コロナ禍を経て対面での会話が減り、メールやチャット、オンライン会議など、さまざまなツールを使うようになりました。個人の自由度は増しましたが、一方で、コミュニケーションの質や、そこから得られる創造性が低下していると、経済学者の梅崎氏は指摘します。ツールを上手に使ったコミュニケーションの鍵となる、それぞれ2種類ずつある「話し言葉」「書き言葉」の使い分けとは。コミュニケーションの4分類と、その力の鍛え方を紹介します。

「言語化」がテーマのビジネス書が増加中? 注目されるわけ

 書店のビジネス書コーナーを眺めると、言語化についての著作が増えていると感じる。
 その理由はすぐに思いつく。オンライン化が進んだことによって職場において言語化することの必要性や難易度が急激に上昇した結果なのだ。すなわち、上手に言語化をしなければ、同僚にも、部下にも、上司にも伝わらないという悩みを抱えるビジネスパーソンが増えたのである。みなさん、言語化の秘訣を探りたいのだ。

 オンライン化によってコミュニケーションの形式が大きく変容した。コミュニケーションの種類としてよく知られているのが、言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションの2分類である。役に立つ2分類であるが、もう少し解像度を上げるためにより細かい分類を探したい。
 図1に示したのは、大坊郁夫氏による対人コミュニケーション・チャネルの分類図である。※1

図1 対人コミュニケーション・チャネル
資料出所)大坊(1998)を基に作成。<br>図制作=キャップス
資料出所)大坊(1998)を基に作成。
図制作=キャップス
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 言語的コミュニケーションと呼ばれるものは、音声的かつ言語的コミュニケーションであり、言語によって発話の内容や意味を伝えようとする。一方、非言語的コミュニケーションには、近言語と呼ばれる、声の抑揚や発話のタイミングなどの「話し方」によって伝わることもある。また、しぐさや身に付けているものという非音声的コミュニケーション・チャネルによって伝わる情報もある。
 要するに、図1の分類では、2)以下がすべて非言語的コミュニケーションなのだ。

 この図を使ってオンライン化を説明すれば、オンライン化は、従業員の自由度(選択可能性)を拡大する代わりに、非言語的コミュニケーション・チャネルを強制的に閉ざしてしまう動きだと言える。
 オンラインの自由度だけに着目し、チャネルの閉塞について見えていない人も多いのではないか。

※1 大坊郁夫(1998)『しぐさのコミュニケーション 人は親しみをどう伝えあうか』(サイエンス社)

「選択の自由の拡大」と「一体感の欠如」はトレードオフ?

 オンライン化による在宅勤務の増加は、コロナ禍の間に急拡大していたが、落ち着いてくると、ようやく不具合に気づいてきて、もとの職場に戻そうという動きも起こる。
 代表的な事例としては、2022年にイーロン・マスク氏がテスラのテレワークの全面撤廃を宣言し、アップルやグーグルなどの企業もテレワークの撤廃や縮小を決定した。
 この理由は先ほど説明した通りである。拘束性が低くなる(個人から見れば、選択可能性が高まる)ことが組織内コミュニケーション不足を生み出し、集団の一体感を失うことで集団としての創造性がなくなってしまうという危機感が、もとの拘束性へと戻ろうとする反動をもたらしているのだ。

 表1は、近年の一連の動きを図示したものである。拘束性(高)×集団創造性(高)というある意味で負荷の高い旧来型の日本的経営を変える必要性が生まれ、拘束性を低くしたら集団創造性も低くなったので(①)、拘束性をもとに戻したいという動きも出てきて(②)、日本企業組織は行くことも戻ることもできなくなっている。

表1 個人の自由と集団の創造性
表制作=キャップス
表制作=キャップス
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 そのような反動ではなく、本当に企業組織が目指すべきであるが、最も険しい道は、拘束性は低いままで集団内のコミュニケーションを豊かにして集団創造性を高めることだ(③)。
 だが、どうすれば③の「未来の理想」を実現することができるのだろうか。

求められているのは単なる「言葉の力」ではない

 対人コミュニケーション・チャネルが制限されることによって、反対にその価値が高まっているのが書く力だと思う。
 まず、対面の機会が減っているのだから、書いて伝えるしかない。さらに、メール、グループウエア、SNSなどがコミュニケーションのインフラになれば、その中で「書き言葉」を使いこなす人が求められる。
 次に、この書き言葉は、一斉に多くの人に発信できるという1対多のコミュニケーションを得意としている。対面でも多数の人に発信することはできるが、書き言葉ならば、この「多」はほぼ無制限である。一斉送信のメールで、部下のやる気を高めることができれば、と思う管理職は多いだろう。

 だが、対面ならば伝わっていた、熱い想いも、温かい励ましの気持ちも、書き言葉にしてしまえば、よそよそしく、しらじらしい、建前の言葉になってしまう。
 たとえて言えば、演劇というパフォーマンスを脚本という書き言葉の羅列に変えているようなものなのだ。言葉は、誰が、どのような場面で、どんな表情で、どんな調子で、どんな声で語るかによって容易にその価値を変える。
 言い換えれば、書き言葉に頼るならば、純粋な文章力で勝負しなければならない。

 なお、ここで書き言葉と言っているが、注意が必要である。そもそもチャット機能による書き込みと、何度も書き直して送信したメールや手紙を一緒にしてはならないのだ。
 私はかつてノンフィクション作家の神山典士氏と一緒に、大学生のための書く力育成プログラムに取り組み、エントリーシートの書き方の本を刊行したことがある。※2
 そこで私が提案した4分類は、文字があるか/ないか(書くか/話すか)という違いだけではなく、非同期と同期の違いも加えることであった。書き言葉/話し言葉という2分類を、表2のように4分類のコミュニケーションに改定しようと考えたのだ。

表2 コミュニケーションの「4」分類
表制作=キャップス
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 非同期と同期の違いとは、要するに、発信する前に推敲(すいこう)できるかどうかである。例えばLINEのチャット機能は使うとき、リズミカルにその場その場で「即時反応」することが求められる。今、返信することがこの会話を盛り上げるのだから「話すように書かねばならない」のだ。

 その一方で、我々は「書くように話すこと」もある。例えば、顧客や上司向けのプレゼンテーションである。何度も練習してプレゼンを仕上げていく推敲が話し言葉であっても生まれている。つまり、話す内容を考えた後に、それらを自分で見直して推敲するのである。もしかしたら、一度文章にしているかもしれない。
 一方、気軽な会話やチャットの場ではいちいち時間を止めて推敲していたらコミュニケーションはとてもぎこちなくなる。

 推敲は、発信者が1名で、受信者が多数の場合に必須だ。まず、脚本を書く、そしてその推敲された言葉を使って演じる(もちろん、アドリブが入ることもある)。
 むろん、推敲的コミュニケーションが求められることが増えたと言っても、まだまだ少ない。「大きなプレゼンなんて、私は経験したこともありませんよ」と言う人は多いかもしれない。
 しかし、週1回の対面の部署内会議はどうか。そこの希少な時間、1週間ぶりに会う人たちの前で何の意識も準備をせずに、その場その場の思い付きだけのコミュニケーションだけでよいはずがない。

※2 梅崎修・神山典士(2021)『人事担当者が本音で明かす! 受かるエントリーシート 落ちるエントリーシート』(ポプラ社)

ロッカー室の劇場型コミュニケーション

 私が大好きなスポーツマンガに『GIANT KILLING』(ツジトモ著、綱本将也原案、講談社)がある。かつて私は、このマンガが好きすぎて『GIANT KILLING チームを変えるリーダーの掟』(あさ出版、2013年)という本まで書いてしまった。
 このフットボールのマンガは、監督が主人公であるという点で他のスポーツマンガとは異なり、選手の活躍以上に監督による人材マネジメントが隠された主テーマである。
 私がこのマンガを読みながら毎回待ちに待っているのは、ハーフタイムのロッカー室で監督が選手たちに語りかける言葉だ。これこそが、非同期で文字なしのコミュニケーションであり、監督たちは劇場型コミュニケーションの主役になる。

 例えば、主人公の達海猛監督は、選手の反発心をあえて刺激するタイプである。
 前半の失点によって負け試合の雰囲気になって落ち込んでいる選手たちも、「なんだなんだ俺だけか この試合面白くなると思ってんのは」なんて言われれば、なんだよと負けん気をかき立てられるのだ。
 プライドをやや大げさな言葉で刺激するダルファー監督の劇場もなかなかよい。
 「勝利を手にする者はそれにふさわしい顔つきをしているものだ そして今の君達の顔には自信と情熱が満ちあふれている それこそが私の知る勝者の顔だ」

 これらのセリフは、観客(ここでは選手)を強く意識して、推敲された言語化・プレゼンなのだ。これも一つの言語化の能力なのである。
 我々が目指すべきコミュニケーション力をまとめよう。我々は、4分類のコミュニケーション形式に合わせて、4つの能力をそれぞれ築いていくべきであり、そして、適切なタイミングでそれらの能力を上手にスイッチングできるべきなのだ。

◇きょうの一言◇
それぞれ2種類ある「話し言葉」「書き言葉」を意識的に使い分けるべし。

(イラスト:PureSolution/stock.adobe.com)
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