「お茶こぼさないでね」と声をかけたのに子どもはなぜかこぼしてしまう。それは「○○しないで」と否定形で伝えることで、かえってその行動をイメージしやすくなるから。ではどうすればうまく伝わるのか。NVC(非暴力コミュニケーション)理論を軸に、コミュニケーション・コンサルタントが「お願い」のコツをやさしく解説。日経ビジネス人文庫『自分と相手の「本音」がわかる会話術』(西任暁子著)から抜粋・再構成してお届けする。
肯定語で伝える
「お茶、こぼさないようにね」
子どもにこうお願いすると、多くの子どもがお茶をこぼしてしまうそうです。
お茶をこぼすイメージが浮かんで、そちらに引っ張られるからです。
私もラジオの原稿に言い慣れない言葉があると「つっかえないようにしよう」と気をつけるのですが、そう思うほどつっかえてしまいます。
脳は、何かをしないことを直接イメージできないからです。
まずそれをしているイメージを浮かべてから打ち消すことになるので、「○○しないで」とお願いすると、しているイメージが思い浮かびます。
また、人から「○○しないで」と言われると、信じてもらえていないようで悲しくなることがありませんか。
「間違えないで」と言うときは、その人が間違えるかもしれないと思っているからです。
「しないで」という言葉の奥には、相手が「するかも」という疑いが潜んでいるのです。
それに、「しないで」と言われると、行動や可能性を制限されるようで窮屈な感じもします。
だからお願い(リクエスト)は「○○しないで」という否定形でなく、「○○して」と肯定形にすると、気持ちよく伝えられるでしょう。
具体的に伝えることも大事
また否定形のリクエストには解釈が必要なことが多いので、誤解も生まれやすくなります。
「気を遣わないでほしい」と言われたら、お土産がいらなかったのか、ラフな格好で行けばよかったのか、足を崩して座ってもいいのか、片付けを手伝わずに座っていていいのか……捉え方はいくつもあるので結局、気を遣うことになりそうです。
「○○しないで!」と言いたくなったら、肯定語で「○○して」と具体的に言い換えてみましょう。
ちなみに最初の例は、こう言い換えることができます。
「つっかえないようにしよう」 → 「10 回練習して、本番では丁寧に発音しよう」
「合っていますか?」と確認する
日本では、直接的にお願いするよりも、察することが大切にされるので、まわりからのお願いも、曖昧な表現で伝えられることが多いでしょう。
そんなときは、相手のリクエストを確認してみませんか。
「○○してほしいと思っているように聞こえたけれど、合っていますか?」
この質問は、「私の」受け取り方が合っているのかどうかをたずねているので、相手は安心して答えることができます。
もし、「○○してほしいんですか?」とたずねると、主語が「あなたは」になるので、相手は責められたと感じたり、「自分の言い方がわかりにくかったのかな」と不安になったりするのかもしれません。
また、「どうしてほしいんですか?」とオープン・クエスチョンでたずねると、責めているように聞こえる可能性があります。
「YES/NO」で答えられるクローズド・クエスチョンのほうが、相手は本音を言いやすいでしょう。
この質問は、リクエストの確認だけではなく、さまざまな場面で使うことができます。
たとえば「あなたは○○って言いたいの?」と聞けば直接的ですが、「私にはあなたがこう言いたいように聞こえたのだけれど、合ってる?」と聞けば、私が 正しく受け取れているかを確認しているので、相手は自己防衛する必要がありません。
質問するときは意図も必ず伝える
相手の発言を確認するときは、ニーズ(行為の源にある大切にしたいこと)も一緒に伝えましょう。
「あなたの話をちゃんと理解したいから確認できたらと思うのだけれど、あなたは私に◯◯してほしいと思っている?」 → ニーズは「あなたの話をちゃんと理解したい」
「あなたの力になりたいから私の理解が合っているのかを知りたいのだけれど、あなたは私に◯◯を望んでいるのかな?」 → ニーズは「あなたの力になりたい」
人は質問されたときに意図がわからないと、「どうしてそんなことを聞くのだろう」と不安になります。
質問に答えることは心の内を明かすことですから、どこまで言っていいのかなと警戒心が働くのです。
質問するときは、一緒に意図を伝えることを意識してみてください。
『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』マーシャル・B・ローゼンバーグ(安納献監訳・小川敏子訳/日本経済新聞出版、2012年)
『 自分と相手の「本音」がわかる会話術 』
「自分も相手も大切にするコミュニケーション術」を、①自分の本音に気づく→②相手の本音を聞く→③自分の本音を伝える、の3つのステップで解説。心の奥に隠された「本当に言いたかったこと」とその上手な伝え方がわかります。ビジネス・日常のあらゆるシーンで応用可能です。
西任暁子著/日本経済新聞出版/880円(税込み)

