東京・大田区にある町工場・ダイヤ精機2代目社長の諏訪貴子さんは、ジリ貧状態にあった同社を再建し、幾度となく訪れた危機を乗り越えて「人が辞めない最強の職人集団」をつくり上げた。諏訪さんが経営の核に据えるのは、良好な人間関係と、それを実現するためのコミュニケーションだ。連載第2回では、リーダーとしていかにふるまい、どんな言葉を発すべきかを学んできた本を紹介する。

「人間関係の古典」で“答え合わせ”

 私が本を買うのは、主に地方での講演に向かうために新幹線に乗る前です。書店内をぶらぶらと見て回り、気になった本を買って車中で読みます。

 時々、アマゾンなどのネット書店も使います。『 人を動かす 』(D・カーネギー著、山口博訳、創元社)はアマゾンの「おすすめ」に出てきたのがきっかけで読みました。コロナ禍で時間ができたこともあり、「原点に立ち戻り、『人間関係の古典』とも呼ばれる名著を読んでみよう」と思いました。

『人を動かす』(D・カーネギー著、山口博訳、創元社)
『人を動かす』(D・カーネギー著、山口博訳、創元社)

 この本では、人が生きていく上で身につけるべき「人間関係の原則」を実例豊富に紹介しています。

 改めて読んでみると、書かれているのは、「人の立場に身を置く」「笑顔を忘れない」「聞き手にまわる」「誤りを指摘しない」「しゃべらせる」「命令をしない」「演出を考える」など、私が日ごろから気をつけて実践していることばかりでした。

 自分自身が経営において重要だと考えていたことの答え合わせをしてもらったようで、安心したし、自信にもなりました。やるべきことをきちんとやってきたから、曲がりなりにもダイヤ精機の社長として、20年にわたり経営を継続できたのだと思います。

 1つ、強く心に響いたのが、「人を動かすには、相手のほしがっているものを与えるのが、唯一の方法である」という一節です。「確かにその通りだ」と深く納得しました。

 私は社員たちに寄り添い、その心をよく理解し長く勤め続けてもらう環境を整えようと、2018年に日本能力開発推進協会のJADP認定上級心理カウンセラーの資格を取得しています。資格取得の勉強を通して、「人の『行動』の源には、その人の『考え方』がある」ことを学びました。

 一般的な企業経営において、経営者やリーダーは社員の行動ばかりに注目し、指導したり注意したりして是正しようと動きます。ただ、世代も育った環境も違う経営者と社員では、そもそも考え方にギャップがあります。考え方のギャップを埋めることなく、社員たちの行動だけを是正しようとすると無理が生じます。リーダーに必要なのは、社員一人ひとりに寄り添い、伴走し、考え方を知り尽くすことです。

「リーダーは、それぞれの社員の考え方を知り尽くすことが必要」と語る諏訪社長
「リーダーは、それぞれの社員の考え方を知り尽くすことが必要」と語る諏訪社長

 さらに、この本を読み、「人を動かすには、相手のほしがっているものを与えるべきである」と知ったことで、それまで、私と工場長との3人で行っていた社員との面談を「1on1(1対1)」に改めました。「これから何をしたいのか」「どういう道を目指したいのか」という社員の考えや気持ちをじっくり引き出す場としたのです。

 以前は私や工場長の方針を基に、社員の育成方法や配属を決めていましたが、今では異動や昇進も、本人の意向を最優先するようにしています。

 ダイヤ精機の社員たちは、みな私の期待以上に動いてくれます。動かない社員はいません。『人を動かす』を読み、社員がほしがっているものを把握し、与えることができているからこそ、自発的に動いてくれているのだと再確認できました。

 会社の2代目、3代目として経営を任された人に、ぜひお薦めしたい本です。

リーダーの型を「ガンダム」の登場人物で学ぶ

 夭逝(ようせい)した兄の生まれ変わりとして、男の子のように育てられた私は、子どもの頃から戦隊ものが大好き。中でもダントツに好きなのが「機動戦士ガンダム」です。そんな私の愛読書の1つが『 機動戦士ガンダムが教えてくれた新世代リーダーシップ 』(松山淳著、サンライズ監修、SBクリエイティブ)です。

『機動戦士ガンダムが教えてくれた新世代リーダーシップ』(松山淳著、サンライズ監修、SBクリエイティブ)(品切れ・重版未定。古書店、インターネット書店、図書館などで入手することができます)
『機動戦士ガンダムが教えてくれた新世代リーダーシップ』(松山淳著、サンライズ監修、SBクリエイティブ)(品切れ・重版未定。古書店、インターネット書店、図書館などで入手することができます)

 ダイヤ精機では現場の職人さんたちの高齢化に直面していたことから、私は2007年から「人材の確保・育成」をテーマに掲げ、積極的に若手社員を採用してきました。そういう若手社員が一人前の職人に育ち、やがて副工場長や工場長などリーダーを任せるべき時期に来た時、リーダー論を学ぶ必要を感じました。

 リーダーには様々なタイプがあります。ダイヤ精機の創業者だった父は、離れたところにいても「社長」とわかるようなオーラがあり、社員の誰もが畏敬の念を抱く存在でした。何事もトップダウンで、圧倒的なリーダーシップを発揮しながら社員を引っ張っていました。

 32歳で専業主婦から2代目社長に就いた私には、そういうリーダーは務まりません。私が目指したのは、父とは反対に、現場の社員の意見を吸い上げるボトムアップ型の経営です。相撲部屋の「おかみさん」のように、社員を見守り、サポートする存在に徹してきました。そんな私の経営スタイルを、「サーバント型リーダーシップ」と指摘されたこともあります。

自分に合うリーダー像を見つけて参考にできる

 一方、そのどちらでもないリーダー像もあるはずです。私は自分のやり方しかできませんが、それが「正解」というわけではありません。

 多様なリーダーシップのスタイルを知りたいと考えていた時、「これなら楽しく学べそう」と目にとまったのが、ガンダムの登場人物の言動から、リーダーとして役立つスキルや考え方を解説する本書でした。

 この中には、様々なリーダーシップのあり方が出てきます。

 私は自分自身を主人公のアムロ・レイ型のリーダーだと思っていました。ところがこの本を読んでみると、論理的なシャア・アズナブルのリーダーシップに近いとわかりました。かつて、社員の反発に遭いながら生産管理システムを導入した自分自身の姿が、部下に「目的」「方向性」「意欲」を与えるシャアのリーダーシップと重なったのです。そうやって自己分析しながら、リーダーシップのあり方を考えられるのは、とても勉強になりました。

「自己分析しながら、リーダーシップのあり方を考えられるのは、とても勉強になりました」
「自己分析しながら、リーダーシップのあり方を考えられるのは、とても勉強になりました」

 政府の会議に出席する際などは、人の心を動かす演説を行い、「インスパイア・リーダーシップ」を発揮するギレン・ザビのリーダーシップを意識しています。出席者の琴線に触れるような言葉を繰り返し使い、心に響くスピーチとなるよう心がけています。

 今は、工場長や副工場長に就く社員にも、この本を読ませています。自分なりのリーダーシップのあり方を見つけ、参考にしてほしいという思いからです。ある社員は、「『専門的知識と技能』で部下に力を与える工学博士のモスク・ハンのようなリーダーシップを目指します」と話していました。

 リーダーとして日々どうふるまい、どんな言葉を発するかを知る上で、とても参考になります。以前、この本をテレビで紹介したところ、翌日にアマゾンで売り切れになり、著者さんからお礼のお手紙が届いたという出来事もあった思い出深い1冊です。

取材・文/小林佳代 構成/幸田華子(第一編集部) 写真/稲垣純也