コロナ禍と在宅勤務の拡大を経て、職場のフリーアドレス化を導入した企業も多くあります。フリーアドレス化によって快適さが増したという人がいる一方で、「集中できない」「かえって居場所がない」などの声もよく聞きます。フリーアドレス化によって恩恵を受けられる人とそうでない人では、何が違うのでしょうか。今回は、職場に求められる「場」としての役割を考えます。

SpaceとPlace、流動的場所としての「職場」の役割

 フリーアドレス・オフィスを導入する企業が増えている。COVID-19の拡大以前から注目されてきたオフィスであるが、在宅勤務の増加によって、さらに導入されるようになった。日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボが、2020年から定期的に実施している「ワークスタイルに関する動向・意識調査」によれば、フリーアドレスを利用できる人の割合が、2024年に過去最高の50.6%に達した。
 最新フリーアドレス・オフィスは魅力的に映る。しかし、目の前にある空間だけを見ても、その「使われ方」は分からない。実際のオフィスの姿とは、いかに人が集まり、どのように協業が生まれるか、である。

 フリーアドレス・オフィスには、そもそも全社員に席を用意するのは非効率なので、コスト削減という消極的目的がある。一方、職場内の横断的なコミュニケーションを活性化させて偶発的共創を生み出そうとする積極的な目的もある。
 前者の目的は椅子の数を減らすだけであり、オフィスが窮屈になるリスクもあるが、容易に実現できる。しかし、後者の目的は、そもそも達成できるかどうかも分からない。
 フリーアドレスで働く場所を自由に選べるということは、一緒に働く同僚もまた自由に選んでいるということだ。お互いに自由なオフィスで、分散型ワークによって完全にバラバラに拡散しても職場の生産性は上がらない。分散しつつ、ときどき良いタイミングで共創的に集まることが求められている。

 かつてオフィスは、均質な空間が理想とされていた。作業員を効率よく管理する「テイラー主義オフィス(Taylorist Office)」は20世紀初頭にアメリカ中心に広がった。科学的管理法で知られるフレデリック・W・テイラー(Frederick Winslow Taylor)の理論に基づいて設計されたオフィスである。
 しかし、この作業効率だけが重視される場所では、我々は創造的にはならないことにも留意すべきである。特に知識労働者(Knowledge Worker)にとっては、部署・職能横断的なコミュニケーションが自由な発想(集団的創造性)を生むというクリエイティブ・オフィス(Creative Office)が目指されている。

人は職場でどのように過ごしているのか? 「働く日常」の観察から

 職場での集まりが共創的であるかどうかを分析するには、オフィスの中の移動歴や発信歴を把握しなければならない。意識された行動ならば、それらの行動の意図についてインタビューをして、その意図と行動をひもづけて一つひとつ質問していけばよい。
 しかし、もちろん定期的な会議のような計画された移動もあるが、我が身を振り返っても、なんとなく無意識で移動しているのが実態ではないか。日常的な行動は、その意図を聞かれても答えられないのだ。

 我々が採用した調査方法は、フリーアドレス・オフィスを対象にして「日常」の徹底的な観察を行うことである。丸1日カメラで職場を撮影し、管理職2名の会話を録音させてもらった(トイレや機密情報の会議は除く)。
 もちろん、観察の許可を得ているが、何台ものカメラが設置され、撮影スタッフたち(我々のことだが)がウロウロするのは迷惑だったと思う。しかし、このたいへん迷惑な調査によって無意識の行動歴が把握できたのだ。

オフィスの2つの役割 空間(Space)と場所(Place)

 観察させていただいたオフィスは経営陣の積極的な意図によって設計されており、組織開発の一環としてさまざまな工夫が埋め込まれていた。いくつかに分かれたフロアは、別々の雰囲気になるように設計されている。ここは会議スペース、ここは個人作業のスペース、ここはリラックス・スペースというように仕切られているのだ。

 ところが、我々の観察によれば、その利用に関しては意外な結果もあった。実際のフリーアドレスの使用は、全面的なフリーではなく、利用に関して緩やかな合意、つまり実質上の固定席(私有地化やチームによる占拠)が存在した。
 私有地化は、本来は誰にも自由な空間にペットボトルや筆記用具が残されることで、「ここは私の席だぞ」という無言のアピールが行われることを意味する。また、何となくこの空間はこの部署の人が使うというチームによる占拠という暗黙の合意があったのだ。

 これらの発見は、フリーアドレス・オフィスの設計の意図通りのものではないのだろう。
 意図せざる結果を知るために、オフィスの使われ方を整理してみよう。そのために、ここで空間(Space)と場所(Place)という1つの対なる概念を導入したい。
 第一に、「空間」は物理的な3次元空間(縦・横・高さ)を考えればよい。
 第二に、「場所」は、人間によって意味づけられ、相互行為が生まれる交流の場でもある。地理学者のエドワード・レルフ(Edward Relph)によれば、人類は、物理的な「空間」に自らの直接経験による意味づけを行って「場所化」している。※1
 つまり、私の場所、チームの場所という意味づけは、人間が空間を使えば、当然生まれる現象なのだが、あまりにも固定してしまうと、わざわざフリーアドレスにしなくてもよいことになってしまう。

 テイラー主義オフィスは、すべてを効率のための均質な空間にしてしまおうという取り組みであり、当然、席も効率的作業のために固定される。これを固定的没場所化(=空間化)と呼ぼう。
 ところが、同じ作業を繰り返すならば、確かに効率的かもしれないが、そこには働く人たちをワクワクさせるような意味づけがない。

 現代のオフィス設計者が目指すクリエイティブ・オフィスとは何か。それは、場所に対する愛着や職場アイデンティティという意味づけが生まれ、部署や職能を越えたコミュニケーションへの参加が促され、自由な発想を言い合える新しい集まりが次々と偶発的に生まれる「場所」なのだ。

※1 エドワード・レルフ(1999)『場所の現象学―没場所性を越えて』(ちくま学芸文庫)

フリーアドレスによるクリエイティブな集団の創造

 単に固定席をなくし流動化すれば、クリエイティブな集団が生まれるというのはあまりにも楽観的である。
 図1を見てほしい。縦軸を固定的と流動的、横軸を場所と空間に分けた。COVID-19以降のオフィス改革とその反動をこの図に位置づけると、固定席をなくすことで「流動的脱場所化(空間化)」へと移行したが、その反動の結果として「固定的再場所化」に一部が戻ってしまったと解釈できる。本当に目指すべきゴールは、右下の「流動的再場所化」である。

 「流動的再場所化」とは、没場所化に抗って流動性の中に意味を見つけ出す技法である。従業員が狭い集団に縛られず、かといってバラバラなままでもなく、適切なタイミングで次々と新しい場所が生まれるようなオフィスの理想の使い方だ。

図1 固定的/流動的-空間と場所のオフィス分類
出所)松永・梅崎・藤本・池田・西村・秋谷(2020)を基に作成<br>図制作=キャップス
出所)松永・梅崎・藤本・池田・西村・秋谷(2020)を基に作成
図制作=キャップス
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 その実現のためには、管理職の役割が重要であると私は考えている。調査で出会った管理職たちの実践を紹介しよう。
 観察したフリーアドレス・オフィスにおいて、ある優れた管理職は、終業時間の直前になると、部下から見えやすいオフィスの中心に移動していた。我々は、その移動する場所を「オフィスの舞台」と名づけた(会社では、そんな名前では呼ばれないが)。

 なぜそんなことをするのか。
 それは、部下に自分を発見してもらうためである。部下たちにとって、終業1時間前は今日の進捗報告をしたり、明日に向けて指示を受けたりしたい時間なのである。管理職は、部下たちの「視認可能性」の範囲を体で感じて移動していたのだ。
 もちろん、部下たちも移動している。視認可能性の範囲も刻々と変化する。それゆえ、目の前のPCで作業をしながら、オフィス空間の人の動きを感じつつ、見る/見させるための移動を繰り返していた。

 私は、職場の映像を繰り返し見ながら、まるでバスケットボールやフットボールの試合、特に流れるようなパス回しのようだと思った。
 もちろん、本人にインタビューしても、そんな行動を強く意識していたわけではなかった。感覚的につかんでいたという答えが正解であろう。それこそが、身体知という半無意識の認識なのである。
 オフィスの身体知とは、オフィス空間の使い込みによる無意識の技(アート)である。このような身体知が、オフィス内の「流動的再場所化」を生み出し、新しい共創にたどり着かせてくれるのだ。

参考文献
松永伸太朗・梅崎修・藤本真・池田心豪・西村純・秋谷直矩(2020)「ノンテリトリアル・オフィスの空間設計と身体作法 流動的再場所化による創造的チームワークの達成」『日本労働研究雑誌』第720号, pp.74-89.

◇きょうの一言◇
できる管理職は「オフィス内のポジション取り」が戦略的。

(イラスト:PureSolution/stock.adobe.com)
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