東京大学名誉教授で、iPS細胞研究を支える基盤技術の開発を通じてその誕生にも貢献した血液学者・北村俊雄氏の著書『 東大名誉教授が教える 死なない生き方 科学でひもとくアンチエイジングと健康寿命 』(日本経済新聞出版)が刊行されました。エビデンスに基づいた健康長寿のガイドブックであり、サイエンス読み物としても楽しめる一冊です。著者の北村氏に本書をもとに、老化の分岐点となる40代、50代の過ごし方について、自身の経験も交えながらお話しいただきました。
サプリメントの科学
老若男女を問わず、何らかのサプリメントを摂取する人は数多くいます。次々に新商品が登場し、価格も手頃になってきました。その一方で、購入時は注意が必要です。
例えば、さまざまなたんぱく質(プロテイン)を原料にした製品の中には、うたわれている効果が期待できないものも少なくありません。特定のたんぱく質を低分子化して配合しているとされる製品もありますが、たんぱく質は胃や小腸で分解され、最終的にはアミノ酸として吸収されます。その後、膝の関節や皮膚にピンポイントで届くとは限りません。可能性を完全に否定はできませんが、科学的には非常に難しいと言えるでしょう。
ビタミンも一般的な生活を送っていれば、欠乏することはほとんどありません。例外はビタミンDです。ビタミンDは食事由来が少なく、日光に当たらなければ体内で合成されないため、日本人では不足しがちだというデータがあります。この点では、ビタミンDは摂取を検討してもよいでしょう。
グルコサミンやコンドロイチン硫酸についても、効果に関して相反する報告があります。
読者のみなさんの多くは、職場で忙しい日々を送っているのではないでしょうか。私自身も40代までは研究一筋で、研究室で朝を迎えることが何度となくありました。そんな日々を過ごしながら、定年後に時間ができたら、観劇やコンサートに行ったり、小説を書いたりしたいと考えていました。
定年を境にすることがなくなり、生きがいを失う人生は避けたいと感じていたからです。心身の調子を崩し、一気に老け込む可能性もあります。50代半ばに研究仲間に誘われてバンド活動を始めたのも、そうした思いがあったからです。バンドではドラムを担当し、生まれて初めての作詞もしています。現代の超高齢社会では、定年後の人生は20〜30年続くことも珍しくありません。会社の肩書がなくなった後のアイデンティティーは、自分で見つける必要があります。準備を怠れば、定年後に戸惑うことになります。
「歩く」「外に出る」「人と関わる」が悪循環を防ぐ
定年後に新しいことを始めようとしても、すぐにうまくいくわけではありません。だからこそ、現役世代の40代、50代のうちから、少しずつ定年後の過ごし方を考えておくことが重要です。
自分が好きで、人より少しでも得意なことの延長線上に、最適な選択肢があると思います。必ずしも大きな目標である必要はありません。趣味でも、仲間との活動でも構いません。
何かに熱中できることがあると、それを長く楽しみたいという気持ちから、自然と食事や運動にも気を配るようになります。健康そのものを目的にすると長続きしませんが、「楽しむため」という目的があると、結果的に健康がついてきます。

日本では高齢になるにつれ、外出の機会が減り、人との交流が乏しくなる傾向があります。その結果、歩かなくなって筋力が低下し、物忘れが増え、認知機能も衰えやすくなると言われています。
この悪循環を防ぐためには、「歩く」「外に出る」「人と関わる」の3つが不可欠です。私自身も、学会発表で声の通りを良くするためということで、ボイストレーニングを始めました。実はボーカルをテーマにした小説を執筆するための取材が目的だったのですが、実際にやってみると楽しく、世界が広がり、かれこれ2年以上続いています。
少々お金がかかるとしても、さまざまなことに興味を持ち、実際にやってみることが、最も効果的な若返り法だと感じています。
サプリメントは栄養を補う意味で一定の意義がありますが、それだけで心身の健康が保たれるわけではありません。さまざまな活動を通じて得られる幸福感こそが、私たちを内側から支えているのです。この本がみなさんの人生の楽しみ方を考えるきっかけになればうれしいです。
1回目 北村俊雄 人生150年時代を目指すアンチエイジングと健康革命 (6月30日公開)
2回目 政治的に自由な国の国民は若々しい 老化を防止するカラオケの歌い方 (7月2日公開)
3回目 「定年してから」では遅い 老化の分岐点となる40代、50代の過ごし方 (7月8日公開)←今はここ
取材・文/茅島奈緒深 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子
