「あの場所は転ぶ人が多い。どうすればいい?」。そう聞かれてすぐに答えが出せるだろうか。滑るのか、躓くのか、よろけるのか――頭にはっきりと絵が浮かぶほどの表現がされると、その対策として的確な答えを導きやすい。「なぜ?」を繰り返すときも、表現を付け足すだけで、考える方向が決まってくることを意識したい。『表現でロジックは変わる 「なぜなぜ分析」で磨く論理的言葉力』から抜粋・再構成してお届けする。

表現を付け足すだけで、考える方向が決まる

 「なぜ?」の問いに、的確な表現を付け足すだけで、考える方向がすんなり決まることがある。事例をもとに考えていこう。

事例3
 志郎さんは、ケーキ屋さんを経営している。朝早く店に納入されたケーキを、志郎さんが注文書を見ながらチェックしていたときだった。納入されたイチゴケーキのなかに、イチゴがのっていないものを見つけたのだ。

 即座に、志郎さんはケーキを製造した工場に直接電話する。電話口に出たケーキ工場の五郎さんに、志郎さんは尋ねた。
 「イチゴケーキにイチゴがのっていなかったんだけど、なんでかな?」

 五郎さんは受話器を持ったまま、志郎さんの質問に、どう答えればよいか悩んだ。
 ・イチゴが、ポロッとケーキから落ちたのか?
 ・作業者が、誤ってケーキにイチゴをのせなかったのか?
 ・誰かが、のっているイチゴをつまんで、食べてしまったのか?

 五郎さんがあれこれ考えてしまうのも無理もない。いきなり「イチゴケーキにイチゴがのっていなかった」と言われても、イメージがはっきりしないからだ。イメージがはっきりしないから、五郎さんには答えようがない。

 志郎さんの問いに的確に答えるには、何個のうち何個にイチゴがのっていなかったのか、相手にイメージがしっかり伝わる問いでなければならない。店に納入したイチゴケーキが10個だったとすると、果たして「イチゴがのっていなかった」は、次のうちのどれなのか。

 ・「10個すべての」イチゴケーキのことをいっているのか
 ・「10個のうちいくつか」あるいは「10個のうち1個だけ」といっているのか

 「10個すべて」だとしたら、以下のようになる。

すべての場合
 問い:なぜ「10個すべてのイチゴケーキにイチゴがのっていなかった」のか?
 答え:それは、「イチゴケーキ製造時に、作業者が10個すべてのイチゴケーキにイチゴをのせなかった」から。

 一方、「10個すべて」ではなく、「10個のうち1個だけ」のっていなかった場合には、次のようになる。前提として、その1個にはイチゴをのせた形跡が全くなかったとしよう。

1個の場合
 問い:なぜ「10個のうち1個だけ、イチゴケーキにイチゴがのっていなかった」のか?
 答え:それは、「イチゴケーキ製造時に、作業者が10個のうち1個だけイチゴケーキにイチゴをのせなかった」から。

 一見すると、どちらも「イチゴをのせなかった」ということから、同じような答えになっているように見える。だが、すべてにイチゴがのっていない場合と、1個だけのっていない場合では、それぞれに続く「なぜ?」の答えが変わる。

 ここからは、「問い」を「事象」、「答え」を「なぜ1」とし、それぞれの「なぜ1」に対する「答え」を「なぜ2」として話を進めていく。

すべての場合
 なぜ「(なぜ1)イチゴケーキ製造時に、作業者は10個すべてのイチゴケーキにイチゴをのせなかった」のか?
 それは、「(なぜ2)作業者が、イチゴをのせる前の10個並んだケーキを見たときに、別のケーキと勘違いした」から。

1個だけの場合
 なぜ「(なぜ1)イチゴケーキ製造時に、作業者は10個のイチゴケーキのうち1個だけイチゴをのせなかった」のか?
 それは、「(なぜ2)作業者が、10個のうちの最後の1個のイチゴケーキを作り終える前に作業を中断して、戻ってきたときに、最後の1個のケーキにイチゴをのせるのを忘れた」から。

 「すべて」失敗した場合は、作業者の勘違いなどが失敗につながったと考えられる。一方、「1個だけ」失敗した場合は、作業の中断後のうっかり忘れなどが失敗につながったと考えられる。「何個中何個」といった表現を付け足すには、現物をしっかり捉えることが大事だ。

表現を付け足すときには、形容詞に注意する

 次の事例で考えてみよう。

事例4
 街を散歩していた一郎さんは、たまたま見つけたカフェに入った。メニューを見た瞬間、コーヒー1杯の値段が高いとは思ったが、ひとまず席に座り、コーヒーを注文した。頼んだコーヒーが出てくるまでの間、なぜ値段が高いのか考えた。

 「なぜ、コーヒーの値段が高いのか?」

 果たして、この問いで的確な答えを導けるのだろうか。

 ここで注意しなければならないのは、「高い」という形容詞だ。形容詞は、何かと何かを比較するときに使う言葉である。このケースでは、「高い」といっても、どこのカフェと比べてどのくらい高いのかがはっきりしない。したがって、このままでは的確な答えを導くのは難しい。

 そこで、表現を付け足して、改めて考える。
 問い:なぜ「(メニューに記載されている)コーヒーの値段がK店と比べて100円高い」のか?
 答え:それは、「この店のコーヒーのほうが、K店と比べて単価が1.5倍高いコーヒー豆(原料)を使っている」から。

その状況の絵が頭に浮かぶよう、表現を付け足す

 さらに、事例をもうひとつ。

事例5
 五郎さんが通路で転んだという想定で、複数人で「なぜなぜ」をやることになった。最初に、リーダーが口火を切る。
 「なぜ、五郎さんは通路で転んだのか?」

 リーダーの問いに、ほかのメンバーから様々な答えが出てきた。
 「滑ったんじゃないの」
 「躓いたんだよ」
 「いやいや、よろけたのさ」

 このように、様々な答えが出てきてしまうのには、理由がある。「転んだ」という表現だけでは、どのように転んだのかイメージしづらいからだ。

 さて、ここで質問。
 「五郎さんは通路で転んだ」に、どのような表現を付け足せば、迷わずにすんなり答えを出すことができるだろうか。

 答えに迷わないようにするには、その状況の絵が頭に浮かぶよう、表現を付け足すとよいのだが、「五郎さんは通路で転んだ」には、転んだ方向を示す表現がないから、絵を描きにくい。

 そこで、「あおむけに」や「前向きに」といった表現を付け足してみる。さらに、動きの速さを示す「勢いよく」や「ゆっくり」といった副詞を付け足すと、次のようになる。

 問い:なぜ「五郎さんは通路で、勢いよくあおむけに転んだ」のか?
 答え:それは、「五郎さんは通路で思いっきり滑った」から。

 的確な答えを導き出すには、頭の中にはっきりと絵が浮かぶほどの的確な表現が求められるのである。

「転んだ」という一言だけでは、どんな状況なのかわからない(写真:yamasan/stock.adobe.com)
「転んだ」という一言だけでは、どんな状況なのかわからない(写真:yamasan/stock.adobe.com)
物事の本質をつかみ、論理的に説明できるようになるトレーニング手法を実践的に解説。

大量に情報が発信されるいま、それらに惑わされず論理的に問題の本質をつかみ言語化する力を身につけることが欠かせない。失敗の原因追究の際に使われる「なぜなぜ分析」の「なぜ?」を繰り返していくやり方で論理的言葉力を磨くトレーニング手法を実践的に解説する。

小倉仁志著/日本経済新聞出版/2200円(税込み)