社員に課題図書を設定する企業や、本の購入費用を負担する企業が多くあります。そこで日経BPは、企業向けの電子書籍サービス 「日経BP Insight Books」 を開始しました。このサービスでは、日経BPに在籍するさまざまな分野のプロフェッショナルたちがおすすめの10冊を選んでおり、この連載で紹介していきましょう。第2弾は、日経BPの独自調査レポート『DXサーベイ』シリーズの著者で、日経クロステック元発行人・戸川尚樹のおススメの本です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいるものの、なかなか成果が上がらない――。こうした悩みを抱える企業は少なくないでしょう。それどころか、DXの目玉施策として、中核業務を支える基幹系システムを再構築したものの、システムトラブルで業務停止という事態に見舞われるケースもあります。皆さんの会社は大丈夫でしょうか。
DXは、デジタル技術やデータを手段とする変革のことです。DXで成果を上げるには、その有力手段である生成AIやデータを使いこなす能力を組織全体で高める必要があります。ただし、ITやデータの活用力を高めるだけでは不十分です。変革を推進するには、強力なリーダーシップや組織風土づくりが求められます。さらに、企業経営を支える基幹系システムを円滑に開発・運用する能力が不十分な状態では、生成AIやデータを使いこなすことなどできません。
そこで今回は、(1)AI/データ経営の本質と進め方、(2)変革リーダーが習得・実践すべきこと、(3)DXプロジェクトのマネジメント手法という観点で10冊選びました。早速、そのエッセンスを見てみましょう。
AI/データ経営の本質と進め方を学ぶための3冊
1. 『生成AI 真の勝者』島津翔著、日経BP
DXを推進する上で、有効なツールとして生成AIを無視することはできません。生成AIの動向を押さえ、いかに使いこなして、成果を上げるか。これは多くの企業にとって、共通の経営テーマでしょう。
『生成AI 真の勝者』は、日経BPシリコンバレー支局の島津翔記者による米国での徹底取材と独自分析によって、生成AIを巡る生々しい事実が分かる1冊です。生成AIによって勃興した覇権争いを「AIモデル」「AI半導体」「プラットフォーム」「国家間競争」「人類対AI」といった5領域に分け、勢力図と知られざる勝者を描き、未来を予測する読み応えのある作品です。AIモデルについては、OpenAIやGoogle、Microsoft、Meta、新興ベンダーなどが提供するAIサービスの特徴を分析。「オープンなAI」と「クローズドなAI」の競争状況にも注目し、詳細を解説しています。生成AI関連サービスに関する選定眼を養うための1冊として、CIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)、CTO(最高技術責任者)には特におススメです。
「AIモデルには、『スイッチングコスト』が極めて低いという特徴がある」ことを指摘するなど、生成AIモデルの勝者はすぐに入れ替わる可能性があると予測しています。企業は、「特定の生成AIサービスに囲い込まれることを心配するよりも、生成AI活用の検証を急ぐべきである」ことを改めて感じさせます。技術用語の解説や、米MIT・石井裕教授など有識者インタビューを豊富に盛り込むなど、エンジニアだけでなくマネジメント層にも読みやすく、かつためになる配慮もなされており、多くの読者に役立つことでしょう。
2. 『データドリブン経営改革』保科学世著、日本経済新聞出版
コンサルティング会社アクセンチュアのAIセンター長による、データ・AI経営を実践するための指南書。まずは第1章の「データ・AI活用のステージ」により、自社の現在地を把握しましょう。データ・AI活用については、「ステージ0(勘・経験・度胸で業務を遂行する組織)」、「ステージ1(データの集計と可視化をしている組織)」、「ステージ2(統計的な分析結果を活用している組織)」、「ステージ3(AIを活用した組織)」に区分できるとしています。皆さんの会社・組織はどのステージか。「データ・AI活用進展度のチェックリスト」によって、自社の現在地を確認してみてはいかがでしょうか。
現状を把握したら、次は実践です。第2章では「データ・AI活用を阻む壁」と、それら複数の壁を突破するための具体策を示しています。例えば、データ・AI経営を実践するための推進体制に関する整理・分析は参考になります。データ・AI組織の形態については、「IT部門一体型」と「事業部門一体型」、「分析部門新設型」、「分析会社設立型」の4パターンに区分し、それぞれの組織形態の特徴を解説。「自社にはどの組織形態が適切か」を見極めるために役立つでしょう。このように、DXを推進している企業のリーダーや実務担当者がチーム全員で読み、AI・データ活用力を高めるための具体策を練るのに有効な1冊としておススメします。
3. 『AIドリブン経営 人を活かしてDXを加速する』須藤憲司著、日本経済新聞出版
経営者の目線で、生成AIが巻き起こす市場の変化とその対応策について、豊富な図表で平易にまとめています。「4つのAIレベル」や「機械学習」、「LLMの仕組み」といったAIに関する基本的な内容から、「AIの安全性と倫理」や「AIの国際競争」に関する動向、企業におけるAI活用手法、職種別の生成AI活用事例、データセキュリティーの在り方まで多岐にわたる内容であり、短時間で把握したいビジネスパーソンやマネジメント層に推薦したい1冊です。
生成AIへの投資対効果に悩む読者にとっても参考になるでしょう。著者は「AIのような不確実性が高い領域においては、リアルオプション戦略が重要」とし、AI活用の投資対効果について「カスタマーサポートの負荷削減」事例を用いてシミュレーションしています。さらに、米国におけるAI訴訟事案や生成AIのユースケース、新興企業のAI活用戦略など、興味深い内容も盛り込まれています。関心のあるテーマだけを拾い読みするのにも適したAI入門書としてご活用ください。
変革リーダーが習得すべきスキル、実践すべきことが分かる4冊
4. 『DX失敗学』佐伯徹著、日経BP
「DXプロジェクトの大部分は失敗している」という現状を改善するために、失敗学会の理事を務める著者が、DXで失敗する真因をトラブル事例ごとに解説しています。注目すべきは、DX失敗の原因を構成する要素を一覧できる著者考案の「ITプロジェクト版 失敗原因マンダラ図」です。
ITプロジェクト版 失敗原因マンダラ図は、「個人に関わる原因」「プロジェクトに関わる原因」「組織に関わる原因」「未知の原因」の4種類に分けて、ITプロジェクトが失敗した原因を可視化するツールです。同ツールを活用して、「7pay(セブン&アイ・ホールディングス)」や「ドコモ口座(NTTドコモ)」、「LINEバンク(みずほフィナンシャルグループとLINE Bank)」、「ラップ口座(野村証券)」など具体的な失敗事例について、「顧客拡大を狙ってセキュリティーレベルを下げたことで招いた失敗」、「要望を柔軟に取り入れすぎたことで招いた失敗」、「パンデミックなどの経済変化を軽視したことで招いた失敗」、「文化の違いを軽視したことで招いた失敗」、「技術力の過信で招いた失敗」、「委託先への仕様丸投げで招いた失敗」の6つに分類し、失敗の原因と対応策を整理・分析しています。もしも、読者が所属する組織でDXプロジェクトが停滞しているとしたら、立て直しを図るための参考になるはずです。
経営者やDXリーダーに特に読んでほしいのは、第3章「失敗しないDX組織にする方法」です。ヒアリング力、コミュニケーション力、想像力、違和感を持つ感性、リスク想定力……。DX失敗を回避するために、経営者やDXリーダーが備えるべきスキルとしてこれらを挙げています。特に大事なことは「違和感」。DX推進企業が失敗に陥らないための初手について著者は、「読者の会社で取り組んでいるDXの状況について『違和感を持つ』ことができているか確認することから始めてほしい。違和感がない方は、社会人経験が10年以上で会社組織に慣れてしまったのかもしれない」と指摘しています。
5. 『DXを成功させる社長81の心得』永井昭弘著、日経BP
「会社を率いるトップの社長が先頭に立って仕切らなければ、DXの推進と成功はおぼつかない。会社を変革しようというのに、社長が『よきにはからえ』はありえない。社長こそ変革のキーマンなのだ」。こう主張するITコンサル会社社長が、「日経クロステック」の人気連載記事などを基に加筆修正して仕上げた1冊です。
タイトル通り、DXを成功させるためにどうすべきか、社長が心得て、実践すべきことを81項目に分けて解説しています。DXを成功させるためにも押さえておきたい指摘が数多く、経営トップやCIO、CDO、変革リーダーはもちろん、幹部候補生にも一読をおススメします。
いずれの心得も参考になりますが、特に「社長が先頭に立ち全社で取り組むのがDX、IT部門主体で行うのがシステム開発(心得1)」、「大事なのはXである。デジタルは不可欠な手段であるが目的ではない(心得3)」、「IT人材の不足を嘆いてもDXは進まない。獲得に向けた努力も社長の役目(心得29)」、「デジタル投資が成功か失敗かの分岐点は、社長が『何をやりたいか』を明確にわかっているかどうかである(心得57)」、「カネさえ出せば、『DXベンダーは何とかしてくれる』という幻想は捨てる(心得66)」といった指摘が目を引きます。いずれも、耳の痛い経営トップは少なくないでしょう。
6. 『ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技』木村尚敬著、日本経済新聞出版
「変化の激しい時代、リーダーはブライトサイドだけでなく、ダークサイドのスキルも合わせて使いこなすべきである」というのが本書の主張。論理的思考力や財務・会計、営業・マーケティング系のスキルである「ブライトサイド・スキル」に対して、変革を最後までやり遂げるために欠かせないスキルを「ダークサイド・スキル」とし、その必要性とスキルの具体的な中身を解説しています。
「ダークサイド」という表現にネガティブな印象を持つかもしれませんが、本書が挙げている7つのスキルはいずれも理にかなったもの。「上司を操る」「KYな奴を優先する」「堂々と嫌われる」「踏み絵から逃げない」など、優れた変革リーダーが実践している行動内容を分析・整理しており、リーダーや幹部候補生は是非、一読することをおススメします。「煩悩におぼれず、欲におぼれろ」などのメッセージも痛快で、刺激を受ける1冊です。
「日本企業で活躍しているCIO/CDOは、泥臭いヒューマンスキル、つまりダークサイド・スキルを備えているものだなあ」。本書を読んで、私はこんな感想を抱きました。お勉強ができるだけでは、変革をけん引するリーダーとして十分とは言えません。そもそもビジネスパーソンの多くは、変革の必要性を理解してはいても、本音では「変えること」を嫌がるものです。変革リーダーは、生身の人間の本質を理解した上で、説得し組織を動かさなければなりません。人に影響を与えたり、時には意のままに操ることも求められるわけです。さて、御社の変革リーダーは、ダークサイド・スキルを備え、実践していますか? 本書の内容をチームで共有し、リーダーの力量を今までとは違った角度から検証してみてはいかがでしょうか。
7. 『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』佐藤等著、清水祥行編集協力、日経BP
DXで成果を上げるには、組織風土改革が求められます。「挫折と克服の13の物語から、事業マネジメントの核心を学ぶ」ための本書は、デジタルやDXという言葉は出てきませんが、組織づくりの原理原則を記した名著であり、変革リーダーが押さえておくべき内容が充実しています。
「リーダーシップとは人ではなく、ミッションによって組織をリードすることである」や「イノベーションは強みを基盤として行う」、「コミュニケーションはどうやって伝えるべきかではなく、組織の目的など何を伝えるかが大切」など関心のあるテーマから、読み進めることもできます。本書を通じて、DXをけん引するリーダーや、システム部員、事業部門の担当者など異なる役割・立場のメンバーが、様々な企業の変革事例を共有・議論することで、自社の課題と解決策の糸口を見つけることに役立つことでしょう。
DXプロジェクトのマネジメント能力を高める3冊
8. 『確実に成果を出す「業務変革型DX」の進め方』水田哲郎・福永竜太著、日経BP
DXの取り組みを「業務変革型DX」と「事業創造型DX」の2つに大別した上で、本書はタイトルどおり前者の実践手法をまとめています。業務変革型DXのなかでも、「生産」「物流」「調達」「設計」「営業」といった特定業務の生産性や品質の向上を目的としたデジタル変革プロジェクトの進め方を解説しており、多くの企業に参考になることでしょう。
DXを巡っては、「PoC(概念実証)止まり」で終わり、成果が上がらないというケースが少なくありません。「仕組みの構築前に目的や用途を決定」や「DX推進者主体で解説策を検討」、「責任を持つ部署を決める」などPoCで終わらせないポイント7つを押さえ、自社がPoC止まりで終わるリスクがないかどうかをチェックしてみてはいかがでしょうか。
事業部門がDXに消極的――。こうした現実に悩んでいる会社も少なくないはずです。DXプロジェクトについて、事業部門の理解と協力を取り付けるためには、5つのフェーズに分けて進めることが肝要であると指摘。各フェーズでやるべきことや成果物について、フローチャートや図表を用いて解説しています。特に参考になるのは、プロジェクトメンバーが課題解決策について議論する際に利用する「解決策検討シート」です。同シートを用いて、「業務プロセス」「情報・ノウハウ」「制度・ルール」「組織・体制」「職場環境」の5要素について課題解決策のアイデアを表形式で整理すれば、「目的があいまいなDXプロジェクト」を未然に防げそうです。
9. 『DX Ready基幹システム刷新術』小野里樹・鈴木庸介著、日経BP
DXが成果を生まない理由の1つは、基幹系システムにある。DXを推進するためには、基幹系システムが保有しているデータの品質が高く、柔軟にプログラムを変化できる状態(DX Ready)にすることが欠かせない――。こう提唱する著者が、既存の基幹系システムをDX Readyにモダナイズするための方法論を解説しています。DXというと先進技術である生成AIの活用に目を奪われがちですが、企業経営の土台となる基幹系システムの再構築は、いずれの企業も避けて通れない重要なテーマです。
本書の目玉は、「データマネジメント」の重要性を説き、その実践手法を具体的にまとめている点です。さらに長年利用して肥大化した基幹系システムのスリム化については、「(機能の)アクセス数を基に削除対象を洗い出すやり方は、機能削除には至らない」と指摘。データ分析の結果から、基幹系システムのムダを抽出するための「7つの分析観点」など、基幹系システムの柔軟性を高めるための具体策を提示しており、CIOやシステム部門で基幹系システムを担当するチームの仕事に役立つ内容となっています。
10. 『企画立案からシステム開発まで 本当に使えるDXプロジェクトの教科書』下田幸祐・飯田哲也著、日経BP
DXプロジェクトの進め方を網羅しています。書名のとおり、「DXプロジェクトの教科書」としてメンバーが第1章~第5章まで順に読むことで、プロジェクトマネジメントスキルの底上げを期待できる内容です。
まずは、DXプロジェクトと基幹系システム開発の違いを理解することが肝要です。第1章の冒頭で、「基幹系システムの構築が得意な会社がDXで失敗する理由」を指摘し、基幹系システム開発プロジェクトとDXプロジェクトの違いを分析しています。DXプロジェクトの特徴は、「要件・要求が決まっていない」と「AIなど実績のない技術を活用する」、「社内の複数部門が参加し、関係することが多い」の3つです。だからこそ、DXプロジェクトのプロジェクトマネジャーやリーダーは、「ユーザーと一緒に要求・要件を決めていく」姿勢が求められることを強調しています。
第2章以降、構想やPoC、要件定義、設計・テストといった段階別に、それぞれの作業内容と進め方を解説。DXプロジェクトの構想フェーズでやるべきことについては、基幹系システム開発プロジェクトとの違いを比較表で示しており、参考になります。「システム開発手法については、アジャイル型かウオーターフォール型は案件の内容次第で使い分ける」や「AIを活用した新サービス開発プロジェクトでは、システム要件定義の次に業務要件を定義する(基幹系システム開発プロジェクトと逆の流れ)」など、実践的なノウハウが豊富に盛り込まれています。停滞しているDXプロジェクトを立て直したい。そんなチームに、おススメの1冊です。










