や動画を加工する方法なんかも教えているんですね。「ほら、こんなに簡単にウソが作れるんだよ」って、学校の授業で教えているんですよ。
そして何より、政治や社会の問題をタブー視しないことを教えます。
一方、日本では学校や家庭で、トラブル回避型の教育がされています。とりあえず危ない話には近づけさせない、政治や社会の問題など意見の対立を生じるような話題は避けた方が無難だ、と子どもたちに教えます。
しかしユダヤ人やドイツでは、その話はどこが危ないのか、なぜその話を人は信じやすいのか、そしてどうすればそれらの情報の危険性や嘘を見抜くことができるようになるのかを徹底的に教えるんです。
こうしてクリティカル・シンキングを身に付けさせるんですね。

(書籍『わが子に教える AI時代に必要な7つの能力』を基に再構成)
[日経クロステック 2026年5月18日付の記事を転載]
友村晋(著)/日経BP/1980円(税込み)
