東京都港区の麻布台ヒルズに、関東初の直営店をオープンした大垣書店。この店には情報感度が高く、話題の本から時代を読み取ろうとする人たちが多く立ち寄るという。この店の副店長で、書店事業部部長代理も務める大垣交右さんに、最近よく売れている『世界のラグジュアリーブランドはいま何をしているのか?』と、水彩の優しいタッチで描かれた、いせひでこ氏の絵本『ピアノ』の2冊を紹介してもらった。
前編「
大垣書店麻布台ヒルズ店・大垣交右さんが選ぶ経営学の名著
」
一流ブランドの経営に迫る本
2023年秋に、関東初の直営店として麻布台ヒルズ店をオープンした大垣書店。地域に密着した店づくりをするのが特色で、この店には情報感度が高く、話題の本から時代を読み取り、ビジネスのヒントをつかもうとする人たちが多く立ち寄るという。そうした客層を踏まえつつ、前回は、同店副店長で、書店事業部部長代理も務める大垣交右さんが、日本の経営と思想に関する名著を紹介してくれた。
今回は、最近よく売れている2冊を紹介してもらう。まず1冊目は、『世界のラグジュアリーブランドはいま何をしているのか?』(イヴ・アナニア、イザベル・ミュスニク、フィリップ・ゲヨシェ著/鈴木智子監訳/名取祥子訳/東洋経済新報社)。ページ数は500ページを超え、価格は3000円台後半だが、1カ月以上にわたって売れ続けているという。
「麻布台ヒルズ店をオープンする前に、近隣エリア一帯を何度も歩いてリサーチしたところ、アートや建築、デザイン、ファッション関連のオフィスやショップが多くありました。そういう方々の知的好奇心を刺激するのはルイ・ヴィトンやシャネル、ロレックス、アウディなどの一流ブランドの経営に迫るこの本だろうと思い、当店のインスタで紹介したら予想が的中して、翌日から売れ始めました。それが2023年11月の本の発売直後で、当店がオープンして間もない頃のこと。以来コンスタントに売れていて、売れ行きは一般的な経営書よりもいいかもしれません」
さらに、客の知的好奇心を刺激するべく、同店ではアートブックも充実させていきたいという。その一例が、世界的ファッションデザイナーだったカール・ラガーフェルドの作品を集めた大型本『Karl Lagerfeld:A Line of Beauty』(Andrew Bolton著/Metropolitan Museum of Art)だ。本書は、左ページには彼の手書きのデザイン画が、右ページにはそのデザイン画をもとに出来上がった服の写真、というページ構成になっている。「見れば見るほど、この殴り書きのようなデザイン画から、どうしてこんなに洗練された服ができるんだ!? とわけが分からなくなるんです」と大垣さん。「しかし、そうした自分の頭の中にはない世界と出合えるのがアートブックの魅力だと思います」と続ける。
絵本は大人が読書を始めるきっかけに
もう1冊、よく売れている本として紹介してくれたのは、絵本の『ピアノ』(いせひでこ作/偕成社)だ。水彩の優しいタッチで描かれたファンタジーで、新しい家に引っ越してきた小さな子が、今は亡きお父さんが買ってくれたおもちゃのピアノを見つけ、それが森の中でピアノを弾く不思議なおじさんとの出会いにつながっていく、というストーリー。子連れの親子がよく買っていくという。
「店内のギャラリースペースで原画展をしたところ、大変好評でした。絵本を大切にしている書店、イコール、絵本を読む児童も大切にしている書店として認知された印象で、絵本のみならず児童書や児童教育に関する本の売れ行きが伸びました。麻布台ヒルズ内で、お子さんと一緒でも気兼ねなく入れるのが当店なのかもしれません。今後、より一層この分野に力を入れて、お客様の希望に応えていきたいと思っています」
本書の作家のいせひでこ氏には大人のファンも多く、20代や30代の人も買っていく。お気に入りの絵を買うように絵本を買って、読んだ後にインテリアとして飾る人もいるだろう。そうした大人の絵本との触れ合い方から、大垣さんは「絵本はお子様だけでなく、大人の方も読書を始めるいいきっかけになり得ると思う」と言う。
「読書を始めるなら、ミステリー小説や軽めの自己啓発本がいいといわれる場合もありますが、それらになかなか手が伸びなかった人には絵本がお薦めです。本を読みたいけれど何を買えばいいか分からないといった場合は、絵本のビジュアルで決めたりしても面白いと思います。
例えば、いせひでこさんのファンになった場合、いせさんの絵本には楽器がよく出てくるから、音楽に関する小説を読んでみようか、とか。もしくは、いせさんのご主人は作家の柳田邦男さんなので、柳田さんの本を読んでみようか、とか。絵本なら、そうやってシフトしていきやすいと思います」
大垣さんはそう絵本の魅力を強調した。
取材・文/茅島奈緒深



