トヨタ自動車に21年勤務後、トヨタ自動車の仕入れ先である部品メーカー・旭鉄工の社長に就任した木村哲也氏が、AI活用を前提とした経営を実践してきた経緯をまとめた書籍『 AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル 』(日経BP)。書籍から冒頭部を抜粋し、旭鉄工が実践している「AIファースト経営」事例を紹介する。その第1回。

製造現場の問題点を見える化するiXacs

 旭鉄工のDX(デジタルトランスフォーメーション)はIoT(モノのインターネット)で収集されたデータが起点になっている。AI活用についても同様だ。そこで、まずは自社で開発したIoTシステムiXacs(アイザックス)について説明する。

 iXacsは、旭鉄工が自社開発した製造現場向けのIoTシステムだ。各製造ラインにセンサーを取り付け、生産数、稼働・停止・チョコ停(短時間の停止)、CT(サイクルタイム)といった稼働状況を自動で取得し、クラウド上でリアルタイムに把握できるようになっている。

 iXacs開発以前は、生産数を含め様々なデータは手書きのものが存在はしていたが、収集が大変な上にデータは不十分で、集計の手間もかかっていた。使いにくく、数少ないそのデータですら活用されてはいなかった。記録しているだけだったのだ。

 iXacsの目的は、現場で起きていることを事実として捉え、カイゼンの出発点となる問題を可視化することにある。単なる数値の表示にとどまらず、CTのばらつきや停止時間と時刻、その要因などについて、パソコンやタブレット、スマートフォンなどで問題が視覚的かつ定量的に把握できるようになるよう設計されている。

 iXacsを導入したことで、現場の意識は劇的に変化した。しかし、多くの製造ラインのデータが見えるようになったことで、次なる新たな課題も浮かび上がってきたのである。

AIの指摘で現場が動く

 旭鉄工には約200の量産製造ラインがあり、すべての稼働状況がiXacsによって常時データ化されている。データ収集の手間がなく、グラフ化も自動で行われるためカイゼン活動は格段に楽になった。しかも、データ更新はリアルタイムだ。製品ができるのとほぼ同時にデータが表示される。人間によるデータ収集では不可能なレベルだ。しかし、数値を見て異常を探し、現場で詳細を確認し、ようやく判断ができる。この一連の流れには、どうしても多くの時間と熟練者の目が必要だった。

 多くの会社がここでつまずく。IoTで稼働状況を見える化しても、データを見ないことには話は始まらない。パソコン、タブレット、スマートフォンなどのブラウザーでデータにアクセスする必要がある。データはあるけど、見ていない。よくある話だ。

 旭鉄工では、iXacsデータで会社の仕組みとしてカイゼン活動を行うからこそしっかり活用されている。しかし、このカイゼン活動はリアルタイムで行われていたわけではない。特定のカイゼン対象ラインにおいては毎日、前日データを確認するものの、それは3カ月程度のスパンでのカイゼン活動の観点が強く、リアルタイムで問題に対処するというものではなかった。

 なぜなら、ここには人の情報処理能力の限界という大きな壁があったからだ。人が毎日200ラインすべてのデータを見て、認知し、分析するためには多大な工数がかかるため、現実的には難しい。カイゼン活動にはデータを使えているが、リアルタイムのデータを使ってすぐに現場の対応をすることはできなかった。せっかくリアルタイムのデータが見える化されているが、活用しきれない状態だったのだ。

AI製造部長が問題のあるラインを抽出

 トヨタ生産方式には「正常を管理するな、異常を管理せよ」という言葉がある。異常なラインを見つけて直すのが重要なので、正常なラインは管理しなくていいという考え方だ。

 そこで、「AI製造部長」の出番である。人が何もしなくても問題のある製造ラインをAIが見つけ、コメントを付けて自動的にSlack(ビジネス・チャット・ツール)に投稿してくれる。

 なお、旭鉄工の西尾工場で活躍しているのが「AI犬塚部長」で、本社が「AI_Yonezu」である。2人の部長級のAIであり、AI製造部長として総称される。

 観察の観点は①出来高率と②職制呼び出し状況の二つである。

観察の観点1 出来高率

 製造ラインのパフォーマンス判定の基本はこの出来高率である。例えば、CTが36秒だとすると、停止がなければ1時間に100個作ることができる。実際の生産が1時間に80個だったなら、出来高率は80%となる。

本社製造部のAI製造部長が出来高率をチェック
本社製造部のAI製造部長が出来高率をチェック
(出所:書籍『AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル』)
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 旭鉄工では、この出来高率の目標をライン別に設定している。目標をクリアしていれば「〇」、少し足りなければ「▲」、大幅な未達なら「×」がつく。そして、コメントもAIが作成してくれる。人間が取るべき判断の入り口といった位置付けである。これは現状、旭鉄工の本社製造部と西尾機械製造部で使われており、110人程度が閲覧している。

観察の観点2 職制呼び出し状況

 iXacsには、上司を呼び出したり、何らかの処置を行ったりした実績のデータも記録されている。このデータはいわば問題があったことを示しているわけなので、製造ライン管理にとっては極めて重要である。

AI製造部長が職制呼び出し状況をチェック
AI製造部長が職制呼び出し状況をチェック
(出所:書籍『AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル』)
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 そこでAI製造部長は、この職制呼び出しや処置履歴に着目し、発生頻度や時間帯、設備について、「どこでどういう異常が多発しているか」を自動で抽出している。重要なのは、呼び出しが発生しているという事実そのものだ。正常なラインは呼び出しが発生しない。逆に呼び出しが多いラインには、必ずムダやトラブルの原因が潜んでいる。だから見るべきはこの「異常の痕跡」である。AIはその異常を抽出し、取るべきアクションを簡易的に示し、現場はそこに集中して対策を打つ。

AI虎之介による詳細なレポートの作成

 AI製造部長の役割は、広範な製造ラインを俯瞰(ふかん)し、問題のあるラインを抽出することにある。それを受けて「AI虎之介」は、指摘された異常ラインに絞って詳細レポートを作成する。

AI虎之介のレポートを基に課長から現場へ対応の指示が飛ぶ
AI虎之介のレポートを基に課長から現場へ対応の指示が飛ぶ
(出所:書籍『AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル』)
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 トヨタ生産方式の「正常を管理するな、異常を管理せよ」という考え方の通り、正常なラインの報告は最小限でよい。異常が検出されたラインの素早い復旧と、再発防止の仕組み作りにリソースを集中すべきである。

 旭鉄工では、前日の稼働状況に加えて製造現場管理のノウハウをAIが併せて処理し、レポートを自動作成することによって「認知」と「分析」という判断の前工程をAIに移し、人は「判断」と「実行」に集中できるようにした。

 具体的には、管理者が前日のiXacsデータをAI虎之介に与えると、旭鉄工のデータ活用ノウハウに照らして、観察ポイント、評価、詳細分析、関連4M(Man、Machine、Method、Material)についてレポートが作成される。管理者はそのレポートを自身のコメントとともにSlackに投稿する。担当者である係長や班長がそのコメントとレポートに基づき対応を行う。つまり、AIが「認知・分析」した結果を受けて、担当者はその日中に現場で事実を確認し、「判断」と「実行」の結果を回答する。そういうルールを徹底している。

 人がIoTデータを見て問題点を探し、レポートを書くという従来の手法では、このスピード感は到底実現できない。認知と分析をAIが担い、人が判断と実行に専念する。この明確な分業と、「AIが指摘したら、現場は即座に動く」。このルールを徹底することこそが、旭鉄工流のAIファースト経営だ。

 現在、これは西尾機械製造部で実際に運用されている。このレポートを直接閲覧可能なメンバーは約70人である。

 ここまで紹介したように、旭鉄工ではAIを前提に仕事の仕組みが再設計され、人の動き方そのものが変わり始めている。「AIの指摘で現場が動く」という状態が既に実現しているのだ。旭鉄工で起きている変化はこれだけではない。AIを前提に仕組みを再設計している実例を引き続き紹介していく。

旭鉄工の4種類のAI活用方法

 通常のChatGPTなどの生成AIを使った検索や文章作成、イラスト描画などについては多くの書籍やネット上の情報で解説されているので、ここでは扱わない。ここで扱うのは、単なる便利ツールを超えた、「実戦で成果を出すためのAI」だ。特に、社内のノウハウを活用したり、企業の哲学を反映させる方法を取り入れたりする旭鉄工のAI活用術である。それは次の4種類に大きく分けられる。

  • 社内ノウハウ活用
  • 哲学の共有
  • 部門のものさし
  • 思考の型の伝承

 旭鉄工のAI活用は、「社内ノウハウ活用」から始まり、「社長の哲学の共有」、そして「部門のものさしの共有」「思考の型の伝承」という順で発展を遂げてきた。本特集の第2回以降で、それぞれについて実例とともに紹介しよう。

(写真: InfiniteFlow/stock.adobe.com)
(写真: InfiniteFlow/stock.adobe.com)

(書籍『AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル』を基に再構成)

日経クロステック 2026年7月21日付の記事を転載・改題]

自動車部品メーカー・旭鉄工のAI活用ノウハウを社長自らが解き明かす。「ChatGPTを入れたが、使いこなせる社員があまりいない」「AIの回答が一般的すぎて、実務で役に立たない」「そもそも何から始めたらいいのか、わからない」。そんな悩みを抱える経営者やリーダー、現場社員必読の1冊です。

木村哲也(著)/日経BP/1980円(税込み)