池上彰さんと増田ユリヤさんが登壇した日経BOOKプラス創刊1周年記念セミナー「本に学ぶ、世界を読み解く」。3回目は、会場の参加者との質疑応答の模様をレポートします。本の選び方や仕事への生かし方、取り上げた本に関することなど、たくさんの質問が寄せられました。時間を十分に確保していたつもりでしたが、予定の時間を過ぎても質問が止まりませんでした。
リアル書店は情報の宝庫
池上:いい質問ですね。私はリアル書店にけっこう行くんですよ。例えば、本を書きたいんだけど、いい参考図書がなくて行き詰まった時に書店を歩いていると、本がおいでおいでと手招きしてくれたり、ここにあるよって本が光ったりするんです(会場笑)。それで、自分が思っていたタイトルとは違うけど、手に取って中を見てみると、これこそ求めていた本だというのがある。
あるいは、本の装丁や作り方で、編集者の力の入れようや能力って分かるでしょ。いろんな本を手に取ってみると、この本はやっつけ仕事だなっていうのがあって……、それは買わないですね(会場笑)。本当に丁寧に作っている本は分かるんです。
本を探さなければという義務感を持たないで、折に触れてリアル書店をぶらぶらと散策するだけでいいんじゃないかなと思います。散策していると、ふと手に取ってみて面白い本があれば、そこからさらに広がっていくんじゃないでしょうか。増田さんはどうですか。
増田:私もリアル書店では直感を大事にした方がいいと思っています。直感で「これ、いいんじゃないか」と思った本は、手に取り、買うことにしています。最初に紹介した『眠れぬ夜はケーキを焼いて』もそうして出合った本です。本屋さんに平積みされていて、直感的にこれいいかもと思い、2巻まとめて買いました。
普通は1冊買った後に2冊目を買うことが多いですが、私はいいと思ったら一度に買うんです。経験として、直感でいいと思ったものは、やっぱり良かったことが多いからです。他には、私自身、書評の仕事をすることもあって、新聞や雑誌の書評欄を見て、今どんな本がはやっているのかな、どういうところが注目されているのかなというのは、気を付けて見ています。
池上:リアル書店のビジネス書のコーナーをぶらぶらと見ているだけで、今、世の中のビジネスパーソンがどういうことに関心を持っているのかが分かるんですね。別に買うつもりがなくても、そういうことを知ることができるので、書店を歩くのは役に立つと思います。
増田:『ドナウの旅人』については、私が今、東欧や中欧に関心があるので、読み直しています。そこにいる人たちがどういう風に暮らしているのか、どんな空気なのかといったことを感じたい時に読み返することが多いですね。あとは、昔読んだ本を買い直すこともあります。例えば、和田誠さんと谷川俊太郎さんの絵本『ともだち』(谷川俊太郎、和田誠、玉川大学出版部)にある「風邪をひいたっていいさ、ともだちなんだから」っていうフレーズが好きで、大人になってからまた買いました。昨年は、小学生の時に大変気に入っていた『小さい魔女』(オトフリート・プロイスラー、ウィニー・ガイラー、大塚勇三 訳、学研プラス)を買い直しました。当時はどんな気持ちで読んでいたのかな、と思ったのですが、友達と発表会をしたことを思い出したりして。幼い頃に読んで、自分に寄り添ってくれるような本は、何度も読み返したりしています。
池上:読み終わって手放してもいいなと思う本は、東日本大震災で大きな被害を受けて本がなくなってしまった図書館に定期的に送っています。一度読んで手放したくないなとか、今すぐには読まないけど置いておいた方がいいなというものは残しておいて、あとで読んだりしています。今読まなければいけない本は、積読にしています。積読って意外と効用があって、タイトルを見ているだけでも、こういう本が書けるかもしれないと喚起されることがあるんですよ。
池上:書評を書く時は、まずその本を一言で言うとどんなことなのか、読みたくなるキャッチフレーズは何かなと考えます。それから構成をどうしようかなと悩むのですが、悩むことが実は楽しくて、どうやってみんなに伝えたらいいのかなって悩むことを楽しんでいる感じですね。
増田:いいですね、私なんて悩むのは嫌ですから。私は本を読み終えて、どこが面白かったかな、自分の中に何が残っていて何を伝えたいのかなと考えます。伝えたいことがいくらでもある本に出合えると本当に良かったなと思いますし、自分の中から自然と出てくるものを大事にして発信していくと、人に伝わりやすいものになるのかなと思います。
池上:増田さんの話を聞いていて思い出しました。NHKのキャスターだった時、若い記者にリポートのやり方を研修したことがあります。事件や事故で現場に行ったら、「ちょっと、みんな聞いて聞いて」というところからリポート原稿を書き出し、本番ではその部分をカットしてリポートしろと伝えました。
多忙な中で、どう読み、自分のものとするか
池上:今、質問をいただいて思わず笑ってしまいました。私も、いつも悩んでるんですよ。書店に行って、これ読みたいと3冊、4冊買ってくるけど、家に帰ると積読している本があって、どっちを読もうかなと悩むんですよ。結局はその時の気分や体調次第で選んで読んでいます。
増田:私の場合も読みたいと思って買うけれど、どんどんたまっていって。今はみんな断捨離でものを少なくして部屋をきれいにしているのに、私ってなんでこうなんだろうと思いながら過ごしています。読む時は、何冊か候補があったらざっと見て、自分が読みたいと思ったものから読みますね。
増田:そういえば最近、過去に読んだ本が人をつないでくれたことがありました。チョコレートの本を書くためにフランスとスペインの国境に近いバスク地方に取材に行こうとアテンドを頼んで、元パティシエの日本人女性に出会いました。彼女と話をしていると、私が一番しんどかった時に読んでいたお菓子のレシピ本を、彼女も読んでいたことが分かったんです。
さらに、その著者のお菓子教室に彼女も私も通っていて、彼女はそれからフランスに留学してパティシエになったというんですよ。私より10歳も若い子なんだけれども、こんな偶然があるのかと大変驚きました。本を通じて思いがけないところで思いがけないことが起こるんだな、やっぱり本って大事なんだなと改めて愛着が湧きました。
池上:私は面白い本を読んだら、これ面白かったよって人に言いふらして、相手の反応によって書評に取り上げるかどうかを考えることがあります。若い頃は本を読むたびに、読書日記のようにタイトルと感想を書いていたのですが、そんなことはとても続かなくて。今はいつも持ち歩いている手帳の後ろに、何月何日に誰のどの本を読んだということだけは書いています。
そしてタイトルを読み返してみると、もう少しこんな本を読もうとか、3月にこんな気分だったからこの本を選んだなとかが分かるんですよね。読んだ本の書名と日付を記録するだけでも、随分違ってくるんじゃないかなと思いますよ。
取材・文/佐々木恵美、構成/木村やえ 写真/稲垣純也




