オリックス球団のオーナーを34年にわたって務めた宮内義彦氏とはどのような人物なのか。前編「DeNA南場会長が教わったプロ野球経営論『タニマチ的な気持ちではダメ』」に続いてディー・エヌ・エ―(DeNA)会長で、横浜DeNAベイスターズオーナーでもある南場智子氏の「証言」をお届けする。プロ野球参入を決意し、経営者としても大先輩の宮内氏に報告した際に、貴重な2つのアドバイスをもらった南場さん。前回語った「タニマチ的な気持ちでやるべきではない」とは異なる、宮内さんからもらったもう一つのアドバイスとは──。(構成:白壁 達久)

 私がオリックスの宮内義彦さんに教わったプロ野球経営のもう1つのアドバイスは「1つの球団ではなく、みんなでプロ野球という劇場を盛り上げる、その気持ちを忘れないように」ということです。実はこの言葉、私の中で最初はピンとこなかったんです。オーナーとして球界に関わり始めて、その意味がじわじわと分かってきました。

 球界の発展には改革が不可欠です。ただ、何を変えるにしても、得をする球団と損をする球団が出てきてしまいます。オーナー会議は、定款には出席者の4分の3以上の賛同があれば変えられるとありますが、実際は大人同士の上品な会議です。1人でも反対が出ると、ごり押しで決めるということはせず、「では、もう少し議論しましょうか」となるわけです。そうすると何も変わらないんですよ。

オリックスの宮内義彦さんとの思い出を語るディー・エヌ・エ―(DeNA)の南場智子会長(写真:菅野 勝男)
オリックスの宮内義彦さんとの思い出を語るディー・エヌ・エ―(DeNA)の南場智子会長(写真:菅野 勝男)

 すべての球団が得をすることってなかなかない。だからなかなか変われない。宮内さんがおっしゃる、「12球団で1つの劇場を盛り上げる」ことの難しさはこれなのかと痛感しました。ベイスターズとしては、自分たちが多少苦しむことがあっても、球界全体のためにプラスになることは進めていこうというスタンスで挑むことにしました。

 DeNAが持つリソースを提供し、NPBで取り組む新たなサービスの実証実験を無償で担ったり、NFT(非代替性トークン)を活用したデジタルサービスの提供のような新たな取り組みに積極的に挑戦し、その情報をNPBの担当者会議で共有したりするなどもしています。これは、自社サービスを他球団に使ってもらってビジネス化したいからやっているのではなく、球界全体のパイ拡大のために、DeNAが汗をかくということを意識して取り組んだことです。

プロ野球参入が親会社も成長させた

 インターネット業界は皆さんの想像以上にレッドオーシャンです。ものすごいスピードで変化し、互いに切磋琢磨し合う。たとえ他社より先行していたとしても、少しでもベターなサービスが出てくるとお客さまは瞬時に移動できる世界です。

 起業したばかりの頃は、まずは自分たちが生き残れるかどうかを必死に考えてきました。何とか黒字化するためにもがき、その後はレッドオーシャンで勝ち抜くために戦い続けてきました。考えれば、ずっと「自分たち」だけを主語にして頑張ってきたんです。スタートアップはそのマインドが正しいでしょう。ただ、企業が成熟していくにつれて、全体が繁栄しないといずれは自分たちの成長もなくなるということに気付くのです。

 短期的には自分たちの持ち出しでマイナスがあったとしても、全体のプラスのためにはやるべきことがあると分からせていただきました。そういう段階にDeNAという会社全体を引き上げてくれるいい取り組みになりました。その後、DeNAはバスケットボールやサッカーなど、スポーツビジネスの領域を広げつつあります。

 宮内さんからいただいた2つのアドバイス。これはDeNAのスポーツ経営の指針になっています。そして、会社全体を一歩大人に引き上げてもらったようで、非常に感謝をしています。本当に感謝をしてもしきれない宮内さんが、オーナー最終年に日本一になって胴上げされてご卒業された。野球のことを誰よりも考えていた宮内さんに、野球の神様が本当にすてきなプレゼントをなさったなと感じます。

宮内さんに学んだ「欠かさずオーナー会議に出る」姿勢

 もう1つ、宮内さんの姿勢に学んだことがあります。極力オーナー会議には自分が出席するということです。オーナー会議という名称の通りで、やはりオーナーが出てくるのが重要だと感じます。全権を委任されている代行ならまだいいのですが、そうではない場合は「持ち帰ります」となってしまう。

 議論によって原案よりもいい案が出てきたとしても、代理で出てきた人は事前にオーナーが決めたスタンスを変えられない。そうなると実質的に意味のある議論ができなくなってしまう。だから私も必ず自分が出るようにしています。一番の重鎮になられていた宮内さんが、欠かさずに出てこられたということは、本当に素晴らしいと思います。

 宮内さんは私にとって、政府の規制改革委員の先輩でもあります。既得権益と戦い、多くの敵をつくる役回りなので、やって得することなどほとんどない。それでも、強烈なリーダーシップを発揮されてこられたのは、日本という国全体をどうよくしていくかを考えておられたからでしょう。そこはプロ野球全体の発展を考えて、改革を訴えられていたところと重なります。

 宮内さんが34年のオーナー人生で変えたかったことのすべてを改革することはできなかったと思います。残された宿題はたくさんあります。私1人ではできませんが、12球団で1つの劇場を盛り上げるという大きな目標に向かって、私も演者の1人として頑張っていきたいと思います。

日経ビジネス電子版 2024年1月30日付の記事を転載]

阪神・淡路大震災による被災やイチロー選手の活躍と渡米、近鉄バファローズとの球団合併に端を発した球界再編、そして長期低迷からの復活劇。オリックス・バファローズのオーナーを34年間務めた宮内義彦氏が打ち明ける球史の裏側、勇退した今だから言えるプロ野球の発展に向けた私案の数々。プロ野球の「オーナーの視点」が見えてくる1冊です!

宮内義彦、白壁達久(著)/日経BP/1870円(税込み)
「経営とは、こんなにも不格好なものか。だけどそのぶん、おもしろい。最高に」。なにもそこまで全部やらかさなくてもという失敗のフルコース、悪戦苦闘の連続を、創業者が初めて明らかにする。

南場智子(著)/日本経済新聞出版/1760円(税込み)