2023年11月24日、京都を中心に店舗を構える大垣書店が、関東初の直営店として麻布台ヒルズ店をオープンした。グループ50店舗目、大垣書店として40店舗目となるこの店の敷地は300坪と広く、雑貨販売のほかギャラリースペースやカフェ&バーも併設し、書店の新しい形をけん引している。副店長で書店事業部部長代理も務める大垣交右さんが、日本の経営と思想に関する名著を紹介する。
麻布台ヒルズならではの書店の新しい形
「外国人のビジネスパーソンや居住者、観光客も多いことから、今回初めて店舗ロゴをアルファベット表記の『OGAKI BOOKSTORE』にしました」というのは大垣書店麻布台ヒルズ店副店長で、書店事業部部長代理も務める大垣交右さん。
大垣書店は「地域と人を結ぶ」を基本コンセプトとし、出店エリアにあわせた店づくりをするため、店舗ごとの特色が異なる。麻布台ヒルズに集まるのは情報感度が高い人たちで、同店にも話題の本から時代を読み取り、ビジネスのヒントをつかもうとする人たちが多く立ち寄るという。
そうした客層を踏まえつつ、大垣さんが最初に薦めてくれたのは『知識創造企業[新装版]』(野中郁次郎、竹中弘高著/梅本勝博訳/東洋経済新報社)。初めて日本の経営論を示したといわれる1冊だ。
「著者は一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生と、ハーバード大学経営大学院教授の竹内弘高先生という日本を代表する経営学者で、最初に発売されたのは1995年でアメリカでした。それが邦訳されたのが本書です。1970~80年代に多くの日本企業が成功し、欧米企業を脅かす存在にまでなった要因を明らかにしています。
『エコノミスト』などの世界の一流誌も絶賛し、10カ国語以上で翻訳されています。本書のポイントは経営学の分野に知識というコンセプトを持ち込んだ点で、個々人の暗黙知(言葉や数字で表現しにくい技能やノウハウ)をみんなで共有し、形式知(言葉や数字で表現できる知識)に変換して経営に生かす『SECI(セキ)モデル』という経営理論を展開しています。
そうした知識創造に、日本企業の優位性がある、と。もしこの本が日本になかったら、日本企業はすでに終わっていたかもしれない、というほどの名著ですから、第一線で活躍している経営コンサルタントなら、間違いなく読んでいる1冊でしょう」
大垣さんは現職に就く前、立命館大学稲盛経営哲学研究センター客員研究員を務めていて、その後、一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻(通称:一橋ICS)に移り、野中郁次郎氏の下で1年間、リサーチアシスタントとして働いていた。その経歴から、経営学に関する読書量は多く、「『知識創造企業』も10回以上読んでいて、家に3、4冊あります」とのこと。
40年売れ続けている「忖度」を理解する本
次に薦めてくれたのは、『「空気」の研究』(山本七平著/文春文庫)。1977年に発売されて以降、40年以上経た今も、日本や日本人について論じられるときに引用されることが多い、これも名著だ。大垣さんも、野中氏の別の著書『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀との共著/中公文庫)で引用されていることがきっかけで読んだという。
「一昔前はKYと略され、最近は同調圧力という言葉も使われますが、日本人はなぜ『空気』を読むのか、『空気』とはいったい何かということについて考察された1冊です。企業や政治家の不祥事、不正事件が起きるとよく売れ、『忖度(そんたく)』という言葉がはやったときにも売り上げを伸ばしました。
著者の山本七平氏は、山本書店という小さな書店を経営しながら、評論家として多くの著書を書いたほか、イザヤ・ベンダサンというペンネームで執筆活動をしていたことでも知られた人です。その彼が取り上げる話題の幅は戦前から現代までと広く、かつ、それらをジャーナリズムやアカデミズム、はたまた笑いを誘うようなユニークな例えを用いて論じています」
本の一説を引用すると、「『空気』とは何であろうか。それは非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ『判断の基準』であり、それに抵抗する者を異端として、『抗空気罪』で社会的に葬るほどの力を持つ超能力であることは明らかである」とある。「『空気』とはまことに大きな絶対権を持った妖怪である」という記述もあり、確かに面白く読み進められる。「空気」の反対語として、「水を差す」の「水」について論じられた章も興味深い。
「あらゆる角度からの考察が続く構成で、空気とはこういうものであるということや、その処方箋が明確に記載されているわけではありませんが、日本で働く上では必読の1冊だと思います。人間関係でつまずいている人や、集団において課題が発生する構造を理解したい人にもお薦めです」
(後編に続く)
取材・文/茅島奈緒深 写真/尾関祐治


![『知識創造企業[新装版]』(野中郁次郎著、竹内弘高著)。1970年~80年代に多くの日本企業が成功し、欧米企業を脅かす存在にまでなった要因を明らかにしている](https://cdn-bookplus.nikkei.com/atcl/column/072200105/031800011/03.jpg?__scale=w:600,h:475&_sh=07106104a0)
