いま、教育界でひそかに浸透しつつある「メタ認知」。端的にいえば、自分を客観視し、「自分を見つめる自分」を意識できる状態を指す。この能力があると、成績向上に相当の効果があるという。日経プレミアシリーズ『 勉強できる子は○○がすごい 』(日本経済新聞出版)から抜粋して紹介する。
成績が良い子と悪い子で何が違うのか
メタ認知とは、自分の認知について客観的に俯瞰(ふかん)し、現状を評価し、さらには必要に応じて修正するなど、認知活動をモニターしたりコントロールしたりすることを指す。
もっと具体的に説明しないとわかりにくいと思うので、成績が良い子と悪い子に典型的にみられがちな違いをみていくことにしたい。そこにメタ認知が深く関係している。
たとえば、授業中によくわからないところがあるとき、成績の良い子は、手をあげて質問したり、授業が終わった後でよくできる友だちに確認したり、職員室に先生に質問に行ったりする。
つまり、絶えず自分の現状を振り返り、ちゃんと授業についていけているかをチェックしている。その結果、このままではまずいと思えば、改善するための行動を取る。だから成績が良くなっていくわけである。
一方、成績の悪い子の場合は、授業中よくわからなくても、自分が授業についていけているかどうかをあまり振り返らない。どこがわからないのか、どんなふうにわからないのかをはっきりつかもうという姿勢がない。成績の悪い子にもいろんなタイプがあるが、そのような子が目立つ。
当然授業中に質問もしないし、授業の後で質問に行くこともない。よくわからないまま日々の授業が過ぎていくため、成績が良くならない。
また、成績の良い子は認知反応が優勢で、成績の悪い子は感情反応が優勢といった特徴がある。
たとえば、テストで悪い点を取ったときなど、成績の悪い子は、思い出すと嫌な気分になるため振り返らないようにする。
そして、遊びに出かけたり、家でゲームをしたり、テレビを見たりといった気晴らしによって気を紛らそうとする。当然、わからないところはそのまま放置状態となる。
それに対して、成績の良い子は、感情よりも認知で反応する。テストで悪い点を取ったときには、テストの答案を見直しながら、間違っているところをチェックし、どこがわかっていないのかをはっきりさせるために、教科書やノートを引っ張り出して関連する箇所を確認したり、授業中のことを思い出そうとしたりする。
そして、どうすればわかるようになるか、どうしたらテストで良い点を取れるようになるかを考えて対策を取る。
プロセス重視か、丸暗記重視か
さらに、意味やプロセスを重視するか、丸暗記や結果を重視するかといった学習姿勢の違いもある。
成績の良い子は、わかりたいという思いが強く、授業中の先生の話にしても、板書事項にしても、教科書に書いてあることにしても、ちゃんと理解したい、わかるようになりたいと思い、一生懸命に考える。わからないとスッキリしない。
一方、成績の悪い子は、ちゃんと理解したいという思いはそこまで強くなく、大事な点やテストに出ることを丸暗記しようとする傾向が強い。覚えればよい、テストができればよいといった感じになりがちなため、理解が深まらない。
宿題になったところがよく理解できていない箇所だったりすると、そのまま家に持ち帰っても宿題はできない。たとえば、問題を解いてくるようにという宿題が出たとして、解き方がよくわからないとき、よくできる友だちや先生に教えてもらう必要があるのだが、その姿勢に違いが出る。
成績の良い子は、しっかり理解し、自分で解けるようになりたいといった姿勢で教えてもらうため、わからないところは納得がいくまで徹底的に確認して、何とかしてわかろうとする。そうした姿勢によって理解が深まる。
それに対して、成績の悪い子は、宿題ができればいい、早く終わりにしたいといった姿勢で教えてもらうため、教えてもらった通りに書き写すだけで、頭でわかろうとする意識が弱い。そのため、宿題はその場で何とか片づくものの、実際にはその内容を理解できていないことが多い。
学校の勉強の6つの枠組みで考える
このように、成績の良い子はメタ認知を十分に働かせているのに対して、成績の悪い子はメタ認知をあまり働かせていない。
それに加えて、概して成績の悪い子は、メタ認知的知識が乏しい。ここでは導入として、学校の勉強に関係するメタ認知的知識の枠組みをいくつか並べてみよう。
(1)どのような読み方をすれば理解が進むか
読み方に関するメタ認知的知識が欠けている場合、読み方が悪いために苦戦している自分の読み方を改善することができない。
(2)どのように覚えれば記憶が定着しやすいか
記憶の仕方に関するメタ認知的知識が欠けている場合、覚えようとしてもなかなか覚えられない。自分の覚え方を改善することができない。
(3)どのようにすれば頭の中の考えを整理することができるか
思考の整理の仕方に関するメタ認知的知識が欠けている場合、頭の中に渦巻く考えがごちゃごちゃに絡み合い、うまく整理することができない。
(4)どのような点に注意すればうっかりした誤答を防げるか
不注意なミスを防ぐためのメタ認知的知識が欠けている場合、ほんとうはわかっているのにうっかりしたミスをすることになりがちで、点数を無駄にしてしまう。
(5)どのようにすれば重要な概念の理解が深まるか
抽象的な概念の理解のコツに関するメタ認知的知識が欠けている場合、説明を聞いてわかったつもりになっても、テストに出題されると、じつはよくわかっていなかったということになりやすい。
(6)ながら学習をしても大丈夫なのか
ながら学習に関するメタ認知的知識が欠けている場合、平気でながら学習をしており、机に向かう時間が長い割には成果が出せていない。
ここにあげたのは、学習方法に関するメタ認知的知識のごく一部である。適切なメタ認知的知識があれば、勉強はスムーズに進む。
ところが、成績の悪い子は、このようなメタ認知的知識を知らないために、あるいは聞いたことがあっても勉強するときに意識していないために、効果的に学ぶことができない。
6つの枠組みの答え合わせ
先にあげた例で言えば、(1)に関しては、自分自身の理解度を確認しながら読むとよいということを知らないのか、理解度を確認することなく、ただ漫然と読んでいる。また、わかりにくい箇所、難しいところはしつこく繰り返して読むとよいということを知らないのか、「何だかよくわからないなあ」と思いながらサラッと通り過ぎていき、そこに戻って読み返すということもない。
(2)に関しては、意味を考えながら覚えようとすると記憶に残りやすいということや、具体的なイメージを膨らますと記憶に残りやすいということを知らないのか、何でもただ丸暗記しようとする。テストの直前なら多少はうまくいくこともあるかもしれないが、丸暗記では長期にわたって記憶を維持するのは難しい。
(3)に関しては、頭の中に思い浮かぶ考えを図解するとわかりやすく整理できるということを知らないのか、図解せずに、頭の中だけで考えをまとめようとする。ビジネス上のプレゼンテーションでは、パワーポイントで図解を示すことが多いが、それは図解すると思考の流れがよくわかるからだ。
(4)に関しては、宿題にしろテストにしろ、問題を解いた後は検算をすればうっかりした誤答を防げるということを知らないのか、解きっぱなしで検算をしようとしない。検算をすることで不注意によるミスの多くを防ぐことができるのに、それを怠る。
(5)に関しては、抽象的な概念は日常生活にあてはめて具体例を考えると理解しやすいということを知らないのか、ただ説明を鵜呑(うの)みにして覚えようとするだけで、日常生活にあてはめて考えるということをしない。日常生活の具体例にあてはめて理解することで、心から納得でき、生きた知識になっていく。
(6)に関しては、ながら学習だと上の空になり、ほとんど頭に入らず、理解にも記憶にも支障が出るため、いくら勉強しても身にならないということを知らないのか、平気でながら学習をして、ちゃんと勉強したつもりになっている。
何らかの作業に取り組んでいるとき、テレビの音声が聞こえてきて気が散り、能率が落ちて困るといった経験をしたことがあるのではないだろうか。それはテレビの音声に反応する部分が心の中にあり、認知能力の一部がそれに費やされ、作業に振り向けるべき認知能力が十分でなくなるからである。ながら学習でも、似たようなことが起こっていると考えられる。
「間違った問題の見直しが苦手」「何でも丸暗記する」「いつも感情的だ」――。勉強してもなかなか結果が出ない子どもには、それなりの理由があった。教育界でひそかに浸透しつつある「メタ認知」をテーマに、その真相に迫る。
榎本博明(著)/日本経済新聞出版/990円(税込み)