目的達成のために最適な空間デザインをどう考えるか――。書籍『 結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣 』では、「集客」や「長期利用」といった目的を果たすために、空間デザインに「マーケティング」の手法を取り入れて結果を出した実例を中心に紹介しています。本特集では書籍から抜粋し、筆者が手掛けたドローンスクール運営会社・ハミングバードにおける店舗の空間デザインの事例を示します。第4回ではスクールの内外にスクールとは別の用途の空間を設けて集客する仕掛けを解説します。
Product(空間)として異例の「ラウンジ」はAIDMA理論の成果
スクールのような業態のProductには、体験や講習、教材という「商品」に加えて、建築設計者が考えて実現する「空間」も該当します。
ここでは、前述した空間としてのProductについて、もう少し深掘りします。空間を検討する際に、まずは、どのような流れで商品購入(ここでは会員登録)に至るかを考えます。従来の郊外型のドローンスクールは、プロモーションで認知を広げ、実際に体験授業などを受けてもらい、「いいな」と思えた顧客が会員になる、といったシンプルな導線でした。
もちろん、ドローンスクールお台場にも同じような導線はあります。しかし、商業施設型のスクールであれば、もう少し別の導線も狙えるでしょう。ここで使えるのが、これもマーケティングの一手法であるAIDMA理論です。
「AIDMA」とは、Attention(認知)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動、ここでは購入=会員になる)の頭文字を取ったものです。消費者が認知から行動に至るまでの心理状態をフローとして整理した考え方です。
ドローンスクールの存在を知る「認知」に始まり、情報を収集して知識を得ることで「興味」を持ち、さらに入会したいという「欲求」が高まる。こうして欲求の対象となったドローンスクールお台場を「記憶」させて入会を検討してもらい、最後に入会という「行動」に踏み切ってもらうという流れです。ペルソナである鈴木さんが「どのように知り、入会するか」というフローを考えることになります。
ドローンスクールお台場であれば、ウェブサイトの広告など従来のアプローチとは別に、商業施設への来訪者に認知してもらうことが可能です。むしろ、こちらの方が主と言えるでしょう。そこで、買い物客の認知を考え抜きました。
私もショッピングモールに時々行きますが、気が付くと歩き疲れています。そんなときの欲求に応えるのが座って休める「ラウンジ」です。買い物客が欲しいのは商品だけではありません。休みたいという欲求にいすを置いて応えつつ、座った顧客の視線の先にドローンスクールがあれば、確実にAttention(認知)につながります。
そこでドローンスクールお台場では店舗前に「ラウンジ」を設けました。ドローンを実際に飛ばすコート空間は通常、壁や窓ガラス、ネットに囲まれています。そのため、ドローンスクールを商業施設内につくると、その内側の多くは商業施設のコンコースから見えなくなります。このままでは見せる効果による認知が進みません。
そこで、ドローンスクールお台場では、コンコースに対して開いた空間を配置することにしたのです。周囲の物販店舗のように興味を持てば施設内をのぞけるようにしました。
近年は増えてきたとはいえ、商業施設内で座れるスペースは、広場などのベンチやレストラン、カフェが一般的で、共有部分にはあまり多く配置されていません。アパレルなどの物販店で靴を扱う店舗内のいすに、買い物客よりも疲れ果てた人が座っている光景を皆さんも見たことがあるでしょう。満員電車における座席くらい貴重な空間です。こうした座れる空間を置けば、多くの人が利用してくれます。そして、その目の前にドローンスクールがあれば、休憩中の人の視界に必ず入ります。
「複合型施設」内の「複合型施設」でInterest(興味)を最大化
次に考えるべきは、Interest(興味)への誘導です。ショッピングモールなので、当然物販の店舗が軒を連ねます。買い物客の最大の関心事は「買い物」ですから、買い物できる空間を持っておくことが顧客の関心に沿うのは言うまでもありません。
この観点から「ラウンジ」に加えて、買い物ができる「ショップ」も設けました。安価なトイドローンなど、資格がなくても操縦できる商品を置き、気軽に買い物を楽しんでもらえる店舗です。スクールだとなかなか入りにくいかもしれませんが、ショップであれば誰でも気軽に入れます。
ここまでくると、空間としてのProductのコンセプトが固まってきます。「ラウンジ」と「ショップ」「スクール」を併設する複合的な機能を持つ店舗形態です。
「スクール以外の空間を持てば無駄な賃料がかかり、収益を圧迫するのではないか」と思った方もいるでしょう。しかし、そうではありません。実際の教習に用いるコートは平面が5メートル×5メートルといった整形の空間となります。一方、テナントの区画は既に施設のレイアウト上で決まっています。コートを効率的にレイアウトしたとしても、通常は少なからず余る空間が出来てしまいます。ラウンジなどにはこの空間を利用したのです。余白を有効活用するという合理的なアプローチで実現しました。
余白スペース=収益化の味方
そもそもショッピングセンターという施設は、物販、飲食、スクール、医療、エンタメなど多数の複合的な商業用途をまとめた施設です。立地特性を考えてみても、複合的な用途を持つドローンスクールは、施設のコンセプトにピッタリ合っています。
(書籍『結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣』を基に再構成)
[日経クロステック 2026年5月21日付の記事を転載・改題]
萩原浩(著)/日経BP/2640円(税込み)





