Web3とは何か? 新技術なのか、インフラなのか、それ以外なのか? ブログや動的なページで新しいサービスが誕生したWeb2.0とは何が異なるのか…? 岡嶋裕史・中央大学国際情報学部教授の著書、『 いまなら間に合うデジタルの常識 』(日経文庫)から抜粋・再構成してお届けする。
Web3はバズワード?
Web3という言葉がメディアを賑(にぎ)わせています。これはどんな技術で、それを使う人々のどのような気分を表しているのでしょうか。
現時点においてWeb3はバズワードです。少なくとも、一般利用者が触れる範囲では、そのような用語として機能しています。したがって、バズワードの宿命から逃れることはできません。すなわち、集金と集客の気配が多分に漂っているので、多くの事業者がこの用語の周辺に誘引されています。
当然、彼らが誘引される理由は事業における自らの利益なので、ポジショントークが横行することになるわけです。それ自体が悪いことだとは思いません。自分たちのサービスや製品、所有技術がWeb3的だとアピールすればビジネスを有利に進められる可能性があるわけで、あるアイデアや技術が萌芽(ほうが)してそれが海のものとも山のものともつかない段階で、「このようなものである」と自分に有利な定義を試みることは、営利企業だけでなく、国や標準化団体でも行われるものです。
しかし、だからといってそれを無制限に許容してしまえば、我々一般消費者はいつまでも振り回され続けることになるし、伸びつつある技術やサービスの芽を摘んだり、成長速度を鈍化させてしまったりすることにもつながりかねません。
Web3はWeb2.0の続きではない?
このような困難な状況の中でWeb3を説明する言葉の最大公約数を探すとしたら、「ビッグテックの支配から個人が解放されたインフラ」で、「要素技術としてブロックチェーンを重視する」くらいになるでしょう。
これは不思議なことです。前者は技術やインフラを説明する言葉というよりは、すでに思想になっています。また、後者はWeb3がWebではないことを端的に表しているともいえます。
Webはその起源をさかのぼればもう70年ほどを閲(けみ)したサービスになるので、登場当初からすると要素技術は大きな変遷を経ています。それでも、形を変えつつ、HTTP、HTML、URIが現在でも使われ続けているのです。
これらはいまだWebの基盤部分を形作る技術だと考えて差し支えありません。2000年代にWeb2.0と呼ばれるムーブメントが発生したときも、これらの基本は変わりませんでした。しかし、Web3で基幹に据える技術はブロックチェーンだというのです。
これは大転換です。ブロックチェーンが形成するネットワークに従来のWebを載せることは無理です。したがって、Web3はWebではありません。少なくとも、Web~Web2.0と発展してきたサービスや技術の延長線上に位置するものではないのです。
安全なネットワークを構築したい
では、Web3をどう捉えればいいのでしょうか?
インターネット上に配置するサブネットワークか、オーバーレイネットワークと考えるのがすっきりします。たとえば、企業Aと企業Bを安全につなぐVPN(仮想専用線)はインターネット上に展開されるオーバーレイネットワークです。
インターネットそのものはたいして安全ではないので、暗号化や認証を施したVPNをインターネット上に構築します。大昔であれば、そのような用途には企業Aと企業Bの間に専用線を引きました。しかし、それはコストがかさむし、運用も柔軟ではありません。
基盤としてインターネットを使い、「仮想の」専用線とすることで、コストを抑え、ネットワーク構成なども弾力的に変更することができます。
Web3も同じです。
Web3の根底にあるのは、インターネットの低い安全性や不透明な情報流通への批判です。だから、それらの対策を講じた新しい世界規模のネットワークを立ち上げてもいい。
しかし、そのようなネットワークを一から再構築するのは現実的ではありません。そこで、インターネット上に安全なクローズドネットワークを構築する試みがWeb3です。
インターネットに今から公平性や透明性を織り込むのは無理。だからクローズドネットワークとしてのWeb3を作り、「Web3の中では」公平で透明な社会を実現しようとしているのです。
Web3はWebを置き換えない
Web3という言葉は、Webから切り離して考える必要があります。Web3をWebというのはたとえば、ツイッターやフェイスブックのアプリケーションは、インターネット接続があればWebを介さずに利用することができるけれど、それらを利用することを「Webを使う」と表現したり、そもそもコンピュータを利用すること、Webを利用すること、アプリケーションを利用することをいっしょくたにして「インターネットをする」と表現したりすることと同様です。
Webはインターネット上に展開されるアプリケーション層のサービスですが、Web3はそれとは別ものの、インターネット上に展開されるオーバーレイネットワークです。だからWebを置き換えるものではないし、ましてインターネットを置き換えるものでもありません。この点は注意が必要です。
岡嶋裕史著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)

