オリックス球団のオーナーを34年にわたって務めた宮内義彦氏とはどのような人物なのか。球団経営で宮内氏と深く関わった人物による「証言」をお届けする。今回は、ディー・エヌ・エ―(DeNA)会長で、横浜DeNAベイスターズオーナーでもある南場智子氏。プロ野球参入を決意し、経営者としても大先輩の宮内氏に報告した際に、貴重なアドバイスをもらったという。ファンを増やし続けて黒字化を果たし、成功を収めたベイスターズ。その原点となった宮内氏のアドバイスとは──。(構成:白壁 達久)

起業する以前からオリックスの宮内義彦さんと親交のあるディー・エヌ・エ―(DeNA)の南場智子会長(写真:菅野 勝男)
起業する以前からオリックスの宮内義彦さんと親交のあるディー・エヌ・エ―(DeNA)の南場智子会長(写真:菅野 勝男)

 横浜DeNAベイスターズは2023年、主催試合で228万927人のお客さまに来場いただきました。1試合当たりの来場者3万2126人は過去最多です。この結果の背景には、最後まで上位争いを競った選手や監督・コーチ、そして球団の皆さんの奮闘があるのは間違いありません。

 曲がりなりにもベイスターズが発展してこられた根源には、オリックス球団のオーナーを長く務められた宮内義彦さんの存在があります。宮内さんとは起業する前のマッキンゼーに勤めている頃からよくしていただきました。DeNAがいよいよ球団を取得するというその前に、私は宮内さんにプロ野球参入やその後の経営についての教えを請いに行きました。プロ野球参入後も年に1回ぐらいは遊びにいかせていただいています。

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 球団取得前に、宮内さんから2つの重要なアドバイスをいただきました。細かいことを教えていただいたのではなく、たった2つのポイントだけです。ただ、そこから私は多くの気付きを得ることができました。

 1つは「タニマチ的な気持ちでやるのではなく、プロ野球の事業自体がきちんと収益を上げるという考え方で取り組みなさい」というご助言です。

 当時多くの球団が親会社から広告宣伝費として資金を供給してもらい、何とか埋め合わせをしていました。実態としては赤字経営なわけです。野球事業が赤字のままだと、結局は親会社の浮沈次第でまた身売りの話が出ることになります。そのたびに野球とは直接関係のないことがメディアに流れて、選手も不安になり、ファンを悲しませてしまう。その間は、選手からもファンからも、純粋なスポーツの楽しみを奪ってしまいます。

 ですからこのご指摘はすごく納得のいくものでした。球団を取得した当時のベイスターズは毎年25億円くらいの赤字を出していました。これを黒字化しようという意気込みはありましたが、実現するのはそう簡単なことではありません。ただ、宮内さんのお話を聞いて改めて、野球ビジネス自体で隆々と発展できるよう、きちんと収益が上がる仕組みをつくらなければいけないと胸に刻みました。

 DeNAのようなインターネット企業は、業界の中での競争も激しい上に、変化のスピードも速い。そこで相当もまれながらも成長を遂げてきました。プロ野球ビジネスは今まで手掛けてきた事業とは全く異なるものではありますが、経営という意味では、これまでの経験が必ず生きる。我々がプロ野球に参入する意味はここにあると感じました。

 球団の経営に関しては、親会社からの広告出稿などをすべて除いた収益で評価する仕組みをあらかじめ構築しました。純粋にどれだけ赤字なのかをきちんと把握し、いかにして黒字化するかを考える。球団トップの奮闘や現場社員の頑張りもあって、ベイスターズは5年で黒字化を果たしました。

(写真=菅野 勝男)
(写真=菅野 勝男)

 スポーツビジネスは、一般的な事業のような利益の最大化を主目的とはしません。ただ、収益が上がらないと組織としての永続性はないですし、関連する産業も発展しません。そうなると市場全体の成長も止まってしまいます。親会社の浮沈にかかわらず、球団自体がしっかりと収益を上げることで安定的に成長させていく。選手には報酬として還元できるし、選手の活躍はファンにとってもプラスに働く好循環になる。球団の単独黒字化は、肝に銘じて取り組んできました。

 球団の黒字化は、経営者やスタッフが頑張るだけではできません。監督やコーチ陣、選手も含めて、みんなにプロ野球というビジネスを理解してもらうよう努めました。誰からお金をいただいているのか。ベイスターズを支えてくれるスポンサーはなぜ広告を出してくれるのか。すべての基盤はファンなんです。人気があるから、広告価値も放映権の価値も上がるわけです。

 一番のベースは、強くなり、ファンが沸くプレーをするということです。その順番を間違えてはいけません。ただ、試合は勝てる日だけではなく、負ける日ももちろんありますし、今日しか来られないお客さまもたくさんいらっしゃる。

 そのときに、何かいい思い出を残してもらい「楽しかったね」と思っていただきたい。スタジアムにいる時間を「負けて残念だったけれど楽しかった」と言ってもらえるような工夫もしなければいけません。

 私自身、スポーツは以前から嫌いではありませんでしたが、ここまで好きになるとは思いませんでした。小説や映画も好きです。ただ、同じエンターテインメントコンテンツであるものの、それらはやはり人の心を動かそうとしてつくられている。「南場智子さん、あなたの気持ちを操作しようとしています」という目的でつくられたものです。一方のスポーツは、本気で勝とうとしている人たちが紡ぎ出すドラマです。つくられたものではない、誰も予想できない展開だからこその感動の大きさや喜びの深さに、すっかり取りつかれてしまいました。それを1人でも多くの人に感じてもらいたいです。

 この本気のドラマの感動を、ファンへの感謝の気持ちと共に届けることを重視しています。ファンへの感謝は、気持ちを持っているだけではダメ。きちんとファンに表現しなければいけません。

 プロ野球をビジネスとしてしっかり成功させることの重要性を選手や監督にも分かってもらって、監督には、勝っても負けても会見に応じて発信し続けるということを約束してもらっています。

 毎年、球団に新人選手たちが入ってくると、彼らをDeNAの本社に呼んで、私からレクチャーをさせてもらっています。そのときも最後に、「ファンの皆さんに対する感謝の気持ちをしっかり感じて、かつそれを行動に表してください。これができない人に対して、私は寛容ではないです」と伝えています。

 こうした意識をオーナーとして持てたのは、宮内さんから「プロ野球の発展のためにもビジネスとして成功させなさい」というアドバイスをいただいたことに始まっています。

 (宮内さんが南場さんに伝えたもう1つの極意は、後編「12球団で1つの劇場を盛り上げる」で掲載します)

日経ビジネス電子版 2024年1月26日付の記事を転載]

阪神・淡路大震災による被災やイチロー選手の活躍と渡米、近鉄バファローズとの球団合併に端を発した球界再編、そして長期低迷からの復活劇。オリックス・バファローズのオーナーを34年間務めた宮内義彦氏が打ち明ける球史の裏側、勇退した今だから言えるプロ野球の発展に向けた私案の数々。プロ野球の「オーナーの視点」が見えてくる1冊です!

宮内義彦、白壁達久(著)/日経BP/1870円(税込み)
「経営とは、こんなにも不格好なものか。だけどそのぶん、おもしろい。最高に」。なにもそこまで全部やらかさなくてもという失敗のフルコース、悪戦苦闘の連続を、創業者が初めて明らかにする。

南場智子(著)/日本経済新聞出版/1760円(税込み)