2025年7月に新刊『家族みんなが楽になる!親にスマホをもっと使ってもらう本』を発売した増田由紀氏。これまで1万5000人を超えるシニアにスマホを教えてきた経験から「スマホの最初の一歩は、家族に支えてほしい」と語ります。本記事では、多忙なビジネスパーソンが「親のスマホ問題」を解決するための攻略法を、増田氏の言葉から解き明かします。
親のスマホ、「荒れ地」で放置していませんか?
「親にスマホを買ってあげはしたものの、そのままになっている」という方は多いのではないでしょうか? あるいは「うちの親は機械が苦手だから、無理」とあきらめてしまっている方もいらっしゃるかもしれません。
私は25年以上、シニア世代向けのパソコン・スマホ教室を運営していますが、これは本当によくある話です。でも「年齢のせいでスマホが使えない」なんてことはない、と強くお伝えしたいです。
お子さん世代からすると「何でこんなに簡単なことができないんだろう」と思われるかもしれません。しかし、買ってきたばかりのスマホは、いろんな不要なアプリが入った、いわば「荒れ地」の状態です。
電話で操作を教えてもうまくいかないのは、親の理解が足りないわけではなくて、そもそものスタートラインがそろっておらず、だから話がかみ合わないわけです。それに加えて家族だからこその距離の近さもあって、お互いにイライラするとケンカにもなりやすい。
だから、ほんの少しだけスマホの状態を見てあげて、前提条件さえそろえれば、驚くほどスムーズに話が進むことはよくあります。

もはや「使わない」という選択肢はない社会に
「もう年だし、スマホはいいよ」という親を、無理に説得してまで使ってもらう必要はないと思う方もいるでしょう。しかし、スマホの世帯普及率が9割を超えている今、社会の仕組みも変わってきていて、この流れはもう避けられません。もはや好みの問題ではなく、行政サービスや病院を利用するにも、スマホを使えないと不利益を被る時代なのです。
また、日本の事情を鑑みると、やはり心配なのは災害時です。電話がつながらないときや避難所に移動したとき、どうやって安否確認をするのか。普段から使い慣れていないと、いざというときにスマホを持って避難するという発想にすらなりません。
私の友人は、病床のお父さんが「スマホを使いたい」と言ったのに「もう無理だよ」と断ってしまったそうです。後から「使えたのかもしれない。使わせてあげればよかった」と泣いていました。「質問攻めで面倒だ」と後悔するよりも「使わせなかった後悔」のほうがはるかに大きいのです。
親を「気難しいクライアント」と考え、プロジェクトを推進
親子でケンカになる原因は、お互いの前提知識やスタートラインが違うことです。これを解決するには、親のスマホ問題を1つの「プロジェクト」と捉えましょう。そして親を「気難しいクライアント」や「苦手な上司」だと考えてみてください。
クライアントに対して「何でそんなこともわからないの?」と怒鳴ったりはしませんよね? ぶつかっていたら、進むものも進みません。最終的な目的を達成するために、相手に寄り添って言葉を選びながら、丁寧にコミュニケーションを図って説得するのが優秀なビジネスマンのはずです。
親のスマホは未来の自分への投資。かけた労力以上の価値に
「そんな面倒なことをする時間がないし、親も望んでいない」と思うかもしれません。しかし、親がスマホを使えるようになることは、将来の自分への投資でもあります。
親のスマホの環境を整えてあげるのは、お子さんだけができるミッションです。少しでも「荒れ地」を整えてあげたスマホであれば、後から電話で説明するのも格段に楽になります。帰省中のわずか30分でも「文字を大きくする」「画面がすぐに消えないようにする」といった簡単な設定をしてあげる。たったそれだけでも、その後のあなたの時間的、精神的な負担は劇的に減るでしょう。
「うちの親は無理だ」とあきらめないでください。親の将来は、あなたの将来にも深く関わります。難攻不落な親を攻略するのは、やりがいがあるミッションだと思いませんか。
帰省時の「消えない手土産」として
教室の生徒さんには90代の方もいらっしゃいます。最初はわからなくても、後から「先生、あのときスマホを始めて本当によかった」と口をそろえて言ってくださいます。親は「できない」のではなく、ただ「慣れていない」だけです。スマホの便利さを一度体感すれば、きっと自分から使ってくれるようになります。
『家族みんなが楽になる!親にスマホをもっと使ってもらう本』では、よくあるエピソードを会話形式でまとめながら、シニアの方に伝わりやすい説明方法をご紹介しています。
ぜひこの夏、帰省の機会に、お菓子だけでなく「消えない手土産」として本書を手に取っていただければと思います。未来の自分のために、ちょっとだけ親のスマホを手伝ってあげる。それこそが、最小の手間で最大の成果を出す、費用対効果の高い「親孝行」なのかもしれません。

取材・文:西 倫英=日経BOOKSユニット第2編集部
増田由紀著/日経BP/1870円(税込み)
