生成AI(人工知能)を支える半導体、そして昨今、実用化が見えてきた電力消費問題の切り札となる光電融合。「日経クロステック」で半導体を担当する専門記者、久保田龍之介と石橋拓馬が、半導体業界の歴史を学べる2冊と、2人の著書『光電融合 AI×半導体の技術革命』を紹介します。

なぜ半導体は世界で注目されているのか
「日経クロステック」/「日経エレクトロニクス」記者 久保田龍之介(以下、久保田) 前編の記事「『イチから半導体を学べる』 日経クロステック専門記者が選ぶおすすめの4冊」では、半導体の基本や仕組みについて話しました。半導体はスマートフォンなどの電子機器はもちろん、ロボットや軍事用途でも使われています。今後はロボットを使った無人工場も増えていくでしょう。半導体は様々な分野で需要の増加が見込まれることから、単なる製品としてではなく、貴重な「資源」として扱われています。
「日経クロステック」/「日経エレクトロニクス」記者 石橋拓馬(以下、石橋) かつては軍事力やエネルギー、産業基盤などが国力を左右する重要な要素とされてきました。その要素の1つに計算資源が加わっているのが近年の状況です。
計算をするコンピューターの頭脳である半導体は、国家競争の中心的な存在と位置付けられます。「高度な計算能力=国力」という時代になりつつあると言っても過言ではありません。つまり、計算能力を左右する半導体は単なる技術としてだけでなく、国の浮沈に関わるテーマとしての関心が寄せられています。
こうした事情もあり、半導体開発は「技術が優れていれば勝てる」とはいかないのが面白いところです。開発競争においては、国の政策も密接にからんできます。
半導体業界の変遷を学べる珠玉の2冊
久保田 ここで、国の政策が半導体開発競争にどのように関わっているかについて学べる1冊を紹介したいと思います。日本、米国、中国の国家戦略を含めた半導体の技術開発の歴史について解説する『 CHIP WAR The Fight for the World's Most Critical Technology 』(Chris Miller著/Scribner)です。この本は2022年に出版されていて、私の前著『 半導体立国ニッポンの逆襲 2030復活シナリオ 』(日経BP)に関する取材や執筆をする際の勉強に使いました。
翌2023年に翻訳版が『 半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 』(クリス・ミラー著/千葉敏生訳/ダイヤモンド社)として出版されました。
著者のクリス・ミラーは技術畑の人ではなく、米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院国際歴史学の教授です。半導体を技術面からではなく、歴史的な視点で分析しています。
1980年代には日本が半導体チップにおいて世界シェアの半分を占めており、「半導体と言えば日本」といわれていたこともありました。ただ、米国としてはそれが悔しかったと。なぜなら、半導体の基礎は米国がつくっていたからです。
「インテル、入ってる」のCMで有名な米インテルが、初期の半導体を開発・製造していました。しかし、これが日本製の安くて品質のいい半導体に取って代わられるようになった。この時代から米国が、あの手この手を使って日本を打ち負かそうとしてきたという歴史が、米国側の視点で書かれています。
具体的には、米国がオランダASMLや台湾の台湾積体電路製造(TSMC)、韓国のサムスン電子を支援したという話などが書かれています。結果として、AIを中心とした現在の半導体市場では、米国と台湾が大きなシェアを占めています。現在に至るまでの歴史を理解するために良い1冊でしょう。
石橋 ここ10年を見ても業界地図が変わっていますよね。私もこうした業界の動きが分かる1冊を紹介したいと思います。『 半導体覇権 国家に翻弄される巨大企業 』(日本経済新聞社編/日本経済新聞出版)です。日本経済新聞社の記者が企業のトップや世界各国の半導体業界の現場を取材した内容をまとめた本で、臨場感があります。世界の主要企業の変遷と各国の政策を解説しており、半導体業界の「今」が分かる本です。
本書はインテルの変遷から始まります。以前はインテルが圧倒的な首位でしたが、スマホ事業への参入のタイミングを逃したり、投資の失敗があったりして、今では首位から陥落しています。対照的に、AIと相性の良い半導体製品で一気に売り上げを伸ばした米エヌビディアや受託製造に特化したTSMCが成長してきました。半導体業界の地図がどのように変わってきたのかが描かれている本です。米国だけでなく、中国や韓国、台湾、日本の近年の動向についてもカバーしています。
AI時代の重要な課題の1つ「電力消費」
久保田 最後に、私たちが執筆した『 光電融合 AI×半導体の技術革命 』(日経BP)についても紹介できればと思います。「光電融合」は半導体同様に、生成AIの普及を支える技術です。
石橋 光電融合は、エヌビディアやTSMCなど、半導体のトッププレーヤーがこぞって参入し、データセンターや通信、半導体業界など、AIに関わるプレーヤーが開発競争を繰り広げています。日本企業だとNTTが世界で開発を争う1社です。
久保田 なぜ、こんなにも関心が高い技術なのかというと、生成AIの普及において、電力消費が深刻な課題だからです。最近は、スマホでChatGPTのような生成AIサービスを使う人が増えてきていますよね。こうしたサービスで何か質問をして回答を得るとき、裏側ではデータが送受信されています。このデータの送受信には電気や光が使われています。
石橋 生成AIの便利さを知ってしまった人は、昔には戻れません。生成AIを使う人が増えれば、通信量とデータセンターで処理するデータが増えます。結果として消費電力が膨大になるというわけです。現に米国では、生成AIの普及によって電力が不足した結果、電気代の高騰が始まっている地域もあります。そこで、電力消費問題への切り札として、ここ1年で急激に脚光を浴びるようになったのが光電融合なのです。
光電融合は、データセンター内でのデータ伝送の一部を光に置き換える技術です。これまで電気配線が担っていたネットワークを光回路に置き換えることで、消費電力を抑え、非常に速くデータを送れます。ただし、データセンターの中をすべて光に変えるわけではなく、電気と光のいいところをそれぞれ使います。この方法は様々で、各社が開発競争を繰り広げているところです。
主要プレーヤーを地図で表し、技術を図解
石橋 光電融合はここ1~2年で新規プレーヤーの参入が相次ぎ、革新的な新技術も続々と登場している状態だったので、今の状況を1冊にまとめられてよかったです。
久保田 章ごとに2人で書き分けていて、私が1章「業界動向 立ち上がる巨大市場」と3章「プレーヤー分析 半導体大手が覇権争い」を執筆しました。今や半導体業界や生成AIをつくり出しているプレーヤーはこぞって光電融合に投資しているので、そうした業界地図も載せています。この業界地図は本書の見どころだと思うので、ぜひ見ていただきたいです。
石橋 私は2章「図解 データセンターからチップまで」と4章「キーデバイス 輝く日の丸技術」を担当しています。素材やデバイスが好きなので、技術的な面についての解説を書きました。CPO(電気信号と光信号を相互に変換する光エンジン)など、技術的に分かりづらい部分は図解で説明しています。
当初は、投資家やアナリストの方に注目していただける内容を想定して構成しましたが、技術の図解や光電融合において主要な要素となるデバイスや材料まで網羅したので、技術者の方にも満足してもらえる内容になっていると思います。
また、どこからでも読めるのも構成で工夫したポイントです。項目ごとに完結しているので、気になる箇所をかいつまんで読んでも、知りたい情報が得られると思います。冒頭の用語集と合わせて、辞書のような使い方もできるでしょう。ぜひ手元に置いて、光電融合の理解に役立ててもらえるとうれしいです。
取材・文/三浦香代子 構成・写真/馬本寛子(日経BOOKプラス編集)
久保田龍之介、石橋拓馬著/日経BP/3300円(税込み)





