「ユニクロ」などを運営するファーストリテイリングを創業し、世界的なアパレル製造小売業に育てた柳井正氏。柳井氏が社内で経営者を育てるために書いたのが『 経営者になるためのノート 』(PHP研究所)です。この名著を、コーン・フェリー・ジャパン前会長の高野研一さんが読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔リーダーシップ編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。
経営者に必要な4つの力
本書は、現役のカリスマ経営者である柳井正氏が、ファーストリテイリングの経営者育成のために書き記した「ノート」です。柳井氏は、ファーストリテイリングが「革新的なグローバル企業で、世界一のアパレル製造小売業グループ」になるためには、少なくとも200名の経営者をつくる必要があると考えています。このため、本書の中には柳井氏の自伝や随想ではなく、経営者になるための原理原則が書きつづられています。
柳井氏は、経営者に必要な能力として、「変革する力」「儲(もう)ける力」「チームを作る力」「理想を追求する力」の4つを挙げています。そして、この4つの力のそれぞれに、ひとつの章を割り当て、その内容について自説を展開しています。特にユニークなのは、各章の最後に出てくる「セルフワーク」です。そこでは、半年に1回、自分の仕事ぶりを振り返り、自分にできていること、できていないことを自問自答することが求められています。そして、それを3年分繰り返す欄があるのです。
ここから分かることは、柳井氏が経営とは頭で理解するだけでは不十分で、実行が伴っていなければ意味がないと考えていることです。実際、本書の中で柳井氏は「経営は実行である」と、何度も繰り返しています。ゴルフの練習をイメージすれば分かるように、正しいスイングを頭で理解するだけではボールはまっすぐ飛んでくれません。実際にコースに出て、繰り返しボールを打ち、その軌跡を自分の目と体で確認することが必要になります。経営もそれと同じだということです。
しかし、だからといって、原理原則の学習が不要かというと、そうでもありません。それを知らずにいくら実行してみても、間違った努力を積み重ねてしまうことになります。経営の世界では、この「間違った努力を積み重ねる」という現象がよく見られます。それによって、多くの人の努力と資源が無駄にされてしまうことが少なくありません。
そこで、柳井氏はノートの形で経営の原理原則をまとめ、それを半年ごとに繰り返し読み、気づいたことを脇にメモ書きし、自分の進歩の過程を振り返ることができるツールとして本書を編集しています。体育会系の柳井氏の思想がよく表れた書といえるでしょう。
なぜ東洋思想に関心を持つのか
ところで、柳井氏をはじめ、本田宗一郎氏や松下幸之助氏といったカリスマ経営者たちは、近代科学を活用して事業を成長させてきたにもかかわらず、なぜか東洋思想のような、近代科学では説明しきれない領域に関心を寄せてきました。
近代科学は、真理はわれわれの外に客観的事実として存在し、人間は努力することでそれを知ることができるというスタンスを取ります。多くの経営書はこうした立場に立って、経営の理論を教えようとします。
これに対して東洋思想は、何が真理なのかはわれわれ個々人のモノの見方によって変わるという考え方を取ります。われわれのモノの認識の仕方は、過去の経験によって知らず知らずのうちに規定されています。いわば、誰もが気づかないうちに色眼鏡をかけさせられている状態にあります。しかも、この色眼鏡がゆがんでいることが結構あります。
しかし、われわれにとっては、この色眼鏡を通じて認識される世界こそが真実なのです。このため、自分では理論を理解し、正しいスイングをしているつもりでも、ボールが曲がってしまうということが起こるのです。
これを乗り越えるためには、達人の教えに従ってまず実行してみて、ボールが曲がったのを見て、自分の色眼鏡がゆがんでいることを実感するしかないのです。これが、多くのカリスマ経営者が実行や実践を重視する理由です。
成果は、社会的使命の実現に寄与すべき
柳井氏は、経営者とは「成果をあげる人」だと言い切ります。つまり、顧客、社会、株主、社員に対して、「これをやります」と宣言して、それを実現するのが経営者の役目だということです。
また、経営者になるための4つの力のひとつに「理想を追求する力」を挙げているとおり、経営者があげるべき成果は、社会的使命の実現に寄与するものでなければならないと考えています。それが、会社が永く社会から必要とされるための条件だといいます。
これを柳井氏自身に置き換えてみると、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というファーストリテイリングの使命を実現することが、自分の役割であるということになります。
柳井氏は、本田宗一郎氏と松下幸之助氏を例として挙げ、2人がなぜ、いつまでも経営者として、多くの人から尊敬され続けるのか。それはやはり彼らが使命感を持ち、その使命の実現に近づく道程として、そのときそのときの目指すべき姿、やるべきことを宣言し、それを実現させてきたからだと語っています。
つまり、社会にインパクトをもたらしたカリスマ経営者に近づくことを、自らに義務づけているということを意味します。いえ、それに留まらず、そうした経営者をファーストリテイリングの中に200名つくろうとしているのです。その構想の大きさが分かります。
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