生成AI(人工知能)の普及を起爆剤に、半導体への関心はより一層高まっています。AI時代を支える重要な技術「半導体」を解説する本が増えるなか、どのような本を読めば今からでも学べるのでしょうか。「日経クロステック」で半導体を担当し、書籍『光電融合 AI×半導体の技術革命』を執筆した2人の半導体専門記者、久保田龍之介と石橋拓馬が、勉強に使い、面白かったお薦めの書籍を語り合いました。対談1回目です。

2人の半導体専門記者が選ぶ半導体を学んだ本
「日経クロステック」/「日経エレクトロニクス」記者 石橋拓馬(以下、石橋) 今回、私たちは共著で『 光電融合 AI×半導体の技術革命 』という本を出版しました。最近、半導体に関するニュースがどんどん出てくるようになりましたが、久保田さんは以前から半導体についての取材を重ねてきましたよね。
「日経クロステック」/「日経エレクトロニクス」記者 久保田龍之介(以下、久保田) そうですね。私は2022年ごろから半導体の取材を始め、『 半導体立国ニッポンの逆襲 2030復活シナリオ 』という本を書きました。この本では日本の半導体業界を背負って立つラピダスを中心に取材しています。
1980年代までの日本は「半導体立国」といわれるほど半導体に強く、半導体チップでは世界シェアの半分ほどを占めていました。しかし、だんだんとシェアが落ち、今や台湾や米国に主役の座を明け渡すことに。ラピダスは日本政府の巨額支援を受け、最先端半導体の量産を目指して設立されました。この本ではそうした経緯について書いています。
「日経クロステック」/「日経エレクトロニクス」記者
石橋 私が半導体の取材を始めたのは、久保田さんよりも後の2024年からです。学生時代は化学を専攻していて、前職は自動車部品メーカーで研究開発をしていました。研究開発は「千三つ」の世界で、1000の研究テーマがあるとしたら、大きな事業に結びつくのは3つほどです。
成功の陰には数え切れない失敗の積み重ねがあり、日の目を見ない研究者や技術者がたくさんいます。私もその一人でしたが、日本の科学技術の発展に間接的でもよいので貢献したい、世の中にある良い技術を多くの人に知ってもらいたい、という思いで記者になりました。
日経BPに入社してからは「日経ものづくり」、2024年から「日経エレクトロニクス」に配属されましたが、最初から半導体について詳しく知っていたわけではありません。私は化学専攻だったので「半導体=導体と絶縁体の真ん中の材料」というイメージしかなくて。

「日経クロステック」/「日経エレクトロニクス」記者
久保田 半導体業界の人って、半導体材料を使ってつくられた電子部品そのものを「半導体」と言うので分かりづらいですよね。
石橋 そうなんです。だから、最初は半導体アレルギーがありました(笑)。材料の中で電気がどう動くのかはイメージできるけれども、その動きが積み重なることでコンピューターがどんな動きをするのかが分かりづらく、「半導体」と一言で言われてもしっくりこないというか。化学系を専攻した人には、私と同じように感じている人が結構いると思います。
そんなアレルギーを取り除いてくれたのが『 図解入門 よくわかる最新半導体の基本と仕組み[第3版] 』(西久保靖彦著/秀和システム新社)です。この本は「半導体とは何か」から始まり、「どう加工するとコンピューターで使われる半導体チップになっていくのか」を解説しています。この本は材料としての半導体とデバイスとしての半導体の橋渡しをしてくれた本で、私が半導体記者になって最初に買った1冊です。
久保田 「入門」というだけあって、分かりやすく解説されていますよね。
石橋 はい。この本を読んで、半導体の製造には「前工程」と「後工程」があるということも分かりました。前工程では「ウエハー」と呼ぶ円盤状の基板に何百億個というトランジスタ(半導体の構成要素)を書き込みます。
後工程はその一つひとつのウエハーを「チップ」という形で切り出し、コンピューターの中に実装します。パッケージングといわれる工程です。
これまで半導体の性能向上をけん引してきたのは、主に前工程の微細化技術でした。しかし、微細化に物理的な限界が近づきつつあり、開発コストの増大や製造歩留まりの悪化といった課題に直面しています。そこで、微細化に代わる性能向上の手段として、ここ数年、後工程の存在感が急速に高まっています。
その後工程について理解を深めるときに読みたい1冊が『 トコトンやさしい半導体パッケージ実装と高密度実装の本 』(髙木清、大久保利一、山内仁、長谷川清久著/日刊工業新聞社)です。この本では半導体パッケージ基板やプリント基板への実装などについて書かれています。
半導体パッケージの種類や部品内蔵基板の技術開発、将来の技術展望なども分かります。この2冊は「半導体がよく分からない」という人にお薦めしたいです。
油で半導体を揚げて分解した類を見ない解説書
久保田 半導体の基板が分かる本なら、私は『 揚げて炙(あぶ)ってわかるコンピュータのしくみ 』(秋田純一著/技術評論社)です。コンピューターの基板はドライバーなどでは分解できません。タイトル通り、本当に半導体の基板を天ぷら油で揚げたり、部品をバーナーで炙ったりして、解体しながら半導体の中身を解説する本です。
特に印象的な箇所は「基板の美味しい揚げ方」ですね。基板を油で揚げるときは160℃から190℃が適温だそうです。はんだが溶ける温度は200℃前後らしいです。
石橋 なるほど。高温で基板のはんだを溶かすわけですね。
久保田 溶かすためのレシピも詳しく書いてあるんですよ。半導体チップの代表格と言えるCPU(中央演算処理装置)という存在はなんとなく知っていても、実際に中身がどうなっているかは分からないですよね。この本にはその中身が詳細に書かれているので、勉強になりました。実際に自分でも揚げてみたくなるのですが、まだ自重しています(笑)。
中国・深圳のものづくりをのぞくルポ
久保田 ちなみにもう1冊、半導体の構造に関連してお薦めしたい本があります。機器のサプライチェーン(供給網)を学ぶときにお薦めしたいものです。普段、私たちは何気なくスマホなどを使っていますが、それらの中身が、実際にどうつくられているのかは知らないですよね。
『 ハードウェアハッカー 新しいモノをつくる破壊と創造の冒険 』(アンドリュー“バニー”ファン著/山形浩生監訳/高須正和訳/技術評論社)では、こうしたハードウエアがどのようにしてつくられるかが分かります。著者はハッカーで、自作のハードウエアでも有名なアンドリュー”バニー”ファン氏です。
彼が中国の深圳に行き、現地の工場などを視察する様子が書かれています。深圳は日本の秋葉原のような場所で、デジタル機器のあらゆる部品がそろいます。「12ドルで携帯電話をつくる方法」「ニセモノ製品の裏側」といったことも書かれていて、面白いです。見た目はiPhoneでもカメラが6個あるものが出てきたり、普通のスマホに見えるものの背面がたばこの箱のようなもので構成されていたりとか。こうした改造スマホがマーケットで売られているっていう世界観も面白がりながら読みました。
特に印象的だったのは、著者がスマホの工場で部品を組み立てている女性に、「これが何になるか分かる?」「World Wide Web(WWW)の意味を知っている?」と聞いたら、「知らない」と答えたことです。実際に機器をつくっている本人が知らないのかと驚きでした。
意外と自分の範囲しか分かっていない作業員が多い。そんな人たちにどんどん部品が渡り、組み上げられて製品ができているという事実は新鮮でした。
(後編に続く)
取材・文/三浦香代子 構成・写真/馬本寛子(日経BOOKプラス編集)
久保田龍之介、石橋拓馬著/日経BP/3300円(税込み)

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