AI(人工知能)をみんなが使うようになった結果、誰もが同じようなこと言うようになった。こうなると人と違うことを言う人の価値が際立つ――。2026年6月に開催されたイベントで、『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2026』の著者であるA.T. カーニーの日本代表・針ヶ谷武文氏、シニアビジネスアナリスト・湊彬子氏が、経営トレンドから読み解く業界の変化やAI時代に求められるコンサルタントの役割などを語った。その模様をお届けする第2回。モデレーターは『日経業界地図』編集長・栗野俊太郎が務めた。
第2回 A.T. カーニー×日経業界地図 AIを使うとみんなが80点、人と違うことを言おう今はここ
第3回 A.T. カーニー×日経業界地図 AI時代のコンサルタントに必要なスキルは?

AI時代に試されるコンサルタントの本質とは
『日経業界地図』編集長 栗野俊太郎(以下、栗野) 前回はビジネスで「業界」に注目する意味などについて聞きました。今回はお二人に、戦略コンサルタントの働き方やキャリアについてうかがいます。AIが登場した今、今後は働き方が大きく変わっていくと思います。そういった変化の中で、お二人はどのように働き、何が一番重要だと考えていますか。
A.T. カーニー シニアビジネスアナリスト 湊彬子氏(以下、湊) 私は半年ほど育休を取り、2026年5月に復帰したのですが、この間に「社内のあらゆる業務でAIが活用されている」という状況になっていました。半年前には社内で使われていなかったツールを使いこなせるよう、2日間ぐらいかけてキャッチアップしました。
そもそもコンサルタントは「問いを立てて、リサーチや分析を行い、決定する」という仕事です。ところが、今まで私たちがやっていたリサーチや分析といった部分が、AIのおかげで短縮できるようになりました。そうなると、「問いを立てる」と「決定する」部分の頻度が高くなり、非常に頭を使うというか、コンサルタントとしての本質を問答無用で試される状況になっています。

A.T. カーニー シニアビジネスアナリスト
栗野 よりスピーディーに、柔軟に対応していかなければならないということですね。湊さんは、コンサルタントとしての本質は何だとお考えですか。
湊 やはり、クライアントの課題を聞いたときに「何が本質的な論点なのか」を探して、問いを立てることです。そして、「こういうアプローチで課題を解く」という打ち手を提案する。AIを使うようになった今、これまで以上にコンサルタントの本質である「問いを立てる」「論点を考える」ことが試されるな、と日々の仕事の中で感じています。
栗野 「問いを立てる」、つまり「仮説を立てる」ということですよね。そのために一番大事なことは何でしょう。
湊 いくつかありますが、実務的に大切だと思うことの1つにキャッチアップがあります。コンサルタントが新しいプロジェクトに入るときには、業界全体の構造や市場環境、クライアントの課題に関することを短期間で理解しなくてはなりません。前提理解が早く、深くないと、筋のいい問いが立てられない。そこがコンサルタントとしての能力が試されるところでもあります。コンサルタントとして活躍する人は、キャッチアップが早い人や変化に強い人が多いように思います。キャッチアップについては、今はAIの力も借りながらやっています。
栗野 針ヶ谷さんはどのようなお考えですか。
A.T. カーニー 日本代表 マネージングディレクタージャパン、シニアパートナー 針ヶ谷武文氏(以下、針ヶ谷) AIをみんなが使うようになった結果、基本的に同じようなものが大量に出てくるようになったと私は感じています。80点ぐらいのものはAIが作るようになってしまい、みんな80点に収斂(しゅうれん)していくように感じています。戦略にも差がつきづらいですよね。
でも、ここで大事なことが2つあります。1つは、違うことを言える人の価値がすごく際立つようになります。「もう、誰がやっても80点にはなるよね」ということを前提に、そこからさらに踏み込み、ちょっと違う視点や仮説を提示できる人が重要になってくるかなと。昔は80点を取らないと、的外れなことを言っているだけの人だと思われる心配があったのですが、AIが台頭した今はそれがありません。

A.T. カーニー 日本代表 マネージングディレクタージャパン シニアパートナー
もう1つは、戦略で差がつきにくい、かつ大きく違うことを言ってリスクを取ることも難しいとなると、最終的に差がつくのは「実行力」です。実行力をAIに担わせるのは難しく、基本的に実行するのは人です。AIが毎日「これをやってください」と指示を出したとしても、やる気のない人を動かしてはくれないですよね。そうなると、人が適切な人材を育てる、あるいは外部から迎えるなりして、モチベーションを維持しながら最後までやりきることが必要になる。
その過程でAIを使ってもいいのですが、「やりきる体制」をいかに作るかが難しいですし、変革をリードできる中核人材の育成に苦労している企業が多いのが実情です。人材不足という状況の中で、AIが人の意欲を引き出し、組織を動かし、最終的に「やりきる体制」を作れるかといったら、まだ作れません。
栗野 変革を起こすには、経営層だけではなく、中間層への意識の定着が必要だと思いますが、そこには支援や育成を行うのですか。
針ヶ谷 一朝一夕にはいかないので、いろんな手段があります。トップメッセージや経営方針自体を改めて打ち出すこともあります。最近は、変革の起点となるキーパーソンを外部から迎えることも多いですね。
ただ、外部から来た人が一人で改革を進めようとすると孤立してしまうことがあるので、その方と一緒に働く人材を配置したり、我々もその方が組織になじむまで伴走して改革を進めたりと……あらゆる手法があります。目に見える成果を出し、それを社内に共有して、「どんどん改革したほうが良さそうだ」という雰囲気を作ります。そうした積み重ねによって、少しずつ組織の動きが変わっていきます。
結局、AIは「相談のツール」なんですよね。「AIをこうやって使うと成果が出たね」という手段としては使えるけれど、会社の現場を本当に変えるには不十分です。
AIと違う意見を言える人材はどこにいる?
栗野 先ほど「AIのおかげで誰でも80点が取れる時代になった」「だからこそ、違う意見が重要だ」というお話がありましたが、違う意見を言える人材はどこから見つけてくるのですか。
湊 生成AIが出てくる前から、A.T. カーニーでは「こういう人材が欲しい」というバリューを掲げています。「Curiosity(知的好奇心)」「Solidarity(連帯性)」「Generosity(寛容さ)」「Boldness(大胆さ)」「Passion(情熱)」の5つです。「Boldness(大胆さ)」というバリューがあるので、「普通」であることにとらわれず、人と違ったことが言えるのだと思います。
先ほど針ヶ谷が「AIのおかげで80点」と言いましたが、私自身もAIを使いながら業務をしているときに、途中の段階では80点のものができてしまうことがあります。自分にがっかりしますね。やはり80点を超えていくためには、「本当にこれでよいのか」と問い直す姿勢や、通念にとらわれずに違う視点を提示する「Boldness(大胆さ)」が必要で、今のAIの時代にすごくマッチしたバリューだと感じています。
私はコンサルティング業界とはまったく異なる業界から転職してきました。異なる経験や視点を持つ人材を受け入れ、それを組織の力に変えていく姿勢は大切だと思います。
文/三浦香代子 写真/稲垣純也
18の業界別のアジェンダについて、各分野を専門とするコンサルタントが解説。幅広い産業で起こっている最新のトレンドをキャッチアップし、様々な業界に通底している経営のメガトレンドを構想する。
A.T. カーニー著/日本経済新聞出版/2420円(税込み)
主要業界の勢力図や市場規模、提携関係をビジュアルで分かりやすく解説。最新のトレンドやシェア情報が網羅されており、就職活動や株式投資、ビジネスの基礎知識獲得に役立ちます。
日本経済新聞社 編/日本経済新聞出版/2200円(税込み)

